第14話 カレーは魔の食べ物
「みんな仕事終わってるみたいだし、私も急がなきゃ!」
さて、次はメインのスープカレー作り。
……の、前に塩スープを味見。うーん、やっぱりなんのコクもない、塩辛いだけのスープだ。
このままカレー作ってもきっとカレールーのおかげで美味しいし、スパイスで誤魔化されてしまうだろうけど、今、丁度野菜クズがある。
よし、ベジブロスを作っちゃおう!
自分の料理から出た野菜クズと、見習い騎士さん達から出た野菜クズを集めて一旦綺麗に洗う。
なんでもいい訳じゃないのでそこは厳選している。人参の皮、じゃがいもの皮、かぼちゃの皮……玉ねぎの茶色の皮はちょっと苦味がでちゃうから少なめに。
玉ねぎの皮でお茶も出来るから余ったやつは乾燥させたいな。
かぼちゃのたねは特に優秀だから大事にして。
集めて綺麗にした野菜クズを寸胴鍋に入れて水を入れて煮込む。途中でアクが出てくるからそれは丹念に取っていく。
「あの……ケイ様?ゴミを煮て、何を?」
フライドポテト戦争が終わったらしいルーが鍋の中身を不安そうに眺めながら近づいて来た。
私の一見したら狂った行いを怪しみつつも、ここからはお手伝いしてくれるみたいだから、アク取りをお願いした。
教えたらあっさり出来ちゃうルーは優秀です!
ただ、何をやってるのか分からないみたいで作業しながら質問してくる。
「ふっふっふー!これはね、ベジブロスって言って野菜クズを利用して作る野菜の出汁だよ!」
「野菜の、だし……ですか?」
「そう、出汁。今回は材料がないから野菜にしたけど、海藻や魚の乾燥させたものを煮出したものを出汁と一般的には言うかな?」
「海藻や魚を、ですか?」
「あとは骨を煮て作ったりするよ?鶏ガラ、豚骨、牛骨……種類によって違う美味しさがある。出汁は料理の基本だから、覚えておくといいよ」
「骨……」
この世界にはお肉があるので、当然骨もある。
卵があったので絶対鶏ガラはあるはず。
骨、と言ったら、すっ……と食料庫をルーが見たのでゴミとして保存してあるか、そのまま骨付きのお肉があるんだろうな。
今度コンソメ作りを教えなきゃ。
ベジブロスはルーに任せて、私はサラダを作ろうと思う。
野菜サラダはルーが作る簡易ドレッシングでも美味しいんだけど、せっかく白ワインビネガーを発見したのだからここはドレッシングの基本、フレンチドレッシングを作ります!
材料は簡単。油と酢と塩、以上。
私はスパイスボックスから胡椒も入れちゃうけどね。
ルーに教えた乳化の要領でつくる。
これは基本なので、あとはアレンジして人参と玉ねぎをすりおろして砂糖で整えたり、大根おろしを加えて醤油で整えたり、基本のドレッシングは使わずに、単純にマヨネーズとニンニクと粉チーズでシーザー風にしてもいい。
今日はかぼちゃとさつまいものコロコロサラダを添えるからフレンチドレッシングで食べちゃう。
コロコロサラダは茹だったさつまいもとかぼちゃ、マヨネーズと砂糖、塩を加えて混ぜるだけ。
すこーし形が残る位まで混ぜるのが私は好み!
最後に付け合わせに干しぶどうを天盛りする。
これで甘しょっぱいデザートサラダの完成!
あ、天盛りってのは大盛りじゃないよ?
盛り付けの技法で、よく小盛した小鉢の上に葉っぱを飾ったりネギを散らしたり、針しょうがを飾ったりすることを和食の技法で天盛りって言うのです。
「ケイ様ー!アク取り終わりましたー!」
タイミング良くベジブロスも出来上がったので、少し味見。野菜の甘みがでた、優しい味。
ルーにも味見させたら、びっくりしてた。
そりゃ誰もゴミからこんな優しい味が出るなんて思わないよね?
