幕間 後悔
短めのお話です
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舞先輩と生徒会室を出て、当初の予定にしていた綾香の模擬店に向かう。生徒会室からは少し遠いからその間舞先輩のこのノリに耐えなければいけないのが辛い。
「とうやくんは今彼女いるの?」
「……いない……けど同棲してます」
「なにそれ」
「告白の予定は立ててますけどね」
「ならよし」
「なにがよし、ですか」
「もし迷っているようなら背中押してあげなきゃじゃない?」
「先輩そんなことできたんですか、てかさっきまでの行動といってることが違いすぎる」
「さっきのは悪ノリだから」
「ほんとに……なにも変わってないんですね」
「私は多分ずっとこのままだよ」
その言葉はどこか寂しそうに告げられる。
「……先輩は今後悔してることってありますか」
「急にどうしたの?」
「少し気になっただけです」
「うーん……そりゃ後悔なんてたくさんあるよ。取り返しのつかないこともたくさんした」
「そうでしょうね」
「うん、こんな性格だからね。気持ち悪いとか、嫌いなんて言葉たくさん浴びてきたよ。君もそうじゃない?」
「嫌いはともかく、気持ち悪いは聞き飽きましたよ。俺はどうしようもなくできるので」
「君は自覚しないフリをしてそれらに蓋をした。私は……愛莉に縋った」
「白石先輩に?」
「うん、中学の時にね。私の心はズタボロだったの。さっきもいったけどこんな性格だし」
「そうですね。俺よりすごいと思いますよ」
「だから何をしても嫌われた、鬱陶しがられた時期があったの」
俺の称賛を聞いてないフリをして話を続ける。
「中学生の私はそれでボロボロになって……壊れかけたの」
「それを白石先輩に救ってもらったんですか」
「うん、私は愛莉っていう絶対に倒れない支えを貰ったの。気軽に頼れて、いつでも助けてくれる」
「それは……」
「今思えば最低だよね。だって、全部愛莉に任せたんだから」
先輩の手から血の玉が零れ落ちる。握りしめている手に爪が刺さっているのだろう。今気遣うわけにもいかず黙って話を聞く。
「私の一番の後悔は高校に入ってからでね、生徒会に新しい子が来た時だった」
少し聞き覚えのある話になる。
「その子は私よりずっとすごくて、輝いていて、愛莉に認められてて……なのに、なに一つ満足してなかった」
「私はそれが羨ましくて、愛莉を取られちゃうなんて子供みたいなことを考えて……」
視線を窓の外から俺の方に変える。
「君にやつあたりをした」
「……それがあの屋上での真実ですか」
「そう、まぁ君にはなにも意味をなさなかったけどね」
「同じように荒れてましたからね。正直に言うと、早く帰りたいなんてこと考えてましたよ」
「さすがだね」
「なんで気にしなくていいですよ。お互い様です」
「そういうわけにもいかないんだよ」
深呼吸をして一度間を空ける。
「もう一度いうわ、あの時はごめんなさい。そして、こんな私を認めてくれてありがとう」
突然だが俺は何人もの人に救われてきた。例えば爺さんだったり、白石先輩だったり。当然綾香だったり。そうして特に感謝している一人に舞先輩がいる。
先輩はやつあたりだったかもしれない言葉に俺は救われている。さっき、早く帰りたいと思っていたなんて言ったがあれは嘘だ。
お礼を素直に言うのが恥ずかしかっただけ。結局言えなさそうだからまだまだ先になるだろう。
それでも、伝わらなくても、言うべきだろう。そう判断して俺はこう返す。
「俺だって先輩には感謝してるんです。だから……ありがとうございます」
「ならお互い様、だね」
「ですね」
まるで秘密を共有するかのように2人で笑う。
話していた時間は10分も無かっただろう。それでも濃密な時間で、2人には必要なことだった。
これまでも、これからもただの先輩後輩であるために。
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