王宮裏事情解決編

第51話 知識とは金なり


「……ってことがあったんだよー……」


 ここは中庭……の、ハズレのガゼボの下。

 私の隣にはあの美少女、ヴェロニカことベリーが座っております。


 相変わらず優雅に微笑みながら、私の話を楽しそうに聞いてくれております。

 

 実はあれから時々会うようになりまして。

 二回目は待ち伏せしてたんだけどね!

 上流階級の貴族様だから、女神の日にもしかしたら神殿に祈りにくるんでは?と思ったらマジで来てたから、ハンカチ返したんだ。

 そしたらこれまた優雅に『貴女にあげたものよ?』と言われるので――貴族に返品は失礼にあたるそうで……――そのまま貰って、申し訳ないから手持ちのクッキーを……なんてしてたらめちゃくちゃ嬉しがられてね。

 それからは女神の日に中庭のハズレにあるガゼボの下でお茶会するのが定番となってます。


「ケイの毎日は本当に波乱万丈なんですのね、聞いてて楽しいですわ」


 扇子を広げてふふっと笑うベリー、今日も可愛いです!


「そうかなあ?やっぱりそう思う?」

「ええ、聞いていてとても楽しくて私までその場に居たような気分になりますわ?」


 解せぬ。……と、思いながら私はバックパックからシュークリームを出す。


「あら?」

「今日は新作でーす!シュークリームっていうお菓子だよ」


 コーンスターチと片栗粉が分からなかったのでこの間実験しつつ仕分けた時に、ついでに作ったシュークリーム。

 カスタードはズボラカスタードなのでバニラは無いし、全卵で作ったし、コーンスターチじゃなくて薄力粉でも作れるけども。


 そんな新作のお菓子をベリーに渡そうとすると、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえる。

 そうだった、忘れてた……。


「ブノワーズさんも、どうですか?」

「頂きましょう」


 私達の後ろ――……というか、ベリーの傍らに――気配なく立っているのは、侍女のブノワーズさん。薄い茶色の長い髪を綺麗にまとめ、一重で釣り上がり気味だけど大きめの瞳は眼鏡をかけていてもキラリと光っている。美人とは言えないけど、精悍な顔立ちの働く大人の女性そのもののイメージだ。


 まずはベリーの前にブノワーズさんから、と言うのはやはり毒味でという意味なのだけど、やっぱりどの世界の上流階級にはそういうのがあるんだなあ……。


 最初はブノワーズさんにめっちゃ睨まれてたんだけど、賄賂と言うクッキー効果なのか毒味した後からの態度がコロッと変わったのでどこの世界の女の子もスイーツには適わないんだなって思ったね。


 でも最近では私のお菓子を食べる、と言うのが楽しみらしく無表情ながらもお花が飛んでるブノワーズさんが可愛らしくて、ニマニマしてしまう。

 毒味ついでに、お持ち帰り用に結構な数が入ったシュークリームの箱もお渡しする。


「はい、これ。他の侍女さんにもね!」

「いつもありがとうございます、ケイ様のお菓子は皆大好きなので……喜びます」


 無表情、無感情ながらも後ろに音符が飛んでいる気がする。……じゃなく、心の中のブノワーズさんは小躍りしてるんだろうな。

 隠してるから他の人には分からないだろうけど、何となく雰囲気が……ね。

 空気が読める女、こと、私だよ!


「もうっ、ブノワーズったらずるいですわっ」

「これも仕事なので」


 ブノワーズさんが箱を受け取ってるのを見ながらぷくっと頬をふくらませて、はやくはやくと急かすベリー。

 それにふふんっ、と笑いながら返すブノワーズさん。

 そんな軽口を言い合う二人が、とても仲良しなのだと感じる。

 ブノワーズさんは私がシュークリームを出したあと、さっとお茶を淹れてくれた。

 ここでお茶会を、と言い出したのはベリーからで私の作るお菓子がとても気に入ったんだとかで猛烈なラブコールをされまして……なんやかんやで私がお菓子、ベリーがお茶を用意するってのがお決まりになりました。


 お貴族のお茶……めっちゃ美味しからね。

 見返りが私なんかのお菓子でいいのかなって心配になって聞いたんだけど、そもそもお菓子という物がこの世界にないから食べられるのは貴重だし、初めてなんだって。


 そんなこと言われて可愛い子からのラブコール、断れないよねえ?私としても、ベリーと話すのもブノワーズさんと話すのも好きなので毎週楽しみにしている。


「それでさ、馬車なんだけどあれ本当に痛いよね……おしり破れるかと思ったよ」

「あら……馬車というものはあのような物ではなくて?」

「違うよ!私が居た世界では馬車は痛くないし、むしろ馬車はなくて車というものがあって……」


 実はベリーには私が異世界から来たというのは言ってある……というか、お菓子のことについて問われた時にぽろっと言っちゃって……びっくりされたけど、ベリーは持ち前の貴族スマイルですぐに持ち直し、それ以上は何も聞かずにおいてくれてる。

 所謂スルースキルというやつだ。有難いよね?

