消えるアルバイト達 2ページ


 僕はフライドチキンを片手に、テーブルの上に置いてあるアルバイト募集のチラシを見ていた。


夜見よみ温泉? このバイト、めっちゃいいじゃん!」


 朝起きたら玄関のポストに投函されていたバイト募集のチラシ。僕はフライドチキンの骨をゴミ箱に投げ入れ、携帯電話で相手先のメールアドレスを記入する。ローマ字入力は面倒だ。


 ――よし書けた。次は名前ね。


「えっと……柳田裕也やなぎだゆうやと。あとは……男。そして23歳。で、住所は……」


 僕は今年の春に朝日大学の経済学部を卒業した。


 卒業前の考えでは、就職して給料をもらって、彼女と同棲して……なんて生活をイメージしていたけど、実際は全く真逆の生活をして過ごしている。


 親から仕送りをしてもらい、ゲーム機やゲームソフトを買ってゲーム三昧。遊び飽きたらパソコンでネットサーフィンをしたり、出前を頼んで贅沢したり……。


 そんなこともあって、大学に入った時は60キロ台だった体重も、今では100キロを超えている。身長が157センチなのに。


 僕は自撮り棒を使い、携帯電話のカメラ機能で全身画像を撮った。


 電子的なシャッターの音。


「こんなの何に使うんだろう?」


 僕は画像を確認する。


 二重顎に大福のような頬っぺた。白いTシャツはピチピチで、破れそうなくらいに腹が膨らんでいる。そのせいで猫背。


カッコ悪い。


 下半身はスウェットの上からでも分かるくらいに肉が付いていてお相撲さんみたいだ。


 ――さすがに太りすぎたかな?


 親も最近は「太ったな」とか「ちゃんと就職してくれ」とか、うるさくなってきていた。そして僕にとって最悪の一言が……。


「9月からは仕送りしないからな」


 そう言われてしまったのだ。だからちょうどチラシが入っていたこともあって、アルバイトをしようと思った。日給2万円は魅力的だったし、条件が良かったし楽そうだ。


 楽して高給料。最高!


「はい、送信!」


 僕は携帯電話をテーブルの上に置いた。


 六畳一間の部屋の中は、物が散乱している。脱いでそのままの状態で放置されている洋服。食べた後のカップ麺のゴミ。汁が入ったままのものもある。


「何だか臭いな……」


 そう言えば、しばらく生ごみを捨てていなかった。台所の三角コーナーに山積みされた食べ残しが、腐敗して異臭を放っているのだろう。


 まぁいいか。


 捨てるのは次のゴミの日でいいや。


 こんな感じだから、当然彼女はいない。


 今の時代は家にいて何でも手に入るから、ほとんど外に出ることもない。髪の毛はインターネットで購入したバリカンで適当に刈り、欲しいものもインターネットでポチっとするだけ。


 食べ物も服もゲームも、家にいながら生活の全てが手に入る。


 女性以外は……。僕の容姿は悪いのか?


 クローゼットの横に置いてある、姿見に写った自分に目をやった。


 目は細く、団子鼻。おまけに分厚い唇……。でも、そんなにカッコ悪いわけじゃないよね?


 高校生の学校祭。当時は普通体型だった僕。祭りの目玉はフォークダンスだ。キャンプファイヤーを囲んで男女が順番に手をつないで踊るやつ。


 あの時クラスの女の子達が僕と踊る時には手を握らなかった。握っているフリをして、少し手を放して踊る。そして少しでも触れたものなら、凄い表情で僕の顔を見ていた。


 あの頃はモテていたな~。


 僕は改めてチラシを読んでみた。


『3日間終了後に希望があれば正社員雇用制度あり』


 ここが素晴らしい。夜見よみ村にあるっていう所は微妙だけど、今住んでいる朝日市から50キロくらいの距離。ちょっと遠いけど、送迎をしてもらえるだろうか?


 いや……。そのまま住み込みをしながら働いてもいいかもしれない。


 正社員ということはボーナスだって出るはず。温泉のアルバイトの女の子と付き合うこともできるかもしれないし、いいこと尽くしじゃん。


 これで親も安心させることができる。僕はそう思っていた。


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