第25話 ぼくとわたしのお風呂事情①
「お風呂に入りたい」
団長さんとの駆け引きの夜から1週間とちょっとが経ちました。
あの後からは特に何も無く、たまに一緒にお茶したり他愛ない話をするくらいで付かず離れず、お互い穏やかに過ごしております。
団長さんが私の言葉をどのように咀嚼したのかは分からないけど、頭のいい人だろうから決心したらあちらから何かしらアプローチするか何か言うだろうと私は思ってる。
それに、あの夜から金色の獣も見かけないし、聞いたはずの遠吠えだって聞いてない。
極めて平和に日々を過ごしております。
「お風呂……ですか?」
そして今はお昼の戦争が終わり、闇の日なので騎士達の午後訓練はお休み。なのでルー達とダラダラと食堂でお茶菓子を食べながら休憩中。
私の突然のつぶやきから、聞き慣れない言葉をルーが反芻して質問してくる。
「そう、お風呂。私の故郷、日本では大きな釜に水を入れて熱した湯に浸かるという文化があるのだよ」
「湯に……浸かる、のか?」
「自分を煮込むのです?それは拷問なのです」
「うわあ、ぼくは遠慮したいなあ……ダシがでそうだよう!」
三人組はなんか凄いことを連想しているな?
海外から来た外国人のような反応をしよる。
ふむ、では日本の文化をちょっと教えてあげよう!ふっふっふ……。
「ノンノン。煮込むのではなく、熱いお湯に浸かるの。場所によっては地下からお湯が出る所もあってね?そこを温泉と呼んでる。みんなで裸になってお風呂に入る所なの」
「みんな……は、裸で!?」
ルーが真っ赤になっている。お年頃ですね。
「そう、老若男女入れる所もある。でも男女別れてるのが普通かな?」
「男女別、とか!そ、そそそそんなの当たり前だろ!」
「老若男女!大勢で!しかも裸を見せ合いながら入るなんて!なんという不埒!」
「ほへぇ……不埒な拷問ってざんしーん」
ダンも真っ赤になってるし、ヤックに至ってはなんか憤慨してるし、ポールは……うん、そのままでいて?
このアズール王国は基本中世辺りの文化に似ていて、お風呂文化は無かった。
シャワーみたいな魔道具からお湯が出るんだけど、宿舎のシャワー室は間仕切りの個室になってる。
キャンプに行くとシャワー室あるけどそれがいっぱいあるっていうイメージだね。
なのでシャワーをする時に他人に裸を見せる習慣がない。
それは国民全員、階級とか関係なく、らしいから徹底してるね。
シャワーがない所は桶にお湯はって布で拭くとからしいよ。
でもそれは本当に貧民の所だけで、村には必ずシャワー室みたいな小屋があるからそれを村人全員で使うんだって。
このアズール王国の平民街にもそういった施設があるから、自宅にシャワー室を作れない所に住んでる人シャワー室がない安宿泊まりの冒険者とかそういう人がお金を払って使うそうだ。
そういう所はまず室内着を渡されるからそれを着込んで大きな一室に入る。その中にはベンチがあるから自由に座ってみんなで蒸し風呂に入るらしいよ。
そして最後にシャワー室で室内着を脱いでから汗を流す……という感じらしい。
日本で言う銭湯……というかサウナみたいなものだね。
それで、個室のシャワー室はどんなもんかと言うと腰掛けベンチが壁に備わってるからそこに座れる。入ると床から湯気が出る仕組みになってて、ミストサウナみたいになる。多分これも魔道具の力なのだろうけどどういう仕組みなのかはファンタジーなので!と言うゴリ押しみたいなのを感じる私である。
基本的な使い方はサウナで身体を温めてシャワーで流す、みたいなのが一般的。
これが結構良くて、使ってたら穴という穴から老廃物出てきてるのかめっちゃ肌がツルツルなのですよ!ちょっと薬草の匂いがするのも好きだし、使ってる石鹸も蜜蝋か何かなのか肌馴染みがいい。
髪だけは申し訳ないけど異世界……私の私物を使ってますがね!もちろんチート仕様です。お察しください。
ちなみに私が使ってる部屋には有難いことに個別にシャワー室とトイレが付いている。
そうそう、このトイレも曲者なんだけどね。
三階の部屋には多分部屋それぞれに付いてるんだと思う。
ルー達や他の騎士達は1階にあるシャワー室を使ってるので絶対すれ違わないから、キャ!エッチー!なんて言うイベント展開はない。
そんなお風呂事情のアズール王国は国民達の貞操観念が高めだ。
なので四人には日本の文化が信じられないのか話せば話すほどショックが大きいらしい。
温泉宿とか銭湯とかサウナとか事細かに話したし、国民全員の家には必ずお風呂場があるって言ったら国民全員が貴族出身だと勘違いされるし、とことん文明が違う事を再確認した。
「あーあ、話してたら本当にお風呂が恋しくなってきたよ……作れないかなあ……湯船……」
私はそんなにお風呂に浸かりたい人ではない。シャワーさえあれば事足りる派である。
日本にいた時にだって1ヶ月に何度か、しか湯船には浸からないなんてこともあった。
しかし、今。
私は湯船に浸かって足を伸ばし、極楽、極楽~!と言いたい!
