お泊りに向けて


ーー綾香ーー


 朝のHRまでの時間をどうにか乗り切り(服の中にネックレスを隠して)授業を受けてお昼休みになった。


 今日は詩乃ちゃん含めた5人で食堂で食べている。


「綾香さんのお弁当美味しそうですね」

「ん?1口食べる?」

「いいんですか?」

「いいよ〜、何食べたい?」

「えっと……玉子焼きで」

「はーい」


 玉子焼きを箸で掴んで詩乃ちゃんに向ける。すると驚いたような表情で詩乃ちゃんが固まる。


「えっ……あの」

「食べないの?」

「……いただきます」

「どうぞ」


 髪を手でかきあげて口を開けて玉子焼きを食べる。なんだろ、すっごくえろい。


「委員長えっちだね」

「なにをいっふぇるんでふか!」

「飲み込んでから喋ろうね」


 どうどう、と宥めて1度きちんと飲み込ませる。


「……んっ。美味しいです」

「それはよかった。冬夜くんに伝えとくね」

「えっ、これお兄さんが作ったんですか!」

「おにーさんはすっごい料理上手なんだよー!」

「そうね、私達も一度頂いたけどすごく美味しかったわ」

「また食べたいねー」


 みんなが補足してくれて冬夜くんのことを褒めてくれる。もっと褒めていいんだよ?とか思ってると詩乃ちゃんがさっきのことを掘り返す。


「……ところでえろいってなんですか」

「さっきの食べ方が完全に……ねぇ」

「私は言いませんよ!?」

「私も直接は言えないかなぁ……」

「……?みんな何の話してるの?」


 1人だけ純粋な黒ちゃんにはわからなかったらしいが、多分わからないほうがいいと思う。


「今度鏡の前でやってみたら?きっとわかるよ」

「なんで鏡の前でしなきゃいけないんですか」

「口に出すのはちょっと……」

「教えてくれないんですか!?」

「仕方ないなぁ」


 そう言って桜が立ち上がって詩乃ちゃんの耳元でこしょこしょとどんな顔だったかを伝える。すると一瞬で頬が紅く染まり身体がぷるぷると震える。


「私ほんとにそんな顔してたんですか……?」

「してたねー」

「もうやだ、かえりたい」

「見たのは私達だけだし大丈夫だよ」

「私は大丈夫じゃないです!」


 もうだめ……と机に伏して顔を隠す。ふと髪の間から見える赤くなっている耳が気になり指でつついてみる。


「ひゃっ!?」

「あ、起きた」

「いきなり耳触られたら誰でも起きます!」

「これは今度のお泊まりが楽しみだね」

「綾香、いいんちょとお泊まりするの?」

「うん、勉強会も兼ねてるけどね」

「私も誘って欲しかったなぁ」

「それは今度ね、私が言うのもなんだけどそんなに部屋が広いわけじゃないし」

「まぁ沢山いいんちょの弱み握ってきなよ」

「まかせて」

「任されないで」


 2人きりになったらいつもみたいに欲望出してくるんだろうなと思う。帰り道でさえそうだったからお泊まりはちょっと不安だ。まぁ楽しいからいいけどね。


 こうして私達のお昼の時間は過ぎていった。



 ーー冬夜ーー



「そういやお泊まりって今週末だっけ?」


 ソファに座って綾香の肩を揉みながら週末のことを聞く。


「うん、でもするのは勉強会とかだよ」

「確かこないだ送った子が来るんだよな?」

「そだよー」

「まぁ飯とかは準備するし綾香はそっちに集中しろよ?」

「もちろんだよ、今回も学年1位は目指してるしね」

「1位取ったらご褒美あげるからな」

「ほんと?」

「おう」

「じゃあ私が冬夜くんのことを好きにしてもいい?」

「それはダメ」

「ちぇっ」


 だってそれされると俺がどうなるかわからないもん。絶対大変なことになるのは確かだし。


「あ、布団出さなきゃな」

「……完全に忘れてた」

「まぁ母さん達が来た時用のがあるし」

「よかったぁ……」

「まぁ最悪俺がソファで寝て、布団を綾香に貸せば解決だけどな」

「それはダメだよ!」

「やっぱダメか?」

「私が冬夜くんの匂いがする布団でもつとでも?」

「なんで自信満々に言うんだ」

「1時間でダメになる自信があるよ」

「こないだよく寝れたな」

「あれは冬夜くん本人がいたからね」

「それはいいんだ」


 綾香の肩揉みを終わって今度はソファに寝てもらい肩から背中、腰にかけてを押していく。


「んっ……もうちょい強く……」

「あいよ」

「あ、それぐらい……きもち〜」

「……なぁ1つ聞きたいことあるんだけどいい?」

「なぁに?」

「胸潰れてて苦しくないのか?」

「……私以外に聞いたらセクハラだよ?」

「それはわかってるよ」

「ちなみにちょっと苦しいぐらいかな?ザ、巨乳!じゃないし」

「黒ちゃんサイズとか?」

「黒ちゃんは多分大変だね〜」

「夏とか特にな」

「私でもちょっと蒸れるからね〜……もうちょい下の方お願い」

「ん、やっぱ胸大きいとそれなりに悩みもあるんだな」

「私はこのサイズで冬夜くんが誘惑出来ないことが悩みだよ」

「それは相手が悪かったな」

「でもマッサージしてくれるからなんとか釣り合ってるよ」

「肩こるだろうしな」

「その代わりに揉み心地はいいよ?」

「急に誘ってくるな」


 お互いいつもはしない会話をしている分気分もいつもとは違う。今誘惑されると非常にまずい気がする。


「さて……こんなもんか?」

「ありがと〜、ん〜!だいぶ軽くなった!」

「よかった」

「冬夜くんは疲れてない?肩ぐらいなら揉むよ?」

「んじゃちょっとだけ頼む」

「はーい」


 場所を変わって今度は綾香に肩を揉んでもらう。


「……胸当たってるぞ」

「当ててるんだよ?」

「てか肩揉みながら当てるって難しいだろ」

「おかげで揉み辛いです」

「当てなくていいからちゃんと揉んでください」

「りょうかーい」


 今度は普通に揉んで貰い10分程でマッサージを終わる。


「ありがと、楽になった」

「よかった」

「んじゃ俺はそろそろ寝るわ」

「うん、私ももうすぐ寝るよ」

「あんまし夜更かししないようにな」

「わかった。おやすみ」

「おう、おやすみ」


 この日はいつもよりも深い眠りにつけた。ちなみに綾香はちょっとだけ夜更かししてたらしい。

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