1つの結末


 あれからお化け屋敷を楽しんで、他の展示や飲食店などを回って気づけば夕方になっていた。


 来ているのは文化祭だが気分的には遊園地とかに来ていた感じだ。


 やっぱり綾香と一緒にいると楽しいしそれだけ時間も早く感じるのだろう。


 綾香は1度HRや後夜祭の為にクラスに戻り俺はその間屋上で待つことにした。


「相変わらずでっかいキャンプファイヤーだな」


 グラウンドを見下ろすと大きな土台が組まれていて教員が最終チェックなんかを行っている。キャンプファイヤーが始まるのは日が暮れて暗くなってからなのでまだまだ時間があるのでゆっくりとやるのだろう。


 やることがある人はいいが特にすることがない俺は暇を持て余していた。


 もう夏ということで日が暮れるのが伸びてきてまだまだ時間もある、文化祭自体は終わってしまったのでいく模擬店もなければ回る展示もない。


 いっそ図書室にでも行こうかと思っていると屋上のドアが開く。


「あれ、七草くんいたんだ」

「春香先輩こそいたんですね」

「えぇ。キャンプファイヤーが始まってからは屋上には入れないらしいので今のうちに行こうかなと」

「なるほど」


 入れない理由は俺が原因なんですけどね、と心の中で付け加える。綾香に告白している途中で生徒とかが入ってくるのは流石に防ぎたかったので頼んでおいた。


 さらに念を重ねて屋上に入り口には校長先生が立っていてくれるらしく完璧なサポート体制が敷かれている。


 なんでも毎年屋上入り口まえの廊下からグラウンドを見ているのだとか。なぜそんな場所からと思ったが聞かないことにしたので理由は謎のままである。


「……君は今日綾香さんに告白するのかな」

「俺言いましたっけ?」

「ううん、先輩の勘だよ」

「優秀な勘ですね」

「多分気づいてるのはここに来た私だけだし誰も知らないと思うけどね」

「どうして気づいたんですか」

「屋上が入れないって理由があるのに今屋上にいて、覚悟を決めた顔をしてるから」

「俺そんなに顔に出てます?」

「君のことをずっと見てる人にしかわからないよ」


 そう言う春香先輩の顔はどこか悲しそうで理由を聞くのを躊躇いそうになる、が1つ確信を得て俺は1歩踏み込むことにする。


「……春香先輩も俺のことが好きだったんですか」

「うん、愛莉と同じようにね。舞は知らないけど意識はしてたと思うよ」

「俺人気者ですね」

「君は近くにいればいるほど素敵な人だって気づけるんだ。遠くから見てたらわからないけど、近づけば君はその優しさを分けてくれる」

「そうですかね」

「そうだよ。君はほんとに人を落とすのが上手だ。私と愛莉は少なくとも同じ理由で恋に落ちた」

「……そうなんですね」

「愛莉が告白して好きな人がいるって振られたことを知った時私はその恋を諦めたけどね、愛莉とは違って」

「それで気づけなかったんですね」

「……それでも諦めきれなくて昨日君会った時は内心かなり喜んでたよ。おぶって貰った時は1人で盛り上がってた」

「なんかすみません……」

「君が悪く思うことじゃないよ。恋なんて誰かが悪いなんてこと無いんだから。勝手に好きになって、それが実ればよし。実らなければ次。そういうものだし」

「随分達観してますね」

「考え方だけは大人なんだよ」


 確かに恋とはそういうものだろう。告白されて振るのも振らないのも勝手で、そこに悪気なんてものは基本存在しない。それでも振られたりすれば理由を付けたくて何かしらの悪意を撒く。


 特に好きな人がいるって振られた時はそれが顕著に出るだろう。変な噂を流したりなんてことをしてその人の株を下げたりしてくる。大抵意味をなさないが。


「……ああ、1つだけ私のわがままに付き合って欲しいんだけど。いいかな?」

「この話の後で断れるとでも?」

「君なら言ってくれると思ったよ」


 春香先輩が胸に手を置き深呼吸をする。なんとなく言われることを察して俺は改めて先輩の方を向く。



「君の事が好きだった。……私に恋を教えてくれてありがとう」



 夕日に照らされながらそう言った春香先輩はどこか幻想的で今すぐにでも消えそうな雰囲気だった。


 先輩の瞳から零れたは頬を伝って床に落ちる。その姿に言葉が詰まる。


「……っ、俺にそんな顔を見せないで下さいよ」

「……君のその顔を見れたなら私は満足だよ」

「困らせる為だけに泣いたとか言ったら許しませんよ」

「もちろんそんな事はないよ。それに私はようやく君を諦められた」


 涙を拭って立つ先輩は凛々しくて少しだけ気圧されてしまう。


「こんな告白をしても君の気持ちが揺るがないことが私にとって何よりの答えだよ」

「すみませんね……一途で」

「告白が終わったら報告ぐらい頼むよ?お祝いぐらい送るから」

「わかりました」

「……さて、私はそろそろ愛莉達のとこに戻るね」

「はい、じゃあまた」

「うん、また」


 先輩が屋上から出ていったのを見てから俺はその場に座り込む。


「ほんとカッコイイ先輩だな」


 そうして俺は綾香が来るその時を待ち続けるのだった。



ーー春香ーー



 ようやく告白できた。そしてようやく踏ん切りを付けれた。だと言うのに私の目から溢れる涙が止まらない。


「わたし、よわすぎだよ……」


 震える声でどうにか言葉を紡ぐ。この場に誰もいないことがせめてもの救いだろう。


 早く涙を止めて、跡を隠して愛莉達のとこに戻ろうと決めるけど、足が動かなくなってその場に座り込む。


「なん……で、」


 自分が自分じゃ無くなったみたいに動かなくなって座り込む私に影が指す。


「やっぱり泣いていたんだな」

「……あ、いり?」

「全く、告白するなら少しぐらい言ってくれてもいいだろう」

「そうそう、そしたらサポートぐらいしたのに」

「だって、わたしの恋だもん!誰にだってそれを渡したくないから!……だから、だか、ら……」


 元気づけてくれる言葉すら跳ね除けて心が、感情が溢れ出す。


「春香はよく頑張った。ずっと1人で抱えて今までよくやった。だから今日ぐらいは私達を頼れ」

「あっ……うぅぅ……」


 それから私は愛莉の胸で泣き続けた。高校生の時から抱え続けた想いを吐き出すように、そして恋を諦めるように。



────────────────────


ぷち後書き


今回は春香に焦点を当てていますが、生徒会メンバーは全員何かしら冬夜に影響を与えています。


そういった意味で一人一人の回を作りたかったので書きました。


2人に好かれているの冬夜がいけないんです、冬夜がモテるのがいけない。(そうした方が色々と納得できるんだ……)

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