第47話 祝杯だー!


 討伐から二日たった昼過ぎ。

 今日は光の日。現代日本だと憂鬱な月曜日です!


 そんな日の調理場で、私は皮を煮詰めてます。なんの皮?とお思いでしょう……それはね……?



******



「うおおお……三枚おろしにされている肉塊ぃ……」


 朝ご飯のために食堂に来たら、食べ終わったらこっちに来てと言われて調理場の扉を開けた先には、めっちゃでっかい肉塊が作業台にどーん!と置かれてました。

 久しぶりにこんな状態の肉塊を見たので浄化を掛けてもらいつつ戦いてしまう。


「おはようございます、ケイ様!どうっすか!?驚きました!?」


 にひっと笑うのはミッシェルだ。

 

「驚いたってか、何故?って言う疑問だよね……これ、何の肉?」

「ふっふっふ、これはですね……あの時のアイツですよ!」

「ぇ」


 あの時のアイツ……と言えば、アイツしかいない。私におしりアタックをぶっかまし、崖から落とされて怪我をさせられたあの憎きバックボア!!


 こんなに大きかったのか……百キロはゆうに越えてる。牛一頭くらいはあるのでは?

 それに油と肉がでっぷりついてるので食べごたえがありそうですごい。良く私こんなのに攻撃されて生きてたな……いや、多分バックパックのおかげだと思うけど、十中八九。


 それがこんなふうに解体されて……ご愁傷様です……。


「ってか、討伐されてたんだ!?誰が討伐したの!?」

「それは俺とルーで……ズババってやっつけました」

「復讐です」


 私の傍らで会話を聞いていたルーがにこっと笑うんだけど、どこか黒いものが見えたような気がしたのは……気の所為ということにして。

 こんなの討伐してたからミッシェルは怪我をしたのね。


 ……ルーは怪我してなかったのは置いておこう。


「そんで、この肉塊になったバックボアはどうして第一宿舎の調理場にあるの?」

「あー……それはですね。ライオネル副団長からのお詫びというか……」

「あ、察した。ありがとう、受け取ります」


 ライオネル風の謝罪ってことね。粋なことしてくれますな!

 きっと私が花とか装飾品とか興味無いのを察して食材提供というプレゼントしてくれたんだなあ……いい所あるね!ってか私という者をよく分かっていらっしゃる!


 しかしこの量。

 ……第一宿舎でしか食べないってなるのはね……忍びないしなあ。


「ねえ、ミッシェル?こういう討伐の後って宴的なものしないの?」

「宴……っすか?あー……普段なら野営の時にするんですけど今回は簡単な討伐だし、バックボア自体は討伐対象じゃないから流れた感じですかね」

「ふむ」


 目の前の肉塊を見詰める。

 めっちゃでっかい。


「……よし、宴をしよう」

「「へ?」」


 ミッシェルとルーが私の提案に驚く。


「半身は丸焼き風にして、残りの半身は解体して部位ごとにしてもらえば……うん、いいね」

「えと、ケイ様?」

「ルー、第一と第二の合同修練場夜に使えるようにしてもらっていい?」

「わかりました!」


 私の指示にかけて行くルー。

 きっと会場抑えたあとは丸焼きの準備もしてくれるはず。

 私、丸焼きは流石にしたことないからお任せしちゃお。


「そうと決まれば……ミッシェル、解体できる?」

「出来ますけど……」

「私こんな大物は出来ないから、よろしく!」


 ミッシェルがちょっと青い顔してたけど私は気しない、頑張ってね!



