第21話 ついやってしまった彼女
堅山さんはよく話をする子だ。
クラスでの友人達と会話を見ていてもそれは思っていた。
常に彼女の明るい声が教室に響いていて、俺はそれを周囲の音として聞くだけだったが、今はその声が俺に向けられている。
なんだか変な気分だ。
「ね、ねぇ……こ、今度の土曜日さ……」
「え? うん何?」
土曜日?
あ、これは恐らくデートのお誘い!!
俺はそこら辺の鈍感ラブコメ主人公ではない!
赤らめた頬、モジモジしながら話し難そうに話すこの態度。
間違いない!
堅山さんは俺をデートに誘おうとしている!
可愛い!
いや、違う!!
残念ながら土曜日は用事があるのだ。
まぁ用事とは言ってもただのバイトなのだが予定に変わりはない。
問題は彼女を傷つけずにどう断るかだ……。
「あ、あのさ映画のチケットがあって……」
え?
何?
まさか買ったの?
チケット買ったの?
高校生の小遣いで映画のチケットはかなりの出費だ。
俺もバイトをしているのでお金の大切さは分かっているつもりだ。
しかし、土曜日は用事があるし……どうせ俺と行かなくても他の奴と行くよな?
「ごめん、土曜日は予定が……」
おい!
そんな絶望したみたいな顔をしないでくれ!
なんでクラスで公開告白並の荒業をやってのけるくせに、なんでここでそんなショックを受けるんだよ!
「そ、そっか……だ、だよね……突然だったし……」
「あぁ、いやあの……に、日曜なら!」
あれ?
何を言ってるんだ俺?
なんで自分から日程の変更をお願いしてるんだ?
俺は堅山さんとデートに行きたいのか?
いや、行きたい!
行きたいけど怖い!
俺のヘタレな一面とか情けない一面を見られて嫌われるのが怖い!
だから一緒に行くのは嫌な気もするが……可愛いんだよなぁ……。
そんな可愛い子がこんな悲しそうな顔してたらこんなことも言いたくなるよなぁ……。
「いいの?」
「あ、う……うん」
うわぁ……めっちゃ良い笑顔……普通に可愛い……こんなの断れる訳ねぇじゃん。
てか、なんでこんな可愛い子が俺を好きなの?
全然分からないんだけど!
これって現実?
「じゃぁ、日曜日の朝に映画館で待ち合わせで良い?」
「あぁ、良いよ」
「ありがとう! 楽しみにしてるね!」
「いや、誘ってくれたのは堅山さんじゃ……」
「石嶋君と一緒なのが嬉しくて……えへへ」
あぁ……可愛いって本当に正義だなぁ……俺がえへへなんて言ったらキモイのに、堅山さんが言うとメチャクチャ可愛く見える。
その後、俺たちは店を後にして駅に向かった。
「ねぇ、手とか繋いでも……」
「ダメ」
「っち……」
「なんで舌打ち……」
「いや、この雰囲気なら行けるかと思ったから」
「そんなに良い雰囲気でも無い気が……」
映画の誘いをOKしてから堅山さんは機嫌が良い。
駅に向かっている時もずっとニコニコしていて、常に俺を見ている感じだった。
「そう言えば石嶋君って私が下りる駅の一つ前の駅だって知ってた?」
「え? そうなの?」
「やっぱり知らなかったんだ」
「いや、あんまり気にしたことなくて……」
「私はずっと見てたよ?」
「なんかその言い方少し怖いな……」
「なんで?」
「なんかストーカーっぽい」
「失礼ね! 私はストーキングなんて……してないわ」
「待て、なんで視線を反らす!?」
「してないわ……ちょっと家を知りたくて後を追いかけただけよ……」
「それをストーカーって言うんだよ!」
「だ、だってなんか気になっちゃって……駅から結構近いのね……」
「マジでやったのかよ……」
なんか少し怖くなってきた……。
え?
陽キャでもストーキングとかするの?
「し、仕方ないじゃん! 好きだけどどうしたら良いか分からなくてつい……」
「ついでやる事じゃないだろ……」
現実ラブコメは甘くない!! Joker @gnt0014
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