第65話 2人で楽し……あ、ああ…… (フェル編)

「フェルはどこだろ」


 アトラクションを一通り回ったが、姿が見当たらない。


 ユマとアルマの時には行き当たりばったりで見つかったらから、いけると思ったが……。


 僕は腕を起動させ、ワースト・デ・ランドのマップを表示。そこからフェルの位置を探る。


「フードコートにいるのか。そりゃアトラクション系を探し回ってもいない訳だ」


 腕輪にはGPSのように相手の位置が分かる魔法が掛けられているらしい。

 最初から使えよって話だよね。

 子連れのお客さんとか子供が目を離した隙に行かなくなったりした時、すぐ見つけられるから便利だよなぁ。


 フードコートに着くと、昼時とあり客で賑わっていた。テーブルが用意され、料理を並べて楽しむ。その一角にフェルはいた。


「クロウ様、こちらです」


 手を振って位置を教えてくれた。


「フェルはアトラクションに乗らなくて良かったの?」


「はい、私はどちらかというと鑑賞の方が好きですから。それにクロウ様はユマ様やアルマ様に振り回されていてお疲れだと思ったので」


「ご名答だ」

 

 ユマやアルマがたくさんのアトラクションに乗りたい、乗りたいの連れて行かれて2時間。ちょっと疲れた。


「ちょっどお昼時ですし、私との時間はゆったりランチといきましょう」


 と、目の前にテーブルに広がる大量の料理に目をやる。

 これ遠くからでも見えたけど、改めて凄い料理だな……。


 豪快な肉料理から始まり、魚、サラダ、パン、パスタ、デザート系……。


「さぁ、召し上がってください」


 うん、絶対食べきれないね。食べきれない分はガルガとホルスの大食いコンビが食べてくれるだろう。


 召し上がってと言われても大量の料理を目の前にしてどれから手をつけていいか迷う。


 ……やっぱり最初はお肉かな。


 左側で存在感を見せつけるように、皿の上からはみ出す肉の塊に手を伸ばす。

 

 串に肉の塊を刺し、炭火でじっくり焼いたもの。岩塩や専用のソースで味付けして食べるようだ。サイズはケバブくらい。


「い、いただきます……あむっ」


「クロウ様、豪快で素敵です」


 真ん中を齧ったけど……食べにくいなぁ……肉、重いし。

 

 味は……めちゃくちゃ美味い。

 大きいのにも関わらず、ちゃんと中まで火が通っている。周りはカリッと中は肉汁たっぷりのジューシーな仕上がり。付けたタレは、肉に合う甘めで、自然なとろみとコク。


 もぐ、もぐもぐ……うん、美味い。

 ただ、これはお客さんの目の前でスタッフが切り分けするのもではないかと思った。フェルが無理矢理言って持ってきたの?


「はぁ〜、ご自分のお顔よりも大きなお肉に豪快にかぶりつくクロウ様……素敵です」


 僕が肉になんとかかぶりつく姿を、フェルはニコニコといった表情……ちょっと興奮してる? といった様子で見守っているだけ。

 

 まさかこれ全部食べろとか言わないよね。1人フードファイト?


「あっ、クロウ様、お口にソースが」


 食べ進めていると指摘された。


 こんな肉の丸焼きを食べて、口にソース付けないのは無理だよ。


 フェルが口の端にハンカチを当てて拭き取ってくれる。


「ん、ありがとう。そのハンカチ貰うよ」


 ソースを拭き取ったハンカチを持っていても邪魔なだけだろう。


「いえ、大丈夫ですよ、これは大切に保か——んんっ。洗濯しておきますから」


 今、保管と言いかけたのは気のせいだろうか。いや、絶対言った。最初の大切にからおかしかったもん。


「人の口に付いたものを拭き取ったんだよ? 汚いでしょ」


「汚くありません。と言ってもクロウ様だからですけど」


 さっき自分が保管しようとした事、認めたね。


「あとさ、僕のお気に入りの服がいくつか無くなってるんだけど……知らない?」


「知りません。それよりもクロウ様、早く食べないとお料理が冷めてしまいます。なので私が食べさせてあげます。ほら次はどれが食べたいですか?」


 誤魔化すようにめちゃ早口なった。


「次の料理に行く前にまずは水分を取ってお口直しをですね。ではあーん」


「いや、ストローをあーんされても。さすがに飲み物はあーんしなくていいから……」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「「っ!?」」


 奥から悲鳴が聞こえてきた。人の声だ。

 アトラクションに乗って出た声じゃない。危機や恐怖に怯えてて出た切羽詰まった声色。


 途端に緊張感が高まる。


「あっちから聞こえてきたよね」


 視線を向けると、人々が何から逃げるように必死に走っている。

 

 何から逃げているかはすぐに分かった。


「ヒヒッ、弱いニンゲンが逃げてる」

「弱いなぁ……弱くて可哀想だなぁ……なのに金と食糧と女はある……憎いなぁ……アア……殺してしまおう」


 側頭部の羊のようなくるりとした角と、背中の黒いコウモリのような翼と尻尾の生えた人型の怪物が数体。


 見た目だけでいうなら魔族。

 僕もちゃんと見たことがない。魔族は滅んだと聞いたことがあったが、存在していたのか。


「なんだよこの怪物ッ!」

「俺たちのギルドが戦わないとっ!」

「って、あー!! 武器は預かってもらってるから無いじゃないか!!」


 一方で、魔族に立ちむかおうとしている冒険者たちが入り口の建物に武器を取りに走る姿も。

 

 さらに黒い何かが次々と頭上を飛行していく。これ、全部魔族……?


「なんで魔族がいきなり……。フェル、みんなにデンワして状況確認……を?」


「どうして……どうして私の時だけこんなにも運が悪いんでしょうねぇ……」


 手に持ったグラスに力を込める。


 パリンッ!


「ひっ……」


 ガラス製のコップが豪快に破裂。 

 結構分厚くて割れにくそうだったのに……。


「さっさと終わらせましょうか、クロウ様」


「う、うん……」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る