第34話 【パンディーside】アイツは最高峰のリーダー
———最強ってそんなに偉いのかしら?
ルルシーラからの問いかけに朦朧な意識でパンディーは反応する。
「最強が……偉いに……決まってるっ」
「そう、貴方ならそう答えると思ったわ。けど私たちからしたら不正解」
ルルシーラはそう言うと、パンディーに自らの指輪をはめ、傷を回復する。
「言っとくけど、さっきみたいに襲ってきたら容赦なく殺すから」
「ほ、本当に傷が治った……。ああ、もちろんだ……」
あんな痛い思いはしたくないと、パンディーは首を縦に振る。
「さっきの続きだけど、最強は偉いとは限らない。それは場所と人で変わる」
「……はぁ?」
「力を持っていても周りに人がいないと自分が最強なんて分からない。最強っていうのは周りからの評価であって、自分からは名乗らない。けれど、周りに人がいたとしても化け物と罵られたり、強さゆえに嫉妬され裏切られたり……最強というのは時に最悪なのよ」
パンディーは強さゆえの辛い経験がないのでルルシーラが言っていることが理解できなかった。
強い事の何が悪い。反発する者がいるなら強さで従わせればいい。
「分からないって顔をしてるわね。じゃあ質問を変えるわ。自分より強い者に強い武器を与えるのがどれほど凄いかわかるかしら?」
「自分より強いってことは……相手の得にしかならないだろ。つか、自分が弱くなるじゃん」
「そうよ。なのにクロウは——自ら最強を手放したのよ」
「っ……」
強さを、最強を手放した……だと?
パンディーの反応を確認して、ルルシーラは続ける。
「だってそうでしょう? 強力な武器なんて渡さなければ彼が
パンディーは考える。
もし、自分が強力な力を持っていたとする。その一部をわざわざ他人に渡すか?
答えは——NO。
それほど強大な力があれば1人で突き進む。
最強、勝ち組、成り上がり、唯一無二……
進んだ先にある称号を得て、強さへの絶大な信頼で連いてくるのが仲間。そして遅れて無能と見做した人々が真の実力に気づく。
それが最強。
「努力して手に入れた力で復讐、運良く手入れた力を我が物顔で無双……どれも個人の自由。けれど、強さ以外でも人は惹きつけられる。それが——人柄よ」
「クロウ様は見捨てられた私たちに手を伸ばしてくれました。それだけではなく、自身が弱くなる、裏切られるリスクを負いながらも強力な武器を渡してくれた」
「ん、だからアリーたちはマスターを守る」
「守るためには力が必要。だから強くなるの当たり前」
「恩ほど人を強くするものはないわ。だから私たちはクロウに忠誠を誓い、崇拝する。これは最強が繋いだ絆じゃない。彼の人柄、『優しさ』が繋いでくれた他のギルドにないもの。だから
さらにルルシーラは続ける。
「クロウはいずれ各ギルドの中でも最高峰のリーダーになるわ。それは絶対私たちが叶える。その地位を脅かす者が現れたなら、容赦なく叩き潰す」
その瞳は本気だ。
周りから強いと煽てられ、ギルドでも一番強い。けれど、いざ他のギルドに行けばボロボロのこの有様。
パンディーは今まで味わったことのない喪失感に襲われた。
「ハッハッ、何もかも俺の負けだな……」
仮面野郎に対して、いや、とんでもない相手に喧嘩を売っていた。
自分の力の一部を他人に渡すなんて俺にはできない。それがギルド全体を強くする最適方法だとしても。
だって自分が他人より強い存在でありたいという願望が勝つから。
……アイツは最高峰のリーダーなんだ。
「ああ、話してくれてありがとう……。俺はもう
パンディーは地面に額をつけ、土下座した。
「そう、改心したのね」
「ああ、お前たちの言葉で改心した。俺は仲間と一緒にもう一度強くなる方法を考えるぜ」
「そう」
このままいい雰囲気で終わ——らないのが
「言葉だけならなんとでも改心したと言えるわ」
「は、はい……?」
ふふふ、と不気味な笑顔の女性陣。
「まだ2日あるじゃない。身体にみっちり叩き込んであげる。二度と女を抱こうなんて思わないように……」
「え……ああ……ああぁぁぁぁぁぁーー!!」
「へっくしょん!!」
「クロウさん風邪ですか?」
「いや、風邪ではないと思うけど……誰かが僕の噂でもしてるのかなー」
クロウがメンバーに武器を渡したのは伝説の武器を作り出したかっただけで、そんな深い意味合いはない。
これもまたクロウの勘違い譚。
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