文化祭1日目③
少しだけ話しこんでしまった後、どうにか普通の距離感を保ってもらい移動する。
そして綾香の模擬店がある階にいくととんでもない行列ができていた。
「うわ……なんだこれ」
「すごい行列だね」
列の先をたどっていくと綾香の模擬店がありすべてそこに並んでいる客だということがわかる。列の途中から聞こえる声にかわいい子がいる、というものが聞こえるので客の大半はそれ目当てだろう。
「はぁ……面倒くさい」
「でも並ばなきゃ入れないよね?」
「ファストパスなんてないですからね、大人しく並びましょう」
列の原因は店員さん目当てで多くの人が来ているというのもあるが、客がなかなか店を出ないことが一番だろう。制限時間とかを付けなければ対処は難しいだろう。
どれだけ待つことになるのか、と考えていると横から肩を叩かれる。
「綾香さんの彼氏さんですよね?」
「え、ああ。まぁうん」
突然彼氏さんですよね?なんて呼ばれて変な返事をしてしまう。
「クラスメイトの身内は優先的に回せるようになっているのでお連れ様とこちらにどうぞ」
舞先輩と顔を見合わせて、ついて行こうということになる。列を離れてその子について行く。
「どうぞ、お入り下さい」
入り口前の看板を見ると優先されるお客様がいる場合があります、としっかり書かれている。これ考えた人すごいな。絶対こうなること想定してたな。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ぶっ」
「まぁ、可愛いメイドさん」
「こちらへどうぞ」
傍から見れば営業スマイルだが、俺にしかわからないような笑みを浮かべているのがわかる。……絶対なにか企んでいる。
大人しく席に案内されてメニュー表を貰う。とりあえず目を通し、飲み物と食べ物を1品ずつ選ぶ。
「メイドさんのおすすめはあるかしら?」
「そうですね、自分の好きな具材で選ぶのがいいかと」
「ありがとう」
「あ、旦那様には特別メニューがありますよ?」
「旦那様って呼ぶな。後普通にAセットで飲み物はコーヒーでいい」
「では特別メニューはお家で召し上がって下さいね」
耳元でそんな風に囁けば周りから殺意の視線が送られてくる。いやほんと……うちの綾香がすみません……
なんとも言えない気持ちになりがら注文を終えて一段落する。
「あの子が君の彼女さんなんだ」
「……そうですね」
周りには聞こえない声で舞先輩と会話する。
「私すっごい恨まれてそうだけど大丈夫?」
「後で説明しておくので大丈夫です」
「それなら安心なの……かしら?」
「嫌がらせはされないんで、後で俺が襲われるだけなんで」
「それ全然ダメじゃない」
注文もしてから5分もすれば頼んでいたものが届く。俺が頼んだのはサンドウィッチとコーヒー、先輩はトーストと紅茶だ。
「……旦那様には特別なのを入れてますよ」
最後にそんなことを言い残して席を去っていく綾香。そのまま教室を出ていくのでおそらく着替えに行ったのだろう。時間を見ると事前に伝えられていたシフトが終わる頃だし。
「とうやくんのは……明らかに違うわね」
「贔屓なのバレないうちに食べきりますよ」
「それがいいわ」
見た目はサンドウィッチだが、中に入っていたのはカツで完全にカツサンドに変わっていた。味付けの感じが綾香のなので多分作ったやつだろう。
これ衛生とかの大丈夫なんだろうな。怒られたりしないだろうな。と、現実的なことを思ってしまうがそれを忘れて俺はカツサンドにかぶりつく。
「……うまいな」
「こっちのも美味しいわよ」
先輩のトーストには餡子が乗っていて、小倉トーストみたいになっている。
「ねぇ、1切れずつ交換しない?」
「いいですよ」
お互いとも半分こになって出てきているので分け合うのは簡単だ。先輩のトーストを貰って、代わりに自分のカツサンドを渡す。
「ありがとう」
「いえいえ」
カツサンドを食べ終え、トーストに手をつける。小倉トースト自体食べたことなかったが食べてみるとかなり好みでこれは家でも食べてみたいと思う程だ。
「こっちも美味しいわね」
「トーストも美味しいです」
「あっ……ここ餡子ついてるわよ」
「えっ」
指摘されて自分で取ろうとする前に先輩の手が伸びてきて口の横についていた餡子を取ってくれる。
「ありがとうございます」
「いいのよ〜……あむっ」
「ってなにしてんですか!?」
うるさくない程度に叫ぶ。
「そりゃ取ったのは食べなきゃ」
「え、そうじゃないですよね?ティッシュとかありますよね?」
「なんの事かしら?」
「この人は……!」
やってる事が完全に恋人なのがまずい。綾香に見られでもしたら絶対めんどくさいことになる。
そんなことを思うとそれが現実になるわけで。
制服に着替えた綾香がいつのまにか隣に現れる。
「ふーん……そんなことするんだ、冬夜くん」
「えっ……と、これはだな」
「後でしっかり説明してもらうから」
先輩の方を見るとニコニコしてこっちを見ている。頑張れ〜、と呑気に言っているのがわかるぐらいだ。
それから食べた残りのトーストは一切味がしなく、ずっとどう弁明するか考えることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます