04.BL皇太子と寡黙な騎士王子(アレクサンドル視点)
「今回も有意義だったな……テオは本当に可愛らしいな……」
王宮には夕方には戻った。あまり長居をしてはエリナに迷惑をかけてしまうから。正直、私が通うこと自体が完全なる迷惑ではあるが、それでも未解決事件についてエレナと話す趣味の時間も、テオに、私の愛してやまないテオエルに会うことを止めることはできない。
「兄上、随分遅い御帰りですね」
そう不愛想な声が掛かる。そこには私より頭ふたつ分くらい背が高い男が立っていた。がっしりとした体格からは騎士のように見える彼は、私の弟であるピョートルだ。
「ああ、ただ、誤解はしないでほしい。私とエリナはあくまでただの幼馴染みで……」
「けれど最愛の人なのでしょう??兄上、分かっていると思いますが貴方が俺の婚約者と逢瀬を重ねることはけっして良いことではありません。結果的に兄上の評判もエカチェリーナの評判も同時に下がるのです」
ド正論である。それは分かっている。ただ本当に私とエリナは友人で、もっというと最愛の人はエリナではなくテオである。
しかし、ピョートルからすればそれは酷い裏切りのように感じることも分かっているし、他の貴族から見ても弟の婚約者に手を出す痴れ者に見えているだろう。
ピョートルは責任感の強い子だ。だから兄が自分の婚約者と親しいと知れ渡ることが良くないことであると考えて、皇族の名誉のために、諫めているのだ。
(本当に真面目な良い子だな。けれど目的のために私はピョートルの忠言を聞くことができない。そう、かの女狐を潰すまでは……)
エリナとテオが大切なのと同じくらい、自分を心配してくれているピョートルも大切だ。けれど、どうしても私にはひとつしないといけないことがあるのだ。
この国の皇子は現在3人おり、私の母である皇后には、私とピョートルが、側妃であるソフィア妃にはピョートル殿下と同じ年の第3皇子ボリスがいる。
父上は皇后である母を愛しているが、隣国の姫である母との政治的なバランスのため、側妃を娶る必要があった。そして、側妃は皇族とのつながりが深いバザロフ公爵家のご令嬢が選ばれた。エリザベートの伯母に当たる彼女は蛇のような女だ。
これはあまり公にされていない話だが、ボリスは父上の子供ではないという噂もある。しかし、その噂を晴らすのに最もてっとり早い「祝福印」については側妃が拒んでいるらしい。
しかし、「祝福印」は義務ではない。なんらかの不貞についての問題が上がった時は行う必要があるが、ボリスを皇太子になる可能性は低いため、儀式を行わないでいる。
それは、バザロフ公爵家は我々の大伯母に当たる姫が降下しており、王族の血を確かに引いていることも影響していた。例えボリスが父上の子でなくても王族の血は一応守れらる。
それに対して、私達の母は隣国の王女であるため、後ろ盾は大きいがこの国の王族の血を引いていない。
皇后の子である私とピョートルにのみ、現行、皇太子になる権利は発生している。側妃とはいえ、王族の血を引く元公爵令嬢はそれが、面白くない。
また、公爵家の権力バランスを取るために、エリナはピョートルと婚約しているが、現段階で釣り合うものが見つからず、婚約者のいない2つ年上のバザロフ公爵家の令嬢エリザベートは、それが面白くないようだ。
実はエリザベートは私やピョートルの婚約者候補であった。けれど、ミハイロフ公爵家とバザロフ公爵家のバランスを考えて、エリナがピョートルの婚約者になった。なら、私と婚約させればよいと思うだろうが、申し訳ないが私は誰とも今は婚約するつもりがない。
諸々が思い通りにならなかった原因をエリザベートはエリナのせいだと考えていて、嫌がらせをしている。
それについてテオが守れなかったと落ち込んでいたが、お茶会などのような社交の場の中まで執事は入り込めないのだから仕方ない話なのに、可愛いテオは死にたいと泣いていた。
(可哀そうなテオ。あの薔薇色の頬にキスをあげて慰めてあげたいな、テオは天使のようだから……)
テオは私にとってかけがえのない存在だ。この国の王家の血筋は実は、ものすごく呪われている。具体的にどう呪われているかというと我々は初恋をした相手に異常に固執ならびに執着する。そしてその初恋をする相手が異性や兄弟、姉妹ではないとも限らないのだ。
隠しているが、現行の皇帝である父は実は隣国に嫁がされた妹姫をずっと愛していた。妹姫が逃げるように隣国に嫁ぎ、入れ替わりやってきた私達の母がこの国の皇后になった。一応今は、ふたりはおしどり夫婦のように見えるが、昔は母に酷いことを言っていたと聞いている。
しかし、今となってはその気持ちが分かってしまうのが辛い。私もずっとテオ以外についてはどうでも良いと思ってしまっているのだから……。テオを人質に取られたら正直なにをしでかすが自分でも分からない。
だから、側妃の手の者達から守るために、秘密裡に囲いたいがエリナや公爵家には拒まれている。だから仕方なしに弟の婚約者に会いに行く頭の悪い皇太子のふりをしている。けれど、それもいつまでも続けられはしない。
本来なら、このことはピョートルにも話すべきなのだけれど、この子はとてもまっすぐだから騙されて敵に話してしまう可能性が拭い去れないので難しい。
だから……
「評判が下がることは構わない。ピョートル、すまないがあのふたりに会うことをやめることはできないよ」
曖昧に微笑んでみせると、ピョートルが一瞬とても切なそうな顔をした気がした。色々のけ者にしているようでとても申し訳ないと思う。
「……」
無言で立ち去るその背中に「すまない」と声を掛けながら、なんとか女狐狩りの算段を考えることにした。
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