第66話 総力戦〜どちらが本当の悪魔かを①
「———グレイプニル」
フェルは鎖を出現させ、すぐさま起動。鎖で魔族の身体を締め付けて倒す。
「ギャッ」
短い断末魔上げ、一体が倒れる。
「ナンダ、貴様ッ」
仲間が殺され、矛先がこちらに向く。
「あー、はいはい。こうなるよね」
僕も
「意外と簡単に倒せるな」
「クロウ様、早く終わらせたらちゃんとあーんで食べてもらいますから」
「えー……」
手を抜いて長く続くようにしようかな。
本当に早く終わらせたいのか、フェルに手加減という文字は見当たらず、怒涛の勢いで魔族を倒していく。
その華奢な身体付きからは想像できない、鎖の暴力的までの使い方。力で締め付け、圧力で殺す。
うん……僕もびっくり。
地上にいるのはある程度倒した。
空を見上げると、黒い物体。魔族が飛び回っている。
「そこまで強くないけど、数が多いって訳ね」
数をこなさないといけないというのは面倒だ。
ひと段落ついたので、魔道具『デンワ』を起動。全員同時に通話をかける。
「もしもーし、みんな大丈夫?」
『こっちも魔族が現れたけど、問題ないわ』
『クロちゃん! お姉ちゃんが今助けに行くからね! そして愛の抱擁をして熱いキスを交わs——』
『クロくんこれ新しいアトラクション? 全然歯応えなくてつまんないよー。ねぇねぇこれ食べれたりしないかな!』
『私は大丈夫です、クロウさん。次は私と2人っきりでしたけど……もちろん邪魔が入った分の時間だけ延長ですよね?』
『ん、アリーも大丈夫。余裕。ユマも平気。ちゃんと力が暴走しないか見張っとく』
『にぃに、ユマ頑張るから、ご褒美ちょーだい!』
『鬱陶しい下級魔族どもめ……若、わたしの事はお気になさらず、どうか安全な場所でお過ごしください』
『オラッ! ホコリを舞い上げる程度の攻撃でいちいち勝ち誇ってんじゃねーよぉ! 主、俺も余裕です。つか、鬱憤バラシに丁度いい』
うん、みんな大丈夫そうだ。
倒した後の方が心配だけど。
「俺たちも加勢するぞ!」
無事、武器を取りに行けた冒険者たちが次々と集まる。
うぉぉぉ! と勢い任せに刃を食い込むも、斬れずに跳ね返された。
「コイツらの身体硬っ!」
「なんであの2人は最も簡単に斬ってたんだよ!」
「弱点があるんじゃね? ……魔族の弱点ってなんだ! アンタらそんなに倒してるなら知ってるんだろ! 教えてくれよ!!」
「弱点と言われても……」
フェルの方に視線をやる。
「弱点? 弱点なんて、体を粉々にしてしまえば死にますよね」
「え、えー……」
冒険者たちが引いた目で見る。
弱点とか、相手の隙を突くのではなく、正面から完膚なきまでに潰す。そして実力の差を分からせ、2度と刃向かおうなんて思わせない認識を植え付ける。
「ふふ、ふふふ……クロウ様との大事な、貴重な2人きりの時間を邪魔した罪は重いですよ……ふふふ、ふふふ」
黒い笑みを浮かべながら鎖を操り、空中にいる魔族を捕まえ、地面に叩きつけている。
これじゃあどっちが悪魔が分からないや。
「ここはフェルがいれば大丈夫だし、僕は別の場所にでも——」
その時、膨大な魔力を傍に感じた。
「キシャシャシャ、お前たちが一番強いみたいだなぁ」
頭上から声がしたと思えば、他よりも筋骨隆々のたくましい肉体した魔族が地上に降りてきた。
巨体を揺らしながら大股で近づいてくる。
「……貴方、他の魔族よりも魔力量が多いですね、ボスか何かですか?」
「ボス? キシャシャシャ、コイツらのボスとか恥ずかしくて名乗れねぇなぁ。こんな奴らは遊びにすぎねぇ。ただの玩具だよ、玩具。お前らみたいな強い奴を炙り出すためのなぁ、キシャシャシャ」
魔族は機嫌よく笑う。耳障りな笑い声が空間を満たす。
「……っう」
その間、フェルは力を込めるよう、息を短く吐いたと思えば、鎖を魔族の首に巻きつけた。
ミチッ……ミシッ!!
