第52話 た、大量だあ!

「なっ、なんじゃこりゃーー!」


 朝から叫ぶ私だよ。


 皆さんおはようございます。

 憂鬱な月曜日……ならぬ光の日でございます。いつものように騎士たちが食べ終わったあとの、ちょっと遅めの朝ごはんを頂きに食堂にいったら、ルーを始めとした四人に食べたら調理場に来て欲しいと言われたので急いで食べて調理場に行ってみたら大量の緑のボールが!!!


「いやあ、発注間違えちゃって……」


 あはは、と誤魔化すように苦笑いしながら言うのはミッシェルだ。


「間違えたとかいうレベルの話じゃないよ、この量!」

「……どうしましょうかね?」

「そんな他人事のように」


 ミッシェルは現実逃避中なのか、どこか遠い目をしながら緑のボールの山を見ている。

 そんなこと許されるなら私だってそうしたいよ!


「こんな大量のキャベット、サラダ以外にどうすりゃいいんだよ……」

「サラダしか浮かばないです」

「僕は野菜きらあい」


 三人組も今回はお手上げのようだ。

 緑のボールこと、キャベット。まあ、日本風にいえばキャベツですけど。春先のキャベツなので柔らかくて甘くて美味しい。第一騎士団でもよくある野菜としてこの時期は活躍してくれた。なかでもロールキャベツは騎士団の心を掴んだと言ってもいい。


 そんなキャベツ、季節柄もうそろそろ終わりだねえ、みたいなことを思っていたらこの量ですわ。


 ミッシェルは泣きそうだし、三人組もルーもレシピ浮かばないみたいだし。


 ……これはもう、アレを作るしかないな。


「うっし!パスタ作ろ!」

「「「「「パスタ?」」」」」


 いや、本当は違うものを作るんですけど、まずはパスタ……というか麺がないとお話にならないので。

 丁度主食を増やしたいと思ってたから渡りに船ですね、こりゃ。


 食料庫から強力粉と卵を持ってきたら、油と塩も一緒に全部の材料をボールに入れてまぜる。まとまったらベンチタイムなのでその間にみんなに説明だ。


「これはパスタの生地だけど、重曹を加えたお湯で茹でたらラーメンという麺っぽくなる」

「ケイ様……なる、じゃなく、麺っぽくなる?とは?」

「かんすいってものを本当はラーメンには入れて作るんだけど、ここには無いから代わりに重曹っていう裏ワザを使って似たものを作る……かな?」

「へー!さっすがケイさん!物知りっすね!」


 いつも通りにみんなに説明してたら、流れで手伝ってくれてるミッシェルが興味津々とばかりに目を輝かせてる。いや、私のは物知りとかじゃなくて、手抜きのズボラ飯なんだけどね……。

 あれ?っていうか意外とミッシェル、料理好きなのかな?


「ちなみにパスタは形によって名前が違ってくるよ」

「なんと!!?」

「まず平らに伸ばす所は共通で、そこから四角く切って具を包むのはラビオリ、具を詰めないでリボンみたいにするのはファルファッレ、三つ折りにして細長く切るのはスパゲティ、太めにするのがフィットチーネ、細長いリング状かマカロニ、太いのがパッケリ……とまだまだいっぱいあるけど、今日つくるのはスパゲティだよ」

「……呪文?」

「パスタの名前!!」


 ミッシェルはポカン、としつつボケをかましてくるのでついツッコミを入れてしまった。歳が近いからって言うのも手伝って軽口を叩きやすい。

 三人組は、呪文と聞いてパスタの名前を繋げて唱えてるし……まあ、楽しそうだからこっちはほっとこう。


「ちなみにパスタの細さでも名前が変わるよ。髪の毛くらい細いのはカッペリーニ、針金くらいがスパゲティ、リングイネはフィットチーネとスパゲティの中間くらいで、フィットチーネ、タリアテッレ、タリアリーニ……と麺の幅の広さでどんどん名前が変わるんだ」