 なのでもう私が異世界人なのはバレてるし私も気にせず話している。


「ケイの居た世界ではその様な複雑な技術と知識がありますのね。我が国でも使えないかしら……」

「うーん、難しいと思うよ?私の世界は魔法が無い代わりに科学が発達したんだし……ってかこの世界は魔法あるんだから馬車ごと浮かせるとかしてどうにでもなるじゃん」

「浮かせる……?と、いうのは?」


 私は常々思ってた。

 異世界物やファンタジー物の小説や漫画を見て、馬車が古くておしりが痛くなるってやつ。自分も経験したから分かるけど、改善したくなるよね。

 でも、あれいつも思ってたんだけど、主人公がこっちの世界のバネとか苦労して作って異世界の馬車が良くなる!って……わざわざこっちの世界の技術使わなくても良くない?


 だって、この世界には魔法があるんだよ?

 なんで有効活用しないの?


 わざわざ科学や複雑な技術を引用しなくても、魔法の力を使って重力そのものを反転して馬車ごと浮かせればいいし、磁石の反発し合う力を増幅させて浮かせるとかしてしまえば良くね?って私は思うんだよね。

 魔石なんてあるし、工夫したらリニアモーターカーができると常々おもってたんだよね。


 だからその考えをベリーに話した。


「リニアモーターカーは道を作らなきゃだから大変だけど……って、ベリーさん?」

「ケイ。その話、私以外にしちゃだめよ」

「へ?」


 私の話を黙って聞いていたベリーが、静かに呟く。

 いや、だって普段のほんわりとした雰囲気からピリッとした雰囲気になるものだから、ほうけちゃったよね。


「ケイのその知識はお金になりますし、何よりこの世界の人々には無い発想ですわ。だからその知識を狙って悪い人が貴女を利用しようと攫ってしまうかもしれない」

「そ、そんなまさか……」


 いや、ありうる。この世界は危険に満ち溢れている。いつどこで、何が起こるかなんて誰にも分からないし予想できない。絶対なんてのはないのだ。


 私が青い顔をしていると、ベリーが緊張を解いて微笑む。


「大丈夫、ここだけの話にするわ?……でも、聞いたからにはこの話……私に預けてくれないかしら? 悪い様にはしないわ」

「え? あ、うん……いいけど」

「特許は貴女にするから、安心してね?」


 ベリーはにこっと微笑んだ。

 まさかその笑みが後に凄いことを起こすなんで誰が予想出来ただろうか……。



*****



 馬車が、浮いている……。


 あれからすぐに、本当、あれよあれよの間に、ベリー開発の馬車が発明された。

 私が話した通り、馬車が浮いている。

 何度も言おう、馬車が浮いている。


 多分、馬車に重力軽減の魔法を込めた魔石をつけたんだと思う。重力という概念がこの世界になかったから、ちょっと教えただけでこうなのだからファンタジー大丈夫か?って逆に心配だわ!


「王都で売り出し予定だから、すぐに流行ると思うわ。勝手だけど貴女用の金庫を作っておいたからこれからどんどんお金が入るわよ」


 ドヤ!顔のベリーさん。

 上流階級、商売させたらめっちゃ凄い。


 次はリニアモーターカー作るんだ、と話してたけどそれも私が特許元だから……と念を押された。


 うん、これは遠回しにベリーにお説教されたな。


 今回はベリーだったからこんな結果になっただけだけど、悪人というか私を利用しようとする人にとっては私の知識はお宝の山の様なもので、ほいほいと他人に喋ったら危険なことになる可能性が高いのだから重々気を付けろよ!ということを身をもって知らしめたる結果となりました。


 え?お風呂?お神酒?おむすび??


 ……いやあ、知らない知識ですねえ。(すっとぼけ)



 

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