色っぽい


 晩御飯を食べて、洗い物や風呂などのやることを終えてリビングに戻ると案の定PCと向かい合って作業している綾香がいた。


 とりあえず二人分の飲み物とちょっとした甘い物を用意して綾香の隣に座る。


「順調?」

「うん、今日はいつも通りに寝れそ……う……」

「どした?」

「ちょっと、離れて。できれば部屋に……」

「なんで!?」

「なんか今日の冬夜くん色っぽい!」

「えぇ……」

「……あ!ちょっと待ってて!」


 そういって綾香は風呂場の方に駆け出す。すぐに戻ってきてその手にはタオルとドライヤーが握られている。風呂上りなんてなんども見てるはずだけどと思っていたが中途半端に髪を乾かしていなかったのが原因かもしれない。


「髪ちゃんと乾かさなきゃだめだよ?」

「あー……ちょっとめんどくさくなってた」

「そういうことされるとドキドキするから気を付けてね?」

「そういうこと言われるとしたくなるんだけど?」

「めっ!」

「うわっ!」


 めっ!という掛け声とともにドライヤーの風が送られてくる。準備してなかったからめちゃくちゃビビった。その後はやさしい手つきで髪を乾かしてくれる。綾香ほど髪は長くないのでものの数分ほどで髪はしっかりと乾く。


 これで終わりかな?と思っていると。ちょっと待ってて、と言われて座ったままで待たされる。今度はケア用品を持ってきてそれを使って俺の髪をいじくりだす。


「ここまでしなくてもよくない?」

「だって冬夜くんの髪なにもしなくてもさらさらなんだよ?じゃあお手入れしたくなるじゃん」

「そういうものなのか」

「そういうものだよ」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら俺の髪をいじる綾香。結局、綾香が満足するまで俺は髪をいじられ続けたのだった。






「ふ〜、満足満足♪」

「そりゃよかった」


 俺の方が若干疲れてしまったが綾香が満足ならいいか、と納得してお菓子を食べる。


 綾香は作業に戻り、俺もそれを見守ることにする。詰まったりした時に手伝えればいいかなぐらいだけど。


「あ、そこ変えた方がいいかも」

「ほんと?」

「うん、これは……」


 そうして改善点とか修正点見つけてそれぞれ変えていく。そうやってやっているといつの間にか距離がかなり近くなっている。


 お互い集中していたから気づかなかったけどほとんど顔が触れそうな距離だ。


「……あたっ」

「あ、悪い」

「いつの間にか近づいちゃってたね」

「全然気づかなかったわ」

「……唇だったら大変なことになってたね」

「そんなキスは付き合ってからしたいな」

「冬夜くんが告白してくれたら解決するよ?」

「……それは、まぁ……うん」

「明日、期待してていいんだよね?」

「ああ、だからちゃんと来てくれよ?」

「もちろんだよ」


 それからはもう一度作業に集中して無事に終わらせることができた。いつもと寝る時間もそこまで変わっていないので概ね予定通りだろう。


 今日に限って夜更かしはよくない、という結論に2人で至り早々にお互いの部屋に別れて寝ることにする。


「と言ってもまだ眠くないしな……」


 ベッドに転んで見るもまだ眠気が来ないので適当にスマホを弄る。


 ゲームをしたりニュースを見たりするけど一向に眠くならない。


「水でも飲も……」


 こうなったら眠気が来るまで起きておいた方がいいだろうと判断してリビングに向かう。


 水でちょっとだけある眠気を流し込みつつテレビをつけて何かしらの動画を流す。


 動画を見る時はいつも料理動画を見ているけどこの時間にみると流石にお腹が減ってくるのでゲーム実況を適当に探す。


「久しぶりに見るなあ」


 ライブ中の配信者を見つけて見るけど少し見ていない間にゲームも配信者も変わっていて、驚きを受ける。


 とりあえずやることもないので配信を見ることにするがものの10分程で飽きてきてしまう。


「夜って暇だな」


 テレビ等を消して飲み物だけ汲んでから自分の部屋に戻りPCを付ける。


 さっき見ていたゲームをやってみたくなって起動してみる。幸いにもアップデートなどで待たされることはなくてスムーズに起動できた。


「……起動音デカいの忘れてた」


 ヘッドホンを外すのを忘れて耳がキーン、となってしまう。


 とりあえず練習場に入り新しく実装されたキャラや武器なんかを試して自分の腕を確認する。幸いにも体が覚えているようでそこまで鈍っていなかった。


 ランクはしばらくやってなくて当然1番下まで落ちてしまっているが仕方ないな、と割り切ってランクに潜る。


「なつかしいな」


 昔のことを思い出しながら初動が被った数パーティを全て倒してさっさと次の街に向かう。


「やっぱ下手になってる……」


 練習場で確認するのとは別で試合をやるとわかる下手さもあり少し落胆する。それでもこのランク帯なら負けることはないので狩らせて貰おうと思って次々と敵を倒す。


「……やらかしたな」


 最終的なスコアを見て明らかにやらかしたのを察してマッチを抜ける。


「ランクはしない方がいいな」


 こうして俺は眠くなるまでの1時間程久しぶりのゲームに興じたのだった。


 おかげで心地よい疲労もあり快適な睡眠が取れたのでよかっただろう。……身体にいいとは限らないが。

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