通学路で


「綾香は来週行ったら夏休みだっけ」

「うん、テストがあってそれが終わったらだね」

「文化祭の直後にテストは相変わらずキツイな」

「おかげで夏休みは長めだけどね」

「8月の最後までしっかりあるもんな」

「一番暑い時期家にいれるし、私的には結構いいシステムだよ」

「勉強嫌いじゃなければ最高だよな」

「ねー」


 朝ごはんを食べながらそんなことを話す。俺も夏休みはあるがやはりお盆周辺にしかないのでそこで綾香と色々するしかない。ほんと同じ学生だったらどれだけよかったか。


「というか指輪はネックレスみたいにしてるんだな」

「うん、派手じゃなければアクセつけてもいいけど指だとちょっと目立つしね」

「ネックレスも十分目立つだろ」

「薬指につけるよりましじゃない?」

「それもそうか」

「まぁどこにつけても言われると思うけどね」

「文化祭で散々イチャついたしな」

「今日いくのがちょっと憂鬱になってきた……」

「がんばれ~」

「冬夜くんも詰め寄られたらいいのに」

「俺は指輪とかつけてないし」

「くっ……」

「そんな悔しがらなくても」


 結構本気で悔しがっている綾香をみて多分いつかプレゼントなりお返しをされるんだろうなと思う。その時はきちんとつけて会社にいくけどな。俺が綾香に渡したのは婚約指輪みたいなものだしいずれお互い結婚指輪を付けることになるだろう。


 朝ごはん食べ終えて洗い物をして着替えて仕事に行く準備をする。久しぶりに綾香と一緒に行けるのいつもよりで少しだけ気分もいい。


 準備を終えてリビングにいけば今日は綾香の方が早くてすでに待っていた。


「お待たせ」

「それじゃ一緒に行こっか」

「おう」


 家をでて一緒に歩きだす。その距離は以前よりも近くなっていて恋人という雰囲気がでているような気もする。


「ほんと暑くなって来たね……」

「綾香はもう夏休みなんだからいいだろ」

「お仕事頑張ってね?」

「毎日応援してくれたら頑張る」

「じゃあ行ってきますのチューを毎日しなきゃね」

「完全に新婚夫婦だな、それ」

「それでいい気もするよ?」

「夫からキス許されてない夫婦ってなに」

「ヘタレなのがいけないんじゃないのかな~?」

「逆に高校生に手を出してるほうがやばいと思う」

「私はいつでもウェルカムだよ?」

「だから誘うな」


 綾香の頭に軽めのチョップをいれて躾ける。毎回俺の理性が限界まで削れているのを知ってほしい。どれだけ耐えるのが大変なのかも。


「綾香はただでさえ可愛いんでしほんとに気をつけてないと襲うぞ」

「ぇあ、……うん」

「なにその反応」

「急にそういうことするのほんとに卑怯」


 ポコポコと腕を叩いて起こっているように見せる綾香。少し考えて理由を察した俺はさらに追い打ちをかける。


「綾香はすごい魅力的だし、誘惑の仕方がうまいしいつも大変なんだぞ?」

「もぅ……ばか……」

「そういう照れた顔も可愛いし、ぽかぽか叩いてくるもすごく愛おしい」

「あぅ……」


 どんどん茹で上がっていき耳まで真っ赤になっている。それがかわいくてさらにいじめたくなるが、もうすぐ別れるとこまで来てしまう。


「それじゃ今日も頑張れ、あや」


 そう耳元で囁くと一瞬全身を震わせてその場に立ちすくむ。俺は何事もないフリをしてその場を立ち去る……が実際は俺もちょっと照れくさい。いや、なに道端でやってんの?ほんとにバカップルそのもだろ。俺馬鹿じゃん!


 結局自業自得で俺は今日一日このことを思い出して恥ずかしくなって、悩まされ続けるのだった。



 ーー綾香ーー



 冬夜くんに耳元で囁かれてからちょっとだけフリーズしてた私はどうにか再起動して学校に向かう。


 急に照れさせてきて最後にとどめを刺してくるのはほんとにどうかと思う。しかも朝それをやるってどうなの?今日一日私をどうしたいの?ずっとこの欲求がたまった状態で過ごせってこと?お預けなの?と頭のなかがずっとぐるぐるして冬夜くんのことしか考えられない。


 昨日一緒に寝て解消したはずの欲求が一瞬で帰ってきて今日家に帰ったら絶対襲うと決める。多分やんわり逃げられるけど絶対逃がさない。


「おはよー綾香」

「あ、桜。おはよう」

「……なんか顔赤いけど大丈夫?」

「そう?暑いからかな、ははは……」


 朝から恋人にいじめられたって言えるわけもなくごまかしてみる。


「……絶対おにーさんとなんかあったでしょ」

「そそそそ、そんなことないよ!」

「そこまで動揺する?」

「ど、動揺なんてしてないし」

「ふーん……ってそのネックレスはなに?」

「えっと……」

「と言うより指輪にチェーン通してのを付けてるよね?」

「あの……」

「さぁ洗いざらい吐いてもらうよ?」

「……お手柔らかにお願いします」


 結局通学路で桜にほとんど話した。話してないのはこの2日の休日のことぐらいだ。指輪の下りとか目をキラキラさせながら聞いてきたからちょっと怖かったし。


 早く夏休みになって欲しい。そうすればこんな問答なんて無くなるのにと願う。


「……クラスでも頑張るんだよ」

「あっ……」


 桜にされたことをこれからクラスでもされることに気づいて足が止まる。


 もう帰っていいかな!?私だけ夏休みになりたい!!


 そう心の中で叫んで、桜に引きずられながら教室に向かった。

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