第59話 農業開始だよ!③

「訓練サボったポールくん、畑は出来ましたか?」


 食堂に着くとルーがニコニコしながら声をかけてきた。

 私ではなくポールに、という所がまた……怖い。

 嫌味とも知らずに、ポールは笑顔だ。


「うん! できたよお! すごいのも出来た!」

「ほお……すごいの、と」

「心配しなくても、ちゃんとケイ様が作ったよぉ?」

「……それならいいですが」


 ポールの一言に渋々納得しつつ、トレーに昼食を乗せてくれる。

 今日は畑仕事があるから調理を手伝わなかったけど、お昼はルー達だけで作ってくれた。簡単なメニューにしたみたいだけど、とても美味しそうだ。

 トマトベースのロールキャベツ、パンにドライフルーツ入りのヨーグルト。

 

 ドライフルーツをヨーグルトに一晩浸すと美味しいと呟いたものを出してくれている。ちょっとした呟きも漏らさず実行する所がさすがだね。

 キャベツはこの前の残りを使ったんだな。

 教えた通りのズボラロールキャベツを作ってるあたり嬉しいもんだ。


 ズボラロールキャベツ……大鍋にキャベツ、ミンチ、キャベツ……と重ねて層を作って好きな味にして煮込むだけ。出来たら一人分に切り分けると言うロールキャベツなのに巻いてないロールキャベツの事だ。

 あ、ちゃんとしたロールキャベツも教えてるから大丈夫。

 キャベツにトマトの甘さと酸っぱさが染みててとっても美味しかった。ロールキャベツはクタクタになったキャベツがおいしいんだよねえ。

 ポールは二回おかわりしてたよ。


 お昼を食べたらまた畑へ。


 実はちょっと考えたことがあるから、ポールも一緒にいてくれる。


「ケイ様~? 次は何するのぉ?」


 ワクワク顔のポールが聞いてきたので、説明。

 畑と樹木に自動水撒き装置を設置するという考えだ。パイプに穴を開けて水を流す……と言うだけの簡単装置。池も作ったからそこから元栓作って捻ったら水が巡回しつつ水撒きも出来るというアイデアです。

 ジョウロ持ってこの想定以上に広くなった畑の水撒きなんてやりたくない!

 という、私が楽したいがゆえなのだけど。

 自動と言ってもため池に繋がった水栓を開けるのは私なので本格的に楽はしてない……ハズだ。(だって毎日決まった時間に水栓を開け閉めするためにここに来るわけだし)


 ざっと説明して、mamazonから取り寄せたパイプに手作業で穴を空けてからポールが魔法で埋め込んだり水栓作ったり繋げたりして、あっという間に終わったので私は穴あけとポールを労う為のスイーツを用意するだけで終わった。


 暑そうだったから冷やした珈琲の氷に牛乳を注いだカフェオレ(ポールのは生クリーム&はちみつ入)を作業終わりに作ってみた。

 

「んはぁ! これ、すごいね! 氷が解けて飲む毎に味が変わるの~!」

「今日は暑いからね。ちょうどいいかなって」

「生クリームももりもりで嬉しい~! ケイ様ありがとぉ!」

「こちらこそ、いっぱい頑張ってくれてありがとう!」


 にへへ、とお互い笑い合う。

 何ヶ月もかかるだろうと覚悟してたのに、ポールのおかげで一日で理想の薬草畑が出来てしまった。(しかもワサビ田まで)

 私が満足そうにしていると、ポールがおずおずと聞いてくる。


「ケイ様はぁ……何も言わないんですねぇ」

「ふえ? なにを?」


 気まずそうな雰囲気を纏うポール。いつも明るいのに、急にどうしたのだろう?

 ……というか、この雰囲気は少し前に経験したような……。


「ほら、ボクこんなだからぁ。土魔法じゃなかったら……とか、ケイ様は言わないんだなって……」

「ああ……」


 言いたいことはなんとなく分かった。

 ポールは自分の魔法属性にコンプレックスがあるのかもしれない。でも、雰囲気からそうじゃない気がする。ポールは土魔法、大好きって感じるから。だとしたら……。


「ポール、土魔法好きじゃん。 だったらそれでいいんじゃない? 私がなにか言うことある?」

「でも、皆いつも属性が土なんかでもったいないとか、そんだけ魔力操作出来るなら他の属性も覚えろって……言うから……ボク、やらなきゃいけないとは思うんだけど……全然他の属性覚えられなくて……」

「そんなのポールがやりたくなければしなくていいんだよ! 好きでやってるんだから他人があーだこーだ口出すことじゃねーんだわ。いくら他属性だったら大成するって言われてもポールが覚えたくないならそれでいいの! それでもうだうだ言うやつにはうっせーわ、って一言言って埋めてしまえ!」


 ふんっ!と鼻息ひとつ。

 好きでやってる事に他人が何かを言うのはお門違い。それこそ小さな親切大きなお世話、だ。

 それにこの世界の人は好きこそ物の上手なれという言葉を知らないのでは?