首元が締め付けられ、鎖が貫通。分裂する。
一拍おいて、地に落ちたのは首なしの魔族。断末魔を上げることなく、ガンッ! と大きな音を立てて地面にぶつかった頭が、コロコロと転がる。……かに見えたが、角がひっかかりすぐに止まった。
「まぁ一筋縄ではいきませんよね」
「っ、あ? 俺様がぁ、機嫌良く笑っている時に切るんじゃねぇよぉ……なぁ、キシャ、キシャキシャ」
気持ち悪い笑い声。
生首がこちらを睨む。
生首がのうのうと喋っているもの気になったが、首の方も残った体の方も断面に血痕のようなものは見当たらなかった。
「なるほど、そういう事ですか。悪魔とデュラハンのハーフといった所でしょう」
「デュラハン?」
目の前の魔族ははただの悪魔種ではなかったようだ。
デュラハンとは首の無い騎士のような外見の魔族で、普通は角や翼は生えておらず、首の無い馬に乗っているという珍しい種族。
実は魔族ではなく妖精の一種だという話だが、一般的には魔族として扱われている。
どうやらこの魔族は悪魔の特徴である側頭部の角と背中の羽に、デュラハンの特徴である首が取れるという2種族の特徴を兼ね備えているらしい。
「ってことは……不死身ってこと?」
「そうなりますね」
じゃあキリがないじゃん。潰しても斬っても、平気なんだから。
首なしの魔族は、地面に落ちている頭に近寄ると、角を掴んで持ち上げ、首をくっつけた。
そしてさぞかし面白そうに笑う。
「ヒヒッ、そうだぁ。俺様は不死身なんだよぉ……つまり戦っても倒せない。可哀そーだなぁ。強いのに俺様だけはどんなに戦っても倒せる見通しが立たず、無様に死んでいくんだかなぁ……。キシャ、あまりにも可哀想だから特別に俺様の名前を教えてやるよぉ……俺様はイーフリート。ヒヒッ、最凶の炎の使い手さぁ」
パチンと指を鳴らしたと思えば、黒紫色の爆炎がビーム状に放たれた。
一瞬の出来事にも関わらず被害は広範囲。
頑丈な作りのオルフェンリゾートの建物に引火し、一瞬で灰になる。
「きゃぁぁぁぁ!!」
「おい炎が迫ってくるぞっ。海の方へ逃げろ!」
「あんなやばい奴がここにいるとか、ふざけんなよッ!」
取り残されていた観光客はパニック。
冒険者たちも尻込みしている。
「ヒッヒッ……弱い奴らがなす術なく騒ぎ立てる惨めな姿……キシャキシャキシャ、あー……いつ見ても哀れで気持ちいなぁ……」
視界が炎、炎、炎……地獄図。
周りは炎に包囲されて逃げ場がない。凄まじい熱量が襲いかかる。
僕らならこのくらいなんの問題もないが、今回は観光客という守らなければいけない存在がいる。
先に炎を消して安全を確認してから戦うか……。
「どうするフェル……さん?」
隣から炎よりも怖い、怒りを感じた。
「今の攻撃で私がクロウ様にあーんしようとした食事が燃え尽きてしまいました……。ただでさえすこぶる機嫌が悪いのに……はぁ、決めました。貴方は私が殺します」
フェルは鎖を7本出現させ、静かに言う。
「『
不数の鎖が拘束回転し、円を描く。
7本の鎖が炎の中に突っ込んだ。
「キシャキシャキシャ、そんな鎖で何ができる。炎を消すには俺様の魔力を上回る水魔法しか——……ぁぁん?」
イーフリートの言葉が疑問に変わった。
何故ならあんなに燃え盛っていた炎が嘘のように消滅したから。
「……水魔法でもない、ただの鎖如きで俺様の炎を一瞬で……何をしたッ女ぁ……?」
「何をって、炎って風で消せるじゃないですか」
「……はぁ?」
イーフリートが間抜け声で首を傾げる。
まぁ普通の人からして何を言っているか分からないだろう。僕は分かるけど。
ロウソクを団扇で仰げば火が消える、それと同じ原理だ。
鎖を拘束回転させ、その際に巻き起こった風で炎を消したとか。
……ん? やっぱりおかしいな。鎖を回したぐらいでそんなに風は起こるのか? まぁ何かの魔法と思っておけばいいだろう。ここは異世界なんだから。
それにしても、フェルがちょっとした魔法を使うなんて珍しい。
「あぁ女ぁ……おもしれねぇなぁ……顔もスタイルも完璧で、おまけに強い……。キシャキシャ、いい女だぁ……手に入れたくなったぞ……」
「私はクロウ様の物なので間に合ってます。さぁ早く次の魔法を見せてくださいよ、無効化してあげますから」
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