ハプニング
金曜日。ずっとしていた資料整理やら、展示の確認やらの作業がすべて終わり実行委員みんな一息ついていたとこで突然一人の生徒が教室に飛び込んでくる。
「失礼します!!」
結構大きな音を立てて入ってきたので全員がそちらに振り向く。
「どうしたの?」
「えっと……」
生徒会長である白石先輩が冷静に対応してその生徒から話を聞く。多分後で説明してくれるだろうと思って私は詩乃ちゃんに話しかける。
「なにがあったんだろうね」
「慌てっぷりから結構大変そう……」
「ね、まぁ仕事が増えるのは確かだよね……」
「それは嫌だね、仕事終わったばかりだし」
白石先輩が話を終えたようでこちらに向きなおり、みんなに説明を始める。
内容としては、飲食物を運んでいるときに落として使えなくしてしまったということ。ちょうど各クラスのをまとめている調理室で起きたらしく、どのクラスにどれぐらいの被害が出たかわからないのだ。
「というわけだ、実行委員はどれだけ被害がでたのかの把握をすること。それと、残っている予算の確認してどれだけ使えるかを見ておいてくれ」
先輩が生徒を指名してその生徒が調理室に向かう。残った私たちで予算の確認をしてどれだけ使えるかを把握する。資料整理をしていた時点でほぼカツカツだったのを覚えているので場合によってはかなりやばいのではないだろうか。
自分の学年の残っている予算を確認して報告する。全クラスまとめても千円少ししか残っていない。恐らくどの学年もそんな感じではないだろうか。多分学校側に追加で求めなきゃいけない。
「ん、まとめてくれてありがとう。あとは被害の報告を待とうか」
それから10分ほど待って確認をしに行った生徒が戻ってくるのを待つ。
「戻りました」
「では報告を」
報告によると冷蔵庫に片付けている途中に生徒同士でぶつかって持っているものを落としたらしく、卵が割れたり事前に調理しておいたものが落として出せなくなってしまったりしたらしい。幸いにも被害はそこまで大きくなく予算はギリギリだが何とかなりそうだ。
ただ調理などのしておかなければならないことが、今から買い出しに行ってまたしなきゃならないのでその時間が必要なのが一番大変だと思う。多分下校時刻は大幅に過ぎるだろう。
「実行委員で残れる生徒は残って手伝いを頼む。それと先生の車で買い出しに今からいく生徒も選んでくれ」
それから料理できる組は残り時間のある生徒が買い出しの手伝いに行くことになった。
そんなわけで残った私は詩乃ちゃんと愚痴を吐いていた。
「なんで私達が残ってやらなきゃいけないのかな」
「やらかした人は帰ったらしいしね……そのクラスの人も帰ったらしいし」
「はぁ……実行委員に押し付けて帰るとか……」
「せめてお疲れ様の給料的なの欲しいよね」
「わかる。現金だけど、報酬があるならやるよね」
実行委員の仕事に関しては最初からずっとフラストレーションが溜まっていた。特に運ばれてくる資料の雑さは鬱陶しかった。
冬夜くんは仕方ないって許してくれたけど帰るのが遅くなるし、一緒に入れる時間が減るのは本当に嫌だ。明日は文化祭一緒に回るんだし前日ぐらいゆっくりさせて欲しい。
そんな私情も混ざった怒りをここ最近ずっと飲んでいる甘い紅茶で流し込んだ。
買い出しの生徒が帰ってきた時点で6時を回り、本来の下校時刻はとっくに過ぎているが仕事はこれからだ。
料理ができる生徒で不足している分のを片っ端から作っていく。
それから更に1時間ほど経ってようやく全ての作業が終わり、ようやく解放される。
そのまま自分の荷物を持ってすぐに帰る準備をする。
「やっと終わった……」
「綾香さん、料理すごい出来るんですね」
「そんなことないよ」
「いえいえ、一切淀みなく作業してるのはすごいですよ」
「まだまだだけどね。そういう詩乃ちゃんも凄かったじゃん」
「綾香さんに比べたらまだまだですよ」
お互いの一面を見てその話をしながら校門を抜ける。するとよく聞いている声が降ってくる。
「お疲れ様、綾香」
「へっ……冬夜くん!?」
そこにいたのは、当然私の婚約者の冬夜くんだった。
ーー冬夜ーー
綾香から連絡を貰ったあと、春弥の伝手を使って帰れる時間を教えて貰った。それまでに、軽く汗をシャワーで流したり、軽食を食べておいたりして迎えに行く準備を済ます。
スーツではなく、私服に着替えて車で学校に向かい、近くに止めて待つこと5分綾香と知らない子が話しながら歩いているのが見えて、校門から出てきたところで声をかけた。
「なんで……迎えとか頼んだっけ?」
「遅くなるだろうと思って来た」
「どれだけ待ったの」
「5分ぐらいだよ、終わる時間は春弥が教えてくれたし」
「そう……」
綾香か俯いてぷるぷると震える。あれ、俺なんかやらかしたか?
「ありがとー!!」
「ぐぇっ」
突然綾香に勢いよく抱きつかれて変な声が出る。隣にいる子が大丈夫?と言った視線を投げてくるので手で大丈夫と示して綾香に手を回す。
「随分疲れてるみたいだな」
「うん、すっごい疲れた。だから今すっごく嬉しい」
「そっか、じゃあ家に帰ったらたくさん癒してあげなきゃな」
「うん!」
完全に俺と2人きりのモードになった綾香に、隣の子が驚きを隠せていない。
「それで……そっちの子は?」
「詩乃ちゃんっていって一緒に実行委員になった子だよ〜」
「えっと……藤井詩乃って言います……」
「綾香がいつもお世話になってるね」
「いえ、綾香さんにはよく助けられてますので」
ちょっと堅苦しい挨拶になったけどまぁ大丈夫だろう。
「さ、帰ろっか」
「うん!」
「あ、ついでに藤井さんも送って大丈夫?」
「え!私は歩いて帰るので大丈夫ですよ!」
「ついでだしいいよ。それに女の子をこの時間に歩かせるのも忍びないし」
「え……」
「詩乃ちゃん一緒に帰るよ!」
綾香が強引に手を握って歩き出す。それをみて俺も車を止めたとこに歩く。
こうして綾香の友達の詩乃ちゃんを乗せて一緒に帰ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます