第28話 無双させない訳 

 くすんだ緑髪に冴えない風貌。姿勢もなんだかだらしない。それをより引き立たせる目元を隠す仮面。


 【悪魔の凱旋ナイトメア】のリーダー、クロウはとにかく謎だった。


 最初の頃はこの国の常識を全く知らない、無知な少年。まるで別の国から来たようだった。

 

 時が経てばそんな事を気にする者はいない。


 【悪魔の凱旋ナイトメア】は一人一人が独特の個性を持っていながらも、しっかり連携できており、クロウのリーダーとしての指示も的確。


 クロウは想像よりもできる冒険者。

 実力は確か。だが、ギルドでは最弱。


 また、ギルドメンバーも謎であった。

 

 何故、自分より弱いリーダーであるクロウに従うのか。崇拝レベルで慕うのか。

 

 過去りゆうを知るのは彼女たちのみ——





「さて、リーダー交換会のことについてだけど……配属先は百獣の大剣ビースト・デュセスだったわよね」


「はい。リーダーを除くとメンバーは男1女2です」


「女2ですか。警戒した方がいいですね」


「そうねぇ……」


「にぃにが他のギルド行っちゃうの、やだ……」


「ん、ユマ、泣かないで」


「クロくんが他所の子たちに変なことされないか心配ー!」


「お姉ちゃんも心配だわ〜」


 女性陣の会話。

 女子会と言ったが、そのようなほんわかした雰囲気はない。

 

「ゾイズさんもなんで唐突にギルドリーダー交換会なんて思いついたのかなー」


「誰かが案を出したのかしら」


「どっちにしろ決まったものに口出しはできません。今はクロウ様に害が及ばないように対策を練るだけです」


「うーん」


 一旦会話が止まる。


 悩むものの、皆考えていることは同じ。


 ———クロウのことを好きになられては困る。


 人は恩を感じる事で惹かれ、相手の内側に踏み入る事で恋だと確信する。


 彼女たち全員がそうだった。

 辛い過去から救ってくれた人物がクロウ。


 だからこの道を辿ることで新たな恋敵ライバルが増えると分かりきっている。


「もし、クロくんのカッコいい姿を見られたら好きになっちゃうかも……」


 アルマディアの言葉に全員が黙る。


「なら、活躍させなければいいのよ」


 ルルシーラが言う。


「けれど、活躍できなかったらクロウちゃんは悲しむかもしれないわ〜」


「だからこそよ。他ギルドでは活躍できない。貴方が活躍できる場所はここだと認識させる」


 なるほど、と皆声を上げる。


「じゃあ邪魔するってこと?」


「そうね。やる事がなければ活躍できないもの。見張りはガルガとホルスに任せるわ」


「臨時リーダーの方はどうしますか?」


「……あのパンディーとかいう男には興味ないし、どうでもいいわ。みんなもそうでしょ?」


 コクコク、と皆、頷く。


「ですが、あの男はしつこくクロウ様を敵対視しています。そして、ギルドを乗っ取ろうと計画中です」


「ふふ、このギルドを乗っ取るなんてできないはずなのに、面白い妄想よね。女の強さを……いえ、怖さを思い知らせましょうか」





◇◆


 リーダー交換会、当日。

 ギルドハウスの建物にて、リーダー交換が行われていた。


 そして僕も【百獣の大剣ビースト・デュセス】のところへ。


「えーと、今回百獣の大剣ビースト・デュセスに配属されたクロウといいます。一応、悪魔の凱旋ナイトメアってところでリーダーしてます」

 

 メンバーは男1、女2と少人数。

 

 パンティーくんがリーダーしているところだからきっとメンバーも尖って——


「私はシイハって言います! 悪魔の凱旋ナイトメアのリーダーさんと活動できるなんて光栄です!」


「あの、後からサインとかもらってもいいですか!」


「ア、アタシもっ!」


 え、めっちゃいい人たちじゃん。

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