ビフロンズ

平 一

ビフロンズ

目の前に悪魔が現れた時、

私は迂闊うかつにもぼんやりとしていた。

……いかんいかん。

魔導師として、あってはならないことだ。


召喚儀式は術者の精神にも影響を及ぼし、

意識をとおのかせることがある。

これは、相手によっては命取りになる。

悪魔の召喚は、極めて危険な行為なのだ。


魔王ははかなげな印象のある、

愛らしい少女の姿をとっていた。

『私の名前はビフロンズ……ああ、

ご存知ですのね? 嬉しいわ』


私は心の中にある、願いの言葉を口にした。

すると彼女も、喜んだ。

『死別した恋人と再会したい? 

良かった、相手の方もそれをお望みです!』


私はすぐにそれを実行するよう命じたが、

返ってきたのは意外な言葉だった。

『ご免なさい、初めに申し上げませんでしたね。 

呼び出されたのは、貴方のほうなんですよ……』


そのときようやく私の脳裏のうりに、

最後の召喚儀式に失敗した時の、

恐ろしい記憶がよみがえってきた。


悪魔召喚は、極めて危険な行為なのだ……。

改めてその思いを噛みしめながらも、

私は素直に、差し出された彼女の手をとった。



ビフロンズ:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱ひとはしら

占星術、幾何学、鉱物学、薬草学に詳しく、

降霊術や死びと遣いネクロマンシーの能力がある。

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ビフロンズ 平 一 @tairahajime

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