水着とか服とか
綾香の圧に押されて俺は今水着売り場に来ていた。いや、売り場自体に行くのはいいんだけどね。周囲に女性モノしかないことが問題なんだよ。
場違い感が凄いし周りの視線が気になって仕方ない。幸いにも変な風には見られてなさそうだけど……早くここから逃げたい!
「ねぇねぇ、どんな水着来て欲しい?」
「水着の種類があんまりわからん」
「じゃあ1つづつ質問するね」
「おう」
「布面積は多い方がいい?それとも少ない方がいい?」
「満場一致で多い方で」
「だろうね」
「なぜ少ない方を出してきた」
「少しだけ可能性を感じました」
「最初からゼロだよ」
「では次の質問、ヒラヒラとかついてる方がいい?」
「ん……?ああ、あういうやつか?」
「そそ」
一瞬ヒラヒラってなんだ?となったけど近くにあった水着を参考にして質問に答える。
「まぁなにもないよりはついてる方がいいかな」
「おっけー」
「……その方が刺激が少なそうだし」
「なにか言った?」
「いや、なにも」
小声で言った為綾香には聞こえておらずホッとする。そう、この買い物の重要なとこはいかに俺に対して刺激が少ないものを選ぶかなのだ。
そうして選んだなかから綾香は確実に自分に1番似合うやつを選んでくる。なら俺はその時のための準備をしておかねばならない。
なにを言ってるかわからないと思うけど、それぐらい綾香の水着はやばいのだ。ちょっと前に着てたベビードールとか、風呂上がりで散々わからされたけど綾香はそりゃもう理想的な身体をしている。
そんな子が着る水着が魅力的じゃないはずがないだろう。だから少しでも刺激を減らさないと多分当日俺が死ぬ。
「冬夜くんってどんな色が好き?」
「水着のってこと?」
「そうそう」
「……それは綾香に1番合うやつがいいかな。俺の好みとは違うだろうし」
「なるほど……あ、ちょっとここで待ってて」
「え?」
「店員さんに用事があるの思い出したから行ってくる」
「店の外じゃだめ?」
「それでもいいよ」
「さんきゅ……いや、俺の水着適当に見てくるわ」
「あー……そうだね。その方がいいかも」
「んじゃ終わったら探すかメッセージ送ってくれ」
「はーい」
そうして1度別れてそれぞれの目的を果たしに行く。
「俺が買わなきゃいけないものってなんだ……?」
水着はもちろんのことラッシュガードなども買っておいた方がいいだろう。……浮き輪とかは流石に買わなくていいか。いるならもう少し後でもいいと思う。そこまで荷物を増やしたくないし。
とりあえず水着とかの着るものだけでいいと判断したので俺は適当に見繕い、サイズだけ確認して買い物を終える。
僅か10分で自分の買い物が終わったので売り場から出て店の外で綾香を待つことにする。
一応メッセージを送っておいたので綾香が俺を探すことに時