役人と鬼人

@shaonian

役人と鬼人

夜の0時半を過ぎたとある駅。行く者がいれば暗闇と不穏に引きずり込もうとする雰囲気の中を広明ひろあきは探索していた。

「不気味な所だな、長居はしたくない。」

広明はこの地区の役人で、3日前に自治体のある要請を受けてここにきていた。内容

は駅に住み着き人を襲っているとある鬼怪を退けるというものだった。中央政府が社会を統制できなくなってから公安機関は機能不全で、自警団も鬼怪を恐れ、誰もこの問題を取り合わなかった所をこの様な社会に対し未だ自負を持つ彼がただ1人この案件を引き受けたのだった。

「駅の構内が奴の根城か。」

広明は半円を書くように歩道を進み、南口より駅に入る。動かなくなったエスカレーターを上って駅構内にたどり着く。社会が破綻する前は、この駅を人々が利用していたが今はもう廃墟だ。不穏はますます強くなり、支給されたビーム銃が心もとなく感じていると

「何者だ、ここは俺の場所だぞ。名前と肩書を言え。」

と声をかけられた。声からは人の声ではないおぞましさと殺気を感じた。同時に一つの雑念が気分をよぎった。この油断ならない時に。それは「弱い」という感じだ。

声の方を向くと構内に入ってすぐの駅売店の中に男が立っていた。20後半と思える

180を超える身長の、金髪の短い刈り上げにオリーブグリーンと白のスーツという風貌で、遠くから男は赤い目をレーザーポインターのように光らせこちらを警戒しながら睨みつける。奴が例の鬼人だと広明は確信した。

「名前は広明、この地区の役人だ。君こそ、この何もない駅から人々を襲ってどういうつもりだ。鬼人め。」

彼はそう強い語気で男を牽制し、何かあればすぐにでもと握りしめていたビーム銃を男に向けた。立っている構内の通路から、男のいる売店までは銃の射程圏内である。

「大人しくお前の身柄を引き渡せ。さもなくばこうだ。」

映画の主人公の様な毅然とした対応ができたのは、特別広明が手練れだった訳ではない。

半分は社会に対する正義感という立派なものだが、もう半分は怖がることもままならないほどの恐れからだ。

「止まれ、撃つぞ。」

「撃つぞ。その自信のある台詞は実に役人だな。」

男は役人の忠告など気にもせず売店から通路に出て距離を詰める。言葉による怖いものだぞという忠告では意味がないと分かった以上、怖いものは痛いものに変わる。広明はビーム銃を男に向け発射した。紅色の光線は構内から売店の奥の壁まで直線を引く形で放たれ、射線に入っていた男は腕で頭から胴体までを覆う様にその身をかばった。しかし光線はそんなものは無駄とばかりにクロスさせ身を覆っていた腕から胸を貫く。

「ぐはっ、何、嘘だ。」

貫かれた男は被弾した両腕と胸から血を流し崩れ落ちる様に倒れた。光線の痛みからかうなだれているその姿は人が恐れた鬼怪というイメージは剥がれ、倒れていく様と共に地に墜ちていった。広明は倒れうなだれている鬼人を見た時、広明の心にまたあの雑念がよぎった。多くの人間を襲い、恐怖のうちに葬ってきたはずのこの鬼怪が、実は弱い存在という憐みとも侮りとも言えて言えないあの疑念である。しかし、彼はすぐに男の元に駆け寄り、ビーム銃を男の頭上に突きつける。

「この卑劣な鬼人め、思い知ったか。動くんじゃないぞ。」

「お前は何者だ、どういうつもりだ。仲間はいるのか、いたらどこだ。」

そんなはずはない、奴は非道な鬼人だ。という恐れが彼をこの様な強硬な行動に突き動かした。すると鬼人が口を開いた。さっきとは一転し、人々から恐れられるその姿

を震わせながらである。

「まず俺は鬼人だがそれだけではない。名を紗方しゃほうという。」

「仲間はいない。赤い目が光る、お前らのいう鬼人とやらに生まれ親に捨てられてから、今まで一人だ。」

「少し前の事だ。家に強盗に入った時、自警団に自動小銃で何発も撃たれたが、死ななかった。俺が鬼人だったからだろう。そいつを殺した後、俺には死ぬ事も許されな事に絶望した。」

「以来、ここで人を襲いながら生きている。こう生まれた以上、こう生きるしかなかったのだ。だがお前の光線に撃たれて、無敵ではないと分かった。」

「今俺は激しく死ぬ事を恐れている。今更だがな。」

紗方は最後を悟り、自分に対する社会への恨みと泣き事を述べた。そしてその後、

「ハッ、くだらんなぁ。」と不敵に笑った。この時広明は男に対し超人の怪異への恐れ、そこから感じる弱みの疑念に次いで3つ目の悪感情が生まれた。前の2つに比べ

堂々としているが、アグレッシブで危険な感情である。広明は、紗方の光線に貫かれた胸を踏みつける。苦痛の悶える男に対し、

「だったらこうなるのは本望だろう。この外道めが。」

彼はこう吐き捨て光線を頭上と胴体に3発ずつ撃ち込み止めを刺した。その後、動かなくなった男を蹴飛ばし、駅を出て行った。















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