文化祭まであと一週間

ーー綾香ーー


 文化祭まであと一週間を切り、学校もかなり文化祭ムードに染まっていた。これから雨が降る予報などもないので、学校のいたるところに飾り付けが施されて外からみてもわかるほどだ。


 ここまで来ると私は実行委員としての仕事が多く、家でも資料整理などをしている。疲れのせいか寝落ちしてたりして冬夜くんにも手伝って貰ったりもある。もっと作業に生徒を増やすべきだよね、自分から引き受けたわけでもないのに負担がやばい。


 あまりに杜撰すぎる会計の報告に、管理をしている生徒会と実行委員は卒倒しかけた時もある。特にこういうのに慣れていない一年生がひどく、その場で報告を貰ってもこんがらがったりする。なぜ先生も手をだしていないのかわからない。


 生徒の自主性を考えたとかいってるけど絶対さぼりたかっただけだよね。金額だけ言って放置したんだろうなというのがまるわかりだ。


「はぁ……」


 誰かがまたため息を吐く。実行委員ように大きめの教室が割り当てられていてそこで実行委員と生徒会が一緒になって作業しているため定期的に誰かがため息を吐く。人数も多いわけではないのでよくとおるし。


「みなさん一度休憩にしましょうか」


 席を外していた生徒会長が戻ってきてそういう。持っているお盆の上には様々なお菓子があり、教室にあるポットで飲み物を作れば十分休息は取れそうだ。


「詩乃ちゃんは何を飲む?」

「私は紅茶でお願いします。砂糖とかミルクはなしで構いません」

「えっ、なくていいの?」

「え、いれるんですか?」

「……飲めないことはないけど、普段は入れてるかな」

「そうなんだ」

「あ、じゃあ詩乃ちゃんはお菓子適当に取ってきて」

「わかったわ」


 二人分の紅茶を入れて片方はそのまま、自分のはしっかり砂糖とミルクを入れて戻る。すぐに詩乃ちゃんも戻ってくる。


「綾香さんのはチョコにしたよ?」

「ありがと~!!」

「わっ!」


 私の好物を持ってきてくれた詩乃ちゃんに抱きつく。驚いた表情と声をみせる詩乃ちゃんを置いてそのまま抱きしめる。10秒ほど堪能してから離れる。


「私の中の綾香さんのイメージが崩れていく……」

「あー……前とはだいぶ変わったからね」


 ついこないだの事件の後から私はなるべく素でみんなに接するようにしていた。それでも少しはキャラを作ってるし、人と話す時に壁があったりするが昔ほどではないだろう。


「でも今の方が好きですよ」

「ん?告白?」

「ち、違いますっ!」

「からかっただけだよ」


 詩乃ちゃんは真面目だからかこういう風にいじるとすごくいい反応をしてくれる。だからついついいじっちゃうんだよね。


「ところで綾香さん」

「なに?」

「それ砂糖どれぐらい入れたんです」

「えっと……スティックのやつ5本」

「多すぎませんか」

「そう?」

「確実に多いです」

「冬夜くんにも言われたんだよね……」

「いわれて当然だと思いますけど」

「やっぱりそうなんだ」

「逆になんで言われないと思ったの」

「謎の自信がありました」


 ほんとに謎の自信だけどね!


「ちょっと一口貰ってもいいですか」

「いいよ~」


 どれだけ甘いのか確認したくなったらしくカップを渡す。私が口をつけた部分はさすがによけて一口飲む。


「……砂糖飲んでる気分です」

「そうかな?ちゃんと紅茶を感じると思うけど」

「ちょっとだけですけどね」


 そんな風に二人で話し合いながら私たちの休憩時間は過ぎていった。




「さぁ下校までもうちょっと頑張るよー!」


 会長の掛け声でみんなもう一度作業に取り掛かる。一度休憩をいれたからか部屋に響くタイピング音もどこか元気そうだ。


 私も残った分をテキパキと片付けていく。隣の詩乃ちゃんを伺うと同じようにテキパキと終わらせているので問題ないだろう。


 再開から30分。最終下校のチャイムがなり私たちは片付けを始める。片付けと言ってもやるのはせいぜいデータを保存してPCの電源を切るのと、部屋の掃除ぐらいだ。


 それもすぐに終わりそれぞれ解散する。


 私はここ最近の恒例となった詩乃ちゃんと一緒に下校していた。


「今日も疲れたね……」


 グッと伸びをしながら詩乃ちゃんに話しかける。


「ですね、でも後数日の辛抱です」

「文化祭始まってからも忙しそうだけどね」

「始まってからの方が大変そうですね……」


 2人して文化祭が始まった時のことを考える。いち生徒ならこんなことはなかっただろう。けど実行委員としてならそれなりに苦労しそうなこととか考えてしまう。


「でも綾香さんは彼氏さんがいますもんね」

「まま、まだ彼氏じゃないよ!?」

「そんなに動揺しますか」

「……ほんとに残念だけどまた付き合ってないから」

「同棲してるのに?」

「同棲してるのに」

「普通健全な男女が同棲なんて理性が持たないと思いますけど」

「そこは冬夜くんに感謝だね」

「私が男なら綾香さんなんてすぐ襲いますよ」

「……詩乃ちゃんって見た目に反してえぐいこと言うよね」

「見た目なんていくらでも取り繕えるので」


 そう、詩乃ちゃんは見た目は委員長!って感じなんだけど中身は変態オタクだ。2人きりの時とか結構なことをぶち込んでくる。


「しかし綾香のその身体でも誘惑されないなんて凄いですね」

「私が自信無くしそうだったからね」

「こんなに立派なモノを持っているのに」

「ひゃっ!?」


 詩乃ちゃんが突然私の胸を包み込むように触ってくる。


「ちょっ……し、しのちゃ……んっ……」

「失敬。つい調子に乗ってしまいました」

「はぁ……ほんとにもう……」

「綾香さんも相変わらずいいモノでした」

「褒められても全然嬉しくない」

「まぁいいじゃないですか」

「このド変態め……」


 ほんとにこんな感じなのである。口調とかはそんなに変わらないものの言動はかなり変わる。よく今までごまかせたものだ。


「ではまた明日」

「うんまた明日」


 ちょうど分かれ道に差し掛かって詩乃ちゃんと別れる。


 今日は冬夜くんのことをたくさんからかおうと決めて私は家までの道を歩くのだった。

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