あわよくばお湯に浸かりながらお酒を飲みたーい!
「……作れば?」
ダンが当たり前のように提案してきた。
「そうですね、作ればよろしいかと」
ルーも賛成のようだ。
「そう言えば使ってない部屋がいくつかありましたね。そこを改造すればいいのでは?」
憤慨していたヤックもなんだかノリノリである。おい、不埒!はどうした、不埒!は。
「ケイ様がやりたい事は全面サポートの上やられて良いとの団長様のご命令なので、ご不満があるならやってしまえば良いのです。……それに……」
そうだ、ルーは私の身の回りの事や困った事があれば手伝えと最初の時に言われたと言っていたのを思い出した。そんなルーが、チラッと視線を流した。
それをみんなで追うと……
「ん?なあに?」
「え……なんでポールなの?」
呑気に茶菓子を食べながらポールが首を傾げる。私も何故ポールなのか全く検討がつかないのでつい聞いてしまった。
本人は話を聞いていたのか無いのか、みんなの注目が集まって不思議そうにしている。
そんなポールを無視して他の3人はニヤニヤと企み前の悪い顔。
「幸い、今日は闇の日で魔力マシマシです」
「火なら俺の魔石があるな」
「水はボクの魔石がありますですし」
「「「後はポールの土魔法があれば出来る」」」
「え~……?」
みんなの期待に、ポールは面倒くさそうにしている。
今の彼にとってはお茶菓子を食べるという事が優先すべき行為であり、しかも今は騎士達のお食事戦争が終わった後の休憩中だ。当然彼の中では休みモードでお菓子タイム、お風呂という行為に興味が全く持てないのだろう。
今も三人に促されているが動こうとしない。
……これは、動かざること山の如し、だ。
「ポール」
「なあに、ケイ様あ」
私に呼ばれてお菓子を食べる手を止める。
こういう所はちゃんとしてるので偉い子。
「もし、手伝ってくれたら……」
「手伝ったら……?」
ポールの好きな物は把握している。
私は、ニヤッと悪い笑みを作る。
「バターがしみっしみで、はちみつたーーぷりの、ふわっふわで、もっこもこの雲みたいなお菓子……食べたくない?」
「ヤック、空いてる部屋って何処?今すぐ行こぉ!」
契約成立。
……ふっ、これが悪魔との契約と知らずに……ふふふ。
「待て待て、作るにしてもどんなもんか説明してもらわなきゃ出来ねーだろ」
先走って食堂から離れようとするポールに、ダンが落ち着けと諭す。それを聞いてポールも足を止めて戻ってくる。
「では、ケイ様に図面を書いて頂くのは?」
「いい案ですね!その方がやり易いですし、紙とペン持ってきます!」
言うや否やヤックが備品を取りに行った。相変わらず頭の回転が早いので行動は早いし、必要な材料なども手配していた。恐るべき男である。
そして五人であーでもない、こーでもないと会議をした後、お風呂を作る作戦は決行された。
この私のほんの小さな呟きが、よもや国をも動かす自体になるとも知らずに……。
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