第2話 結理からアリシアに


 頭がグラグラする。体中が熱い。

 視界が歪んでる。誰かが代わる代わる私を覗き込んでいるけれど、顔がよく見えない。


 私……生きてるの……?


 でもぼんやり見える天井は、真っ白い病院のものとは違う気がする。

 覗き込む人たちも、看護師さんのような白い服を着ていない。


 ここ、どこ……?


「アリシア!!」


 ドアが勢いよく開く音と共に、男の人の声が聞こえた。


 アリシア?

 初めて聞いたはずなのに、妙に耳に馴染む名前だ。


「アリシア! お父さんだ、わかるか? 傍にいられなくて悪かった! これからはずっと一緒にいるから、だからお父さんを置いていかないでくれ!」


 お父さん? この人は私のお父さんなの?

 でも私にお父さんなんていないのに……


『私』って誰だ? 私は桜野結理……


 私は……アリシア?


『お父さん』が私の右手を両手で握りしめた。『お父さん』の手は大きくて、優しく包み込まれてる気持ちになる。

 顔をそちらに向けると、涙ぐむ『お父さん』の顔が見えた。

 男の人の泣くところなんて、初めて見たかもしれない。なんだか私がすごく悪いことをしているみたいだ。


 泣かないでほしい。大丈夫だから。なんとなく、そんな気がする。


 安心してほしくて精一杯微笑むと、『お父さん』がハッとして「アリシア……」と私の手を固く握りしめる。その眼から涙が零れ落ちた。

 泣かせてしまった。安心してほしかったのに。


「アルバート様、お嬢様には我々がついておりますから」

「どうぞ職務へお戻りください」

「娘が大変なときに傍にいてやらなくて何が父親だ! お前たちは下がれ! アリシアは俺が看病する!」


 そう言うと、本当に『お父さん』は周りの人たちを追い出してしまった。

 それから、私の頬に手を添える。


「お父さんがずっと傍にいるからな。安心してゆっくりお休み」


 こくんと頷くと、『お父さん』はようやく笑ってくれた。

 まるで揺りかごの中にいるようだ。何も心配しなくていい、守られている、安心する。


 目を閉じると、そのまま深い眠りに落ちていった。



 夢を見た。

『アリシア』が生まれてから、今までの記憶。


 桜野結理だった私は、アリシア・クローバーという6歳の幼女に生まれ変わったらしい。

 母・リリアは物心つく前に亡くなり、父・アルバートと共に暮らしている。

 父子家庭。前世とは逆パターンだ。


 『お父さん』は裕福で、屋敷には使用人を何人も抱えている。

 仕事に忙しい『お父さん』はあまり屋敷に帰れず、メイドたちが私の面倒を見てくれていた。

 しかし急に高熱を出した私のために、『お父さん』は仕事を放り出して駆けつけてくれたらしい。


 私……ホントに異世界転生したんだ。




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