 ポールがいかに土魔法が好きで自分の属性に満足してるか、というのを分かってないんだろうな。

 私が一気にまくし立てて言ってやったらポールはきょとん、とした後にお腹を抱えて笑った。

 うん、ポールは笑っていた方が可愛いよ。

 そっか……きっと、ポールは幼い頃からずっと、他人からの悪意無い小さな親切大きなお世話に傷ついていたんだね。


「えへへ、ボク、ケイ様……ううん、ケイちゃんだーいすき!」

「ホント? 私もポールだーいすき!」


 ぽよぽよ、とポールのふわふわほっぺが揺れる。私、美味しいものを食べてる時のポールの笑顔が大好きで壊したくないと思ってる。

 いつまでも幸せそうにしてて欲しい。

 だって、ポールのその笑顔は騎士団の癒しでマスコットキャラクターだもん。


「あーー!! 何ケイ様にくっついてやがるのですかポール!離れなさい!!」

 

 二人でぽやぽやと肩をよせつつ弾ませつつ幸せ和みムードを楽しんでいると昼食の片付けを終えた三人がやってきた。ルーは私とポールの心の距離感が近くなっているのを敏感に感じ取ったのか、ヤキモチを妬いて、他の2人より早く、叫びながら駆け付けた。


 でも、ちゃんと分かってるのか私達の間を引き裂くのでなく、ポールが座ってる逆側を陣取ってわざとらしく腕を絡ませ威嚇してる。そういう気遣い出来るところがルーのいい所。そして私は両手に花。……花?


「ふーんだ、ケイちゃんはみんなのケイちゃんだもーん! ルーだけのものじゃないよぉ?」

「むきーー! 言わせておけば……ポール、勝負です!」

「望むところだぁ~!」


 そんな二人の様子に、のんびり訪れたヤックとダンが空気を読んで「やれやれ〜!」と囃し立てる。突然始まったじゃれ合いに、私は今日もいい日だなあ……と幸せを噛み締めるのだった。



 ********


「おお、ケイ様がこれを作ったのですか?」


 ひとしきりじゃれ合った後、後から来た三人に畑の案内。

 ルーは私が作ったワサビ田に興味津々とばかりに眺めたり流れる水を触ったり、と完成度を確かめてる。

 ヤックとダンは私が提案した自動水撒き装置が気になるのかポールに作り方を聞いてる。

 多分自分達の農村にやり方とか教えるんだろうな~。

 ……でもmamazonでパイプ購入しないと無理です。ごめんね。


「さぁて、薬草畑も出来たし、今日は終わり! ご飯作って食べよう! みんな、何がいい?」

「ぼく、ハンバーグがいい!」

「僕はトマトケチャップを使いたいです!」

「俺はなんでもいいや」

「僕は……僕は、んとっ、ありすぎて選べないのです!」


 いの一番でポールが手を挙げ、負けじとルーが主張する中、ダンは飄々と答え、ヤックは優柔不断に答える。

 うん、個性的ですね!


「じゃあ、ハンバーグにトマトソース、パンとコーンスープにしよっか!」

「「「「わーい!」」」」


 リクエストのものをメニューに組み込んで、みんなでワイワイと宿舎に帰る……前に、やり残した事を思い出して四人を先に行かせる。

 私はそっとmamazonで買ったとあるものを畑にぶっ刺した。


 そして仕上げに浄化の魔法をかける。


 おまじないみたいなもんで、害虫来ませんように、とかスクスク育てよ、とかそういう色々な思いを詰めて魔法をかけた。


 相変わらず私が浄化をかけるとキラキラするしなんか通常よりめっちゃ綺麗になるけど、気にしない気にしない。


「さて、おまじないも済んだしみんなの所もーどろっ」


 ……などと、ルンルン気分で宿舎に帰る私だが、またやらかしたことを自覚してない私は明日薬草畑がどんな事になっているのか……神、いや、女神様のみぞ知る……。アーメン。

 

 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る