 パスタはちょっとこだわった時期があったのと、昔とった杵柄的な事で詳しかったからスラスラ出てくる。

 元々和食より洋食のが得意だったしね。

 ミッシェルは覚えきれないみたいで早々に諦めてるし、ルーは細かくメモしてる。三人組は新しい呪文……ではなく、パスタの種類を唱えてる。


 楽しく勉強するが良い……若者よ……。


「実用的なのは、スパゲティ、フィットチーネ、ラビオリ、ファルファッレ……かな?あとはオレキエッテとニョッキが使い勝手いいと思う」


 プロじゃないんだし、何も全種類覚えなくていいからね。使うやつだけ覚えてれば応用きくからポイントだけ教えておいた。

 ちなみにオレキエッテは耳たぶみたいな形のパスタで、ニョッキはじゃがいもで作ることが多いから冬にいいんじゃないかなって思ってる。


 そうこうしてたらパスタもいい感じなので伸ばして切る作業は、いつもパイを作ってるヤックに任せて……。


「後はポールに鉄板作って欲しい」

「鉄板?……鉄の板、だからフライパンじゃだめなのお?」

「だめ!」


 ここは拘らせていただきます。

 あらかた説明すればポールはさっと作ってくれたので、あとはルーに会場設備、ダンに鉄板を運んでもらって。


「私とミッシェルは千切り地獄と参りましょうね……」

「ちょっとケイさん、顔怖いよ……」

「大量受注の罰じゃあ……」


 にやぁ、と私が笑うとミッシェルは顔を青くさせる。その後に悲痛な叫び声が聞こえたとかなんとか言ってたけど、しーらないっ。


*********


 やって参りました!毎度の合同修練場!

 もうここ野営地とか祭りごと専用にしてもいいんじゃね?ってくらいにはお世話になっております。


 そして行うのは「大量キャベツを消費しよう!春のお好み焼き大会!」でーす!

 丁度この間作ったソースもどきとマヨネーズ、そして鰹節、大量のキャベツ……これが揃ったら作るしかないよね!お好み焼き!


 そんでやっぱり大阪風と広島風は両方いただきたいじゃん?そんで広島風なら焼きそば絶対いるじゃん?ってことでパスタ作ったんだよねー!


 いやもう、大盛況ですよ!


 混ぜて作る大阪風と麺入りの広島風での争いが始まってます。私的にはどっちも捨て難いから半分づついただいておりまーす。


 各所から、ソースがじゅわっと焦げた匂い……たまらん!そしてその上からかけるマヨネーズ、鰹節が踊る様!あー!身体が酒を求めるうう!


 私もご相伴に預からせていただきます!

 まずは広島風から……せっかく麺を作ったから早く食べたいよね。

 卵はあとのせにしたから半熟で食べるよ!この、カリッとした生地に蒸された甘いキャベツを包んで、ソースと絡めて食べる。そして追うように麺と卵を絡めて食べる!口の中で全部がマリアージュして、美味しい!本当は一気にがぶっとコテでいきたいけど、私はいつもこう言う食べ方をする。

 邪道とか言われても知らない!私は私の食べ方で食べるのです!


 キャベツは春終わりのものなのに、まだまだ柔らかくて、蒸された効果でとっても甘い。こんなのキャベツいくらでもあっても足りないよ……。


 大阪風は材料全てを混ぜるのが抵抗あるっぽいけど、焼いてみればカリッとふわっとした生地にこれまたカリッと焼かれた豚肉……という名のバックボアがいい感じの食感で、中に入れたチーズもとろとろで美味しい!と評判だ。

 私も今食べてるけど、お酒も欲しいしおにぎり食べたいなあ……って思ってます。

 お好み焼きはご飯のおかずです!!異論は認めない!


 ああ、大量のキャベツにありがとう……ミッシェルグッジョブ!


「美味しいですね?」


 もぐもぐとお好み焼きを堪能していたら、後ろから声をかけられた。


「団長さん!来てくれたんですね!」

「はい、今回は……」


 それでも、人目は気にするのか、人差し指を口元にやってジェスチャーで静かにするように、と示された。


 団長さんが居るだけで盛り下がるような熱気じゃないと思うけど、念には念を、ということだろうな。


「このお好み焼きという物は美味しいですね。前回のソースという物がとてもいきる食べ物です」


 相変わらずの食レポありがとうございます。口ぶりから言って、ソースがお気に入りになったのかな?


「ソース、て言ってもなんちゃってですので……本物はもっと美味しいですよ」

「ほう、これ以上美味しくなる、と」


 ニコニコしながらお好み焼きを食べてる団長さんは、広島風がお気に召したそうです。

 それ以上は会話もなく、暫し沈黙。

 実を言うと、あの夜からちょっと気不味くて避けていた……というのは大袈裟だけど、こんなに長く一緒に居るのは久しぶりだ。


 お好み焼きの味が……分からない。


「そういえば……」


 団長さんが呟く。

 それに反射的に顔を向けたら、苦笑いされた。

 やっちまったーー!自意識過剰女とか思われてませんかね!?思われたな!だって団長さんの反応もなんか微妙だもん!


 などと私が内心で焦っていたら、気不味そうにおずおずと団長さんが私を見てから、一言。


「帰ってきたら、王都を案内するという予定……忘れてます?」


 ゆうに五分は掛けてその一言を理解した私は、持ってた箸を『やっと』落としたのであった……。


 




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