第3話 だから言ったじゃんよ!

「何だこのステータスは……」


 司祭様が信じられないという驚きのポーズを大袈裟にしております。

 空に願ったり地を見たりなんだか忙しそうなんですが、これ声を掛けていいの?だめなの?


 とりあえず司祭様はほっておいて、自分のステータスを見る。



【鑑定】

名:山野 ケイ

齢:26

種:異世界人

Lv:5

体力:25

魔力:38

攻撃:128

防御:310

持ち物:バックパック

スキル:空っぽ

固有スキル:mamazon

加護:■■の加護


 ――……うん、全然わからん。

 誰か解説頼みます。


「なっ!?スキルが、ない……だと!?」


 絶句する王子。

 いつからスキルがある事が当たり前だと思っていた?

 一瞬空っぽっていうスキルなのかと思ったけど違うみたい?


 王子、凄く期待していたのか崩れ落ちる。

 これが世にいうわかりやすい落胆である。

 まあ、演出があんな豪華でしたのに結果が聖女の、せの字もないし。そうなりますよね、わかる。

 でもこちとらスキルなんぞない世界に居たもんで、何もないって言うこれが常日頃で国民……というか世界の当たり前で常識なんですよね。

 しかも私はこっちの世界、来たばかりだし知識はあるものの生後二日の赤ちゃんと同じですよ、はい。

 ってか防御だけすんごいけどこれは当たり前なのかな?

 あと一部読み取れないところあるし。

 誰もつっこまないから読めないものとか当たり前なのかもしれない。そういうことにしておこう!


 周りは『信じられない』とか『あの見た目で26歳!?』とか『子供と思っていた』とか『レベル低い』

とかざわめきが聞こえております。

 おい、聞こえてるぞ。

 私の見た目とかどうでもいいから誰か解説して!!


 ……と、心の中で思ってたら復活した王子がステータスを見てわなわなと震え出した。

 あ、これ知ってる。

 怒る時の5秒前だ。


「ふ、ふざけるなあ!!何だこのステータスは!平民以下では無いか!!」

「で、殿下……落ち着いて……!」

「これが落ち着いて居られるか!国の威信を掛けたんだぞ!?それこそ莫大な金と魔力と魔道士を揃え、やっと漕ぎ着けた召喚の儀だったんだぞ!?それを……っ」


 叫ぶ王子に宥める宰相さま。

 あ、やっぱ平民以下なんだ?何となく分かってたけど。

 事前に聞いていたからこのステータスだとダメなんだってことくらいわかるわけで、しかも聖女だとか勇者だとか期待させるような演出がありーのの後のこれだと流石に怒るよなあ……て私でもわかったわ。

 でも私のせいじゃないし、勝手に呼び出したのはそっちだし。


 完全にハズレとかざまあみろ。

 異世界人ガチャとかあったらこの世界の人、確実にSSRのつもりがNを引いたってことか。

 しかも、重課金してまでの、N。

 このままお疲れ様っしたー、って言って元の世界帰してくんねえかな……。


「おい、お前」

「へ?」


 お?バカ王子が呼んでるっぽいぞ?お前、宰相っぽい、メガネの人とやり合ってませんでした?終わりました?

 いきなり声をかけてくる王子が、びしっと私に向かって指を指す。


「追放だ」

「はあ……」

「良いか!?何度も言うが、こっちは私財も魔力も国の名誉も何もかもをかけて異世界人を召喚したんだ!なのに召喚したお前はなんだ!まったくもって平凡!平民以下!!」

「みたいですね?」

「そんなゴミはいらん!よって、追放を命じる!!……顔も見たくない、我はもう部屋に戻る、後は宰相とでも話せ。お前には失望した」


 言いたいだけ言って、王子は肩のマントを翻して謁見の間から出てった。

 同時に国宝級の水晶とかも魔道士さんが持って行って部屋から出てってしまったので、必然的に人数が少なくなったのでシーンと静まり返った部屋には、私と宰相っぽいメガネと、近衛騎士さん数名、司祭様が残る形となった。


 勝手に期待して失望して文句言って追放とか、本当暴君極まりないな。

 私はため息をつくと、あわあわと未だ落ち着かない様子の宰相メガネに向き直る。


「とりあえず、質問いくつかいいです?」

「は、はい……!」

「私は絶対元の世界に帰れないの?」

「そ、それは……」

「それは私が話しましょう」

「司祭様……」


 明らかにほっとしたメガネ(で、いいや)は一歩引くとあとは任せたとばかりに視線を床に。

 言いにくそうに、司祭様が口を開く。


「残念ながら、今の所帰す手立てはございません……」

「デスよね……そんな気がしました。じゃあ、すぐに追放ってのも異世界人……あ、私からしたらあなた方のが異世界人なんだけど、それがこの世界じゃ当たり前なわけ?随分と失礼だよね」

「それに関しましては誠に申し訳なく……」

「勝手によびだしておいて帰せません、能力無いなら追放とかあればあるで命張って国を救えとか……それがお前らのやり方かー!」

「……う」


 何も言えなくなった司祭様。

 本当は王子に言うべきことなんだけどね。いないし、今。私からしたらこの国の人に不信感しかない訳よ。

 もう、客とも思われてないことはわかったわ。

 司祭様も聖女と違うと分かったら、ちょっと態度に粗が目立つようになったし、宰相さんも気まずそうにするだけだし、もう早くここからいなくなりたい。


 そう思ったら、やることはひとつ。


「もういいや。あなた方に言っても仕方ないです」

「申し訳ない……」

「私からは、当面のお金と身分保障を貰えばもういいです。あとは勝手に生きていきますから」

「そ、そんな事でいいんですか?」

「追放って言ったの王子でしょうよ」

「それはそうですが……」


 再び黙る司祭様。

 上の命令は覆せないもんね。そりゃこっちの世界でも当たり前だろうし、むしろ王政なら王族の命令は絶対だろうなぁ。

 助けたくても助けられないって所でしょ。

 でも、まだ抜け道はあるのだよ?


「幸い、追放って言われただけだし。この国からとも何処かとも指定がなかったから、良いように捉えてこの部屋から、にするから」

「お、おお!なんと頭の良い!それならばしばらくはこの王宮にご滞在なさり、この世界の事を知るのがよろしいかと!お部屋はすぐに準備します」

「あ、それはお断る」

「え!?」


 急に話に入ってきたメガネに冷たく言いはねる。

 

「あなた方の施しはいりません。当面のお金と身分保障だけください。あと、ちょっと疲れたからここ来る前に通った中庭のすみっこ貸してくれればそれで」

「は、はい……直ぐにご用意します」


 私の態度に怒りを感じてくれればいい。

 すごすごと部屋を出ていくメガネを見送って、私も同じように謁見の間を出てく。

 途中で預けていたバックパックを受け取ってたらタイミング良くメガネがお金と身分保障となんだかよく分からんが本をくれた。

 多分この世界の事とか書いてるんだと思う。


 適当に礼をして私は新たな旅立ちへと向かう……前に、謁見の間に行く前にあった広い中庭を歩く。

 見たことない花や、草木、元の世界でも似たようなもの、知ってるようなもの、綺麗に植えられた中庭を歩くと、ここが異世界なんて思えなかった。


 ――……ちゃんと花の匂いはするし、風もあるし、太陽もある。


 とても現実味がない。

 なのに疲れはあるのだからなんかもう、よくわからないが一番だった。

 物語の主人公達はよくもまあ平気でいられるもんだなあ、なんて思った。

 だって普通こんな状況飲み込めないわ。

 今の私には絶対休息が必要だと思うんだよね。



 適当に歩いて中庭を過ぎ、庭の端。

 塀と木々が植えられている木陰にバックパックを下ろす。


「クヨクヨしててもはじまらない、まずは寝床!拠点!ここを今日のキャンプ地とする!」


 切り替えの速さは、もとの世界で鍛えられてるから慣れている。

 私は早速バックパックから荷物をひっくり返してテント諸々を設営していく。

 野営に必要なものは全て揃ってる。

 逆にキャンプ行く途中で良かった、なんて考えながら私はテントを張っていった。

 ものの10分もかからない、ペグも打ちやすかった。非自立式のワンポールテントだからすぐにでも寝転がれる。


「……寝床は完成したし、もう、なんか疲れたし、とりあえず寝るか……」


 蛇腹式のウレタンマットを床に敷いて、ゴロンと寝転がるとよく知ったテントの天井に、なんだか急に安心してしまって、私は眠りすぐに落ちたのであった。



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