見習い騎士達も飲みたそうにしてたから今後のためにお裾分け。
保存するために寸胴でいっぱい作ったから使う分だけ小鍋に移す。
ベジブロス入りの小鍋に塩辛スープを足していく。
これで丁度いい塩梅になった。このまま飲んでも絶対美味しいだろうな。
しかし今日はカレーです。
持ってきたカレールーの箱からひとかけらのルーをポチャン。くるくる回して濃度を調整しつつカレールーも追加していく。ふむ、カレールーは新品のように復活しております。これが女神様のチートチカラ……。
あとはmottekeのシナモンスパイスとほりかわシリーズの赤(めっちゃ辛い)をぱらぱら。
これで味に深みが増すのと辛さが出る。
少し味見を……と思ってたら、キラキラした瞳をしたルー……
「あの……ルーくん?」
「ケイ様……これは、何の匂いですかっ!?」
「カレーだけど、ちょっと味見する?」
「はいっ!」
待ってました、と食い気味で返事を返すルーだったけど、後ろから見習い騎士の「ちょっとまったー!」が聞こえた。
「さっきからルーだけズルいです!」
「俺たちもケイ様から料理習いたい!」
「あわよくば味見したぁい!」
「「「ルーだけずるい!」」」
見習い騎士がわらわらと集まってきた。
最初は遠巻きにして見ていたくせに、ベジブロスを飲んでこのカレーの匂いにつられたのか今は食欲の権化である。
「え、えと……全員に味見させてたら私の分無くなるんだけど!?」
ルーを筆頭にギャワギャワと誰が味見をするかの争いを始めてしまった厨房の人々……全然話を聞かない。
全てあげる訳にはいかないんですが!?
私がどうしようか、とあぐねいていたら食堂の方も騒がしくなっていた。
「なんだあ?今日はやけにいい匂いだな」
「嗅いだことの無い、美味しそうな匂い……」
「おーい!厨房の奴ら、俺らの飯はー?」
「うわっ、めっちゃいい匂い!!」
「「「今日の飯、何!!?」」」
……訓練を終えた騎士達が来てしまった。
気付けばカレー臭は厨房始め、食堂に漂い訓練場まで伝わっていたそうでざわめきは止まらず。
味見戦争をしていた厨房の見習い騎士達も、騎士達が来てしまえば自分らの仕事が始まるので作っていたご飯を渡していく。
しかし、匂いの元となる料理は当たり前だけど彼らの食事には無い。
とすると、当然不満というか講義の声が聞こえてくるわけで……
「ふざけんな!こんないい匂い垂れ流しておいてその料理が無いとか!!拷問かよ!」
「出せー!この匂いの元を出せー!」
「訓練してた時から楽しみにしてたのに!」
「「「「料理を出せーー!!」」」」
今にも戦争が起きそうな勢いでカウンターに押寄せる騎士達。
どんどん講義の声が殺到している。
これにはどう対応したものか、と見習い騎士もあわあわ、私に助けを求める。
なまじ訓練で腹ペコの上にこの匂いだ。
まるで野獣のようだ。
空腹を刺激されるのは仕方ないし、何より現世でもカレーで戦争が起きるくらいなのに、まだカレーというものを知らないこの世界に戦争の火種ともなるカレーを、まだ見ぬ料理を作り上げてしまった自分のせいでもある。
ベジブロス入りの寸胴と、しょっぱいいつもの塩スープ入りの寸胴を見つめる。
……全員分のスープはある。
私はため息をついてから、覚悟を決める。
「皆さん!この匂いの元となる料理はすぐ作ります!なので静かにしてくださーーい!」
「おお!本当か!?」
「やった!食べられるぞ!」
「なんでもいいから早くくれ!」
「「「早く!我らにこの匂いの元を食わせろ!!」」」
食べられると分かれば騎士達も大人しくなる……かと思えばその安心感からテンションは爆上げ、これから討伐行くの?と言いたくなるくらいの士気が上がっている。
大量にベジブロス作っておいてよかった……。
「ケイ様……」
「諦めて、ルー。今から戦争だ」
騎士達の雰囲気に圧倒されたルーが私の服をきゅっとつかんで騎士達の狂った様を見つめながら不安気に私を呼ぶが、もう、後戻り出来ないのだよ……ルーくん。
新しい寸胴にベジブロスと塩スープを合わせてカレールーを入れてカレースープを拵えた。
この非常時だ。具なぞ用意せぬ!
元々具なしのスープが平常なのだし、カレー味のスープだけでも満足してくれるだろう。
あ、蒸かし芋にスープカレーをかければいいのか。
この状況なのに己の発想力が恐ろしい。
直ぐにスープカレーを蒸かし芋にかけたものを騎士達に出すと……それからが凄かった。
我先に料理を手に入れようと殺到する騎士達の戦争。
連携プレーを見せる厨房だったがそれを上回る騎士の食欲の戦い。
これは後にカレー戦争と呼ばれ、カレーの日には治癒班が待機することになるのはまた、別の話。
「カレーは魔の食べ物……ボク、覚えた」
カレーを奪わんばかりの勢いの騎士達を見ながら、呟くルーであったがこの後のおかわり戦争に巻き込まれた彼と私がカレーにありつけたのは心身ともに疲弊した後だった。
なを、チーズは入れられなかったのでそっと返しておいた。
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