*******



 という感じで宴の準備は始まってる。

 ルーとミッシェルは丸焼き……というか半身焼きを準備してるし、三人組は会場の準備中。


 私はと言うと昼下がりに大鍋でバックボアの皮を煮ています。

 ……これがジャムなら可愛いものを、獣の皮だからな、皮。

 可愛さの代わりにワイルドさが増しましたわ。


 おふくろの味を食べたら、次は親父の味を食べたくなるのは仕方ない事ですよ。

 バックボアって要はイノシシだからね。肉質見てもイノシシだったから、きっとアレが作れるはず……と思ってずーっと煮詰めてます。


 本来なら皮は鞣して装飾品とかにするのが一般的らしいんだけど、それは外での事だしここではしないと聞いたので、ミッシェルにお願いして半身だけ皮を引いてもらった。

 湯引きして毛抜きまでしたよ。ちゃんと丁寧にナイフ使ってつるんつるんにしたのでいい感じ。


 その皮を朝から昼の今まで煮込んでるから相当プルンプルンになりました。

 茹でては油をおとし、茹でては油をおとし、と何度も繰り返したからね。

 ここまで来れば、あとは出汁と醤油と少しのみりんで味付けしてコトコト弱火で煮込んでれば出来上がり。もう少し煮たいのでとりあえずこれは味付けして放置。後で頃合いを見て大根を入れて煮たら完成。


「イノシシの皮って言ったら、やっぱりアレだよなあ」


 誰もいない調理場で独り言を漏らす。

 まだ煮てない皮を目の前に、ナイフを持ち、五センチ幅に切る。長い短冊みたいになったら、出来るだけ薄くスライスしていく。

 イメージはミミガーと思ってくれればいい。


 ボールいっぱいのミミガー……もとい、スライスされたバックボアの皮を次は炒める。

 これもどんどん皮から油が出るので炒めては油を切る、炒めては油を切る……を繰り返す。

 それをやっていると、油が抜けて皮が透明になってカリカリになるからそこまでやったら、砂糖、酒、醤油で味付けして炒めていく。

 甘みや照りが足りなかったらお酢と蜂蜜……みりんなども加えて微調整。


「うっし、山野家特製イノシシの皮のきんぴら完成!」


 正確に言うときんぴらじゃないけど、ウチは皮のきんぴらって言ってたのでこれはきんぴらです。

 私が住んでた地域はイノシシや鹿をよく食べる地域だったのでさほどジビエ的なものに抵抗がない。むしろ独自料理を開発したりするので各家庭にもその家のレシピというのがあるのでは?と思う。


 出来たイノシシの皮のきんぴらも、皮の煮物もみんなの分はないので私個人用。

 いっぱい作っておいてバックパックにつめておいたらいつでも食べられるってやつね。


 こんな時間かかるもの、次はいつ作れるかわからないし?


 一般的にはボタン鍋が有名だろうけど、それは一般人用かな。

 私はよく焼き肉で食べてたし、皮を今みたいにして食べてた。

 ……でも、一番多かったのは……。


「イノシシカツ……作るか!」


 そう、カツ!カツレツ!

 イノシシは豚肉と牛肉のいいとこ取りをしてる肉だ。油は豚肉のそれなのに、肉質は牛肉に近い。新鮮なイノシシは臭くないからね。

 臭くなる原因は内蔵……特に膀胱を傷つけてしまうとめっちゃ臭くなって食べられたもんじゃなくなる。なのでボタン鍋とかにして臭みを消して食べるんだけど、解体が上手ければそんなことしなくても十分美味しいお肉なのだ。

 だからイノシシ肉が臭くて食べられない、と言う人は多分そういう理由の肉を食べた人……と思う。


 少なくとも私は臭い肉を食べたことがないから。


「カツを食べるならソースを作らねば」


 トンカツソースまで行かずとも似たようなものは作れる。

 赤ワイン、日本酒……もといライスリキュール、すりおろした玉ねぎや人参、リンゴ、蜂蜜、トマトケチャップ、ニンニク、しょうが、手元にあるスパイス類を適当にぶち込んで……ドロドロになるまで煮詰ればなんちゃってトンカツソースの出来上がり。

 

 これにトマトケチャップやスパイス類を抜いて、代わりに醤油を加えて軽く煮詰めたものは焼肉のタレになるのでそれも作っておく。


 ここまですればあとはカツレツの用意だけど、それはパン粉を作るまでに留めておく。


「トンカツ……いやイノシシカツは揚げたて食べたいしね!みんなで揚げ物パーティしたら楽しいよね!」


 会場で揚げたてをみんなで作って食べたら絶対美味しい。

 野菜とかも衣をつけて揚げたら絶対美味しい!


 ワクワクしつつ、夜の宴の準備を進める私なのであった。

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