スイーツパラダイス


 あっという間に週末になり、綾香とデートの予定を立てていた通りに俺たちはデートを楽しんでいた。


 少し遅めに家を出てモール内をウィンドウショッピングしながら歩く。スイーツが食べ放題と言っても他の食べ物もそれなりにあるのでそこに行くのはお昼の予定だ。


 かといってそれまでに買い物をして荷物を増やしていくのも嫌なのでウィンドウショッピングに落ち着いたというわけだ。


「あ、水着だ」

「おー、もう売り始めてるのか」

「言っても7月だからね〜」

「後2週間で文化祭か」

「だね、準備で大忙しだよ」

「いい物が出来そうか?」

「それは大丈夫だよ、もろもろの準備は忙しいけど予定通りに進んでるから」

「そっか、無理しない程度に頑張れよ」

「うん!」

「綾香は無理して倒れたりしそうで怖いからほんと気をつけてくれ」

「そんなこと……うん……ないよ」

「昔あったよな」

「あれは思い出さないでぇ……」


 小学生の時に学祭の準備で綾香は頑張りすぎて倒れたことがある。それを聞いた時は全身から血の気が引いていくのがわかるぐらい驚いたものだ。


 幸いケガとかはしなかったけど、それ以降綾香は行動に制限がかけられまくっていた。仕方ないし、ぜひそうしておいて欲しい。


「今はちゃんと自制できるし大丈夫だよ」

「ほんと大丈夫だろうな」

「もちろんだよ!……信じてくれないの?」

「っ……わかった、わかったからその目はやめてくれ」

「ふふっ、ありがと」


 ちょっと涙目をされるとこっちがなにも言えなくなってしまうのがダメだな。ちゃんと言う時は言うけどこういう時は勝てる気がしない。


 こんな感じでお昼までの時間を潰しつつ俺たちはデートをするのだった。






 お昼になって事前に予約していたこともあり、スムーズにバイキングに入る。店内は女性客を意識した内装になっていて、実際男性客の姿はかなり少ない。


 いたとしても俺たちの様にデートをしている人や家族連れがだいたいだろうか。


「よーし、食べまくるぞー!」

「とりあえず先に取ってきな。俺荷物見てるから」

「ありがとー」


 若干駆け足で綾香が料理を取りに行く。その間暇なので店内を見ていると見知った人がいるのを見つけてしまう。


「……なんで和泉が?」


 そう思っているとすぐ後ろに若葉さんの姿を見つける。その姿はまさにデートそのもので2人とも順調に進んでいることを示していた。


「そういや週末にデートするって言ってたな……」


 そんなことを思い出しつつ俺は手早くメッセージアプリを起動して和泉にメッセージを送る。内容はお互い不干渉でいこうと言うもの。


 すぐに気づいたのか、俺を見つけると少しだけえ?、という顔をしたがすぐに取り繕い了解です、と返してきた。これは今度会社に行った時お互い聞きたいことが沢山ありそうだ。


 そうこうしていると綾香がホクホク顔で席に戻ってくる。


「ここは天国だね」

「そんなにか」

「うん、冬夜くんも早く取ってきなよ、美味しそうなの沢山あったよ」

「そうするわ」


 綾香の取ってきたものを一瞥してから席を立つ。自分の好きな物はとるけどなるべく綾香と被らないようにしておきたいからだ。そうすればシェアできるし。


 一応若葉さんとすれ違わないようにしながら自分の分を取って席に戻る。


「おー……私が取らなかったの沢山あるね」

「気になったのがあるなら食べてもいいぞ」

「ほんと?」

「ああ、その代わりそっちのもいくつか分けて欲しいな」

「いいよー、等価交換だね」


 そうして綾香と食べ物をシェアしながら食べ進めていく。お互い流石に最初からデザートをとることはなく、パスタやサラダ、ピザなどのお腹を満たせるようなものを中心に取っていた。


 それを2回程した後俺たちはデザートのコーナーに手を出す。ケーキとかアイスとか、そういうものが並んでいて綾香が目をキラキラさせながら帰ってくる。


「絶対コンプリートする」

「随分と燃えてるな」

「全部すっごい美味しそうだったんだよ!食べなきゃ損だよ!」

「わかった、とりあえず俺も自分の分取ってくるわ」

「はーい」


 今度も綾香と被らないものを選びつつ少し少なめにして飲み物を作って席に戻る。


「綾香、紅茶でよかったよな?」

「……っん、うん。ありがと」


 飲み込んでから返事をした綾香に紅茶を渡す。砂糖やミルクなどはまだ入れておらずそれも渡しおく。


「こっちは好きに入れてくれ」

「ありがと」


 それを渡してから自分のコーヒーを啜りケーキに手をつける。まずはチョコレートケーキから。ほんのりビターなチョコと甘めのムースがマッチし絶妙なバランスで出来ている。甘すぎないケーキ故に俺は結構好きかもしれない。


「……家で作れるかな」

「その発送に至るのは多分パティシエぐらいだよ?」

「いや、真似したくなるじゃん?」

「普通はおいしいなー、流石お店だなー。だよ?」

「じゃあ俺はパティシエでいいよ」

「そんな簡単に納得しないで!?……でもお家で食べたいから期待してます」

「任せろ、綾香の為だけに特別なのを作ってやろう」

「お嬢様の如く優雅に待ってるね」

「ああ、優雅に待っててくれ、お嬢様」


 なんていちゃついていると隣の席から暖かい視線が送られていることに気づく。


「あっ……なんかすみません……」

「いいのよ!若いんだからそれぐらいしなさいな!私達も目の保養になったわ」

「あぁ……ありがとうございます」


 よくあるマダムの感じに押され、恥ずかしさのなかケーキを頬張る。綾香を見ると俺よりも顔を紅く染めて紅茶を啜っていた。


 その後結局開き直っていちゃいちゃしつつケーキやアイス。チョコレートフォンデュに至るまで制覇していき、最終的にデザートを全制覇して店を後にした。


「ふー……沢山たべたねー」

「だな、少し休んでからいこうか」

「うん」


 近くにあったベンチに2人で座る。いつもの朝とは違い、制服やスーツではないため恥ずかしがりながらもしっかりとお互いの手を握っている。


「冬夜くんの手冷たいね」

「お店が少し涼しめだったしな」

「アイスとか取ると冷たくなるよね」

「だな、にしても綾香の手は暖かいな」

「最後温かい紅茶で温めたので」

「そりゃありがたい」


 お互いの温度を感じつつゆっくりと過ぎていく時間を過ごす。


「この後どうする?」

「私は服見れたらいいかな」

「言ってたもんな。とりあえず服は見ようか」

「うん」

「他にしたいこととかある?」

「今日はないかな?あ、でも1つだけ行きたいところがある」

「どこ?」

「水着買いたい!」

「え」

「服の前に水着見に行こうね!」

「お、おう」


 綾香の圧に押されて水着を買いに行くことが決定してしまう。


 てっきり友達と買いに行くものだと思ってたので不意をつかれた俺だけど自分のも買わなきゃいけないなということを思い出して覚悟を決めるのだった。

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