1日目を終えて


 文化祭1日目が終わりぞろぞろと客が学校から帰っていく。俺はまだ帰る必要もないので下駄箱の近くで待つことにする。


 今日の分の集計や明日のことを相談してから帰れると、綾香が言っていたのでまだしばらくはかかるだろうが待つぐらいは許されるだろう。


 やることもなくスマホを触っていると人影が近ずいて来たので顔をあげそちらを向く。


「……まだ帰ってなかったんですね」

「えぇ、七草くんにはお礼を言わなきゃなので」

「お昼のことなら仕方ないですよ。白石先輩がやったことですし」

「それでも迷惑をかけてしまったのは事実ですから」


 ありがとうございます。と頭を下げてくる。


「言葉だけ受け取っておきます」

「飲み物はいりませんか?」

「俺は持ってるんで」

「そう思って綾香さん……でしたよね。その方の分を持ってきたのですが」

「……なんで好みを把握してるんですか」

「愛莉の妹に教えてもらいました」

「なるほど」

「というわけで、どうです?」

「ありがたく頂きます」

「そうして下さい」


 こうして俺は春香先輩から綾香用のミルクティーを貰う。


「色々とめんどくさくなる前に私は帰りますね」

「気遣いありがとうございます」

「七草くんは2人に振り回されてますからね。私ぐらいはまともでいますよ」

「ほんとにありがたい……」

「では」

「はい」


 また明日、と手を振って別れる。それから直ぐに生徒達がちらほらと帰えりだす。近くに保護者が待っている人もいて俺もそれに混じって待つことにする。


 それから数分して綾香の姿を見つける。キョロキョロと首を振って俺を探しているので手を振ってここにいる、と示してあげる。


「長くなっちゃった!」

「大丈夫だよ、それよりも話し合いはちゃんと終わった?」

「うん!それは大丈夫!」

「じゃあ帰ろっか。飲み物とかはある?」

「ないけど家までなら問題ないよ」

「そんな綾香にこれをあげよう」

「わっ、ありがとー!」


 受け取ってすぐにゴクゴクと3分の1程飲む。これは先輩から貰っておいて正解だったな。


「ふぅー」

「一応言っとくとそれ買ってくれたの背負ってた先輩だから」

「お化け屋敷の後だよね?」

「そそ」

「明日会えたらお礼言っとかなきゃ」

「会えなかったら連絡先渡すよ」

「うん」

「……そういえばどうやって俺のこと見てたんだ?」

「クラスの人と弟くんに監視を頼んでたの。特に弟くんのとこには絶対行くだろうなって思ってたし」

「賢いな」

「でしょー!褒めて褒めてー!」

「偉いぞ、流石綾香だ」

「えへへ」


 一緒に頭を撫でて上げると一気に表情が緩くなって俺に引っ付いてくる。そのまま腕に抱きついてきて一緒に歩く。


「歩きづらくないか?」

「そんなことないよ、冬夜くんこそ歩きづらくない?」

「俺は大丈夫だよ。強いて言うなら色々当たってるのが気になるかな」

「これは当ててるんだよ?」


 そう言うとさらに寄ってきて感触を味合わせてくる。


「おい」

「んー?」

「もうちょっと離れようか」

「この感触楽しまなくていいの?」

「家ならともかく外はだめ」

「家ならいいんだ?」

「するならな、でもしないで欲しい」

「それはしろってことでしょ?」

「違うぞ?」

「任せて、しっかり誘惑してあげる」

「だからしないでって言ってるよな!?」

「どうして?」

「それは……」

「理由教えてくれないとやめないよー?」

「……綾香のことが好きだからそういう事されると襲いそうになる」

「襲ってくれるの?」

「しないからな!」


 ちぇー、という感じに唇を尖らせて綾香は少しだけ離れてくれる。最近ずっと綾香に攻められてる気がする。そろそろ反撃しないと俺の立場が危うくなる。


 反撃の方法も考えないと綾香にまたドキドキさせられるんだよな。眠い時の綾香とか特に危ない。警戒して無さすぎてほんとに。服の隙間からいろいろ見えそうになってるし、実は起きてるって言われた方がマシだからな。


「ところで、今日の晩御飯はなんですか?」

「今日は生姜焼きです」

「おおー!」

「そんなに手間かからないしな。サラダとかは作り置きがあるし、今日は楽に行こうと思って」

「じゃあ家帰ったら私は洗濯物畳んどくね?」

「いや、綾香は先にやることがあるだろ?」

「えっ?」

「だって役員の仕事あるだろ」

「それは夜でも大丈夫だよ?」

「なるべく早く終わらせとけ、今日ぐらい家事はやっとくから」

「……じゃあそうさせてもらう」

「あ、自分の洗濯物だけは先に取っといて」

「わかった」


 帰ってからの予定を少しづつ立てていく。綾香がやらなきゃいけない仕事がどれだけあるかわからないけど、多いなら少しでも手伝いたいし家事はなるべく早めに終わらせたいところだ。


「そういえば明日は何時頃にこれるの?」

「うーん……昼前ぐらいかな?」

「今日と同じぐらいなんだ」

「うん、朝はちょっと用事があるからね」

「ふーん?」

「だからそれまでは友達と回っといてくれ」

「わかった」


 その用事だけは絶対に外せないし、という理由を心の中で付け加える。


 なんにせよ明日は勝負の日だ。覚悟は決めとかなきゃな、と俺は1人決意するのだった。

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