プール


 爺さんの家から帰ってきて1週間。その週末は綾香の友達達とプールに行くことになっていた。俺の役割は引率だ。


 というわけで車に綾香、桜ちゃん、白ちゃん、黒ちゃんを乗せてプールに向かっていた。


 翡翠は一応誘ったが人が多いから遠慮すると言ったので母さんに1日見てもらうことにした。


 プールまでは少し遠いが1時間程で着いた。俺はさっさと着替えを済ませて荷物を持って出口で4人を待つ。


 プールの方を何となく見ながら待っていると突然空気感が変わり更衣室の出口の方へ視線が向く。俺もつられて向くと綾香達がこちらへ向かってきていてこのざわめきの正体を知る。


「お待たせ」

「ん、今日はラッシュガード着てくれてるんだな」

「冬夜くん以外に見せるつもりないもん」

「ありがと。今日もすごく可愛いよ」

「冬夜くんもこの前とは少し雰囲気違ってカッコイイよ」


 お互いに褒めあっていると直ぐに横槍が入ってくる。


「2人とも直ぐにイチャイチャするんだから」

「おにーさん、プールなんだから早くいくよー!」

「えっ、あっ!黒ちゃん!?」


 強引に黒ちゃんに手を引っ張られて荷物の置けそうな場所へと向かわされる。その後に3人が付いてくる。


 綾香以外の水着だが、桜ちゃんはフリルの付いたビキニ、白ちゃんはワンピースタイプのもので、黒ちゃんは白のビキニ。綾香と被っているが唯一違う点はラッシュガード等を一切身につけていないこと。


 今小走りで連れ回されているがその度に綾香よりも大きいであろう立派な双丘が揺れる。俺は黒ちゃんにラッシュガードを貸すべきかもしれない。


「黒ちゃん、ストップ」

「どうしたんですか?」

「これ着て」

「ラッシュガード?どうして?」

「いいから」

「でもそれだとおにーさんが……」

「俺は大丈夫」

「……わかった」


 渋々と言った感じで黒ちゃんが俺のラッシュガードを着てくれる。というか桜ちゃんも羽織ってるし綾香も着てるんだからそれに習わなかったのだろうか。……ないか。


「わー!おにーさんのぶかぶかだー!」


 黒ちゃんが俺のラッシュガードを着てはしゃぐ。確かに袖はぶかぶかかもしれない。けど裾はぴったしだ。胸で押し上げられてるからいい感じになっている。


「冬夜くん……」

「綾香、これは許されてもいいと思う」

「まぁ黒ちゃんが着てくれるならいいよ」

「冬夜さん、ありがとうございます」

「これぐらいはな」

「強引に着せないと絶対着ないもんね」

「ほんと黒は……」


 白ちゃんが眉間に皺を寄せる。日頃から苦労しているのだろう。俺にはどうしようもないのでせめて今日ぐらいは気にかけておこうと決める。


 そうこうしているうちに荷物を置ける場所に付いたので簡単に纏めて置いておく。鍵付きロッカーだし盗まれる心配もない。


「じゃあ冬夜くん、今日もお願いね?」

「今日ぐらいは自分でやらない?」

「えー」

「……仕方ないな」

「やったー!」


 綾香に日焼け止めを渡されてビーチの時にやったように塗っていく。その様を3人に見られながら。


「おにーさんって綾香の言うことは何でも聞くよね」

「好きだからでしょうか?」

「ねー、早くいこーよー」

「黒も日焼け止めを塗りなさい。それからよ」

「ぶー……」


 黒ちゃん日焼け止め塗らないと大変なことになるぞ、1日外にいることを舐めちゃいけない。昔それで春弥が大変なことになってたし。というか女の子なんだから最低限気を使ってほしい。


「おにーさんが私にも塗ってくれたら大人しくするよ?」

「黒!?」

「白ちゃんじゃダメなのか」

「お姉ちゃんは違うんだもん」

「綾香は?」

「綾香ちゃんでもいいよー」

「じゃあ綾香よろしく」

「任せて」


 日焼け止めを塗り終わった綾香が黒ちゃんに日焼け止めを塗っていく。ちなみに俺が綾香に塗ったのはだいたい触ってもいい場所だけで胸とかは塗っていない。その辺は綾香が自分で塗った。


「ん、もういいよ」

「ありがとー」

「じゃあ行こうか?」

「そうね」

「ええ」

「うん!」


 桜ちゃん、白ちゃん、黒ちゃんが順に返事をしてそれぞれプールへと駆け出す。そして黒ちゃんが幅跳びの選手かと言うぐらいのジャンプでプールに飛び込む。


「いやっほー!」

「黒!飛び込んだら危ないでしょ!」

「だいじょーぶだよー」

「ほんとにもう……」


 そんな黒ちゃんとは反対に桜ちゃんと白ちゃんは静かにプールに入る。綾香はというと浮き輪を浮かべてその上に座ってぷかぷかと浮いていた。


「綾香は泳ぐ気ゼロか?」

「こういうとこはゆっくりしたくない?」

「わからんでもない。浮き輪は俺が引くよ」

「ありがと」


 桜ちゃん達が3人で水を掛け合って遊んでいる中俺たちはその周りでゆっくりと移動し続ける。


 しかしそんなゆったりとした時間が続くはずもなく、突然飛んできた水しぶきが顔にかかる。


「わぷっ」

「大丈夫か?」

「うん、でもやり返さなきゃだよね」

「だな」

「冬夜くん協力してくれるよね?」

「当然、完璧なサポートをしてみせるよ」

「お願い、特に黒ちゃんには痛い目に合わせなきゃ」


 お互い意識のスイッチを入れ替えて本気で水遊びの姿勢に入る。特に綾香の目付きなんて熟練の兵士のようだ。


「あ、私やばいかも」

「白ちゃん逃げるよ!」

「ええ!綾香さん達相手に勝てる気がしません!」

「逃がさないよっ!」


 潜っていた綾香が水中から飛び出して3人の後ろに現れる。俺は綾香と2人を挟むような位置取りをする。


「さ、本気の水遊びの時間だ」

「逃げ場なんてあると思わないでね?」


 こうしてほぼ一方的に(主に黒ちゃんが)びしょびしょになる水遊びが始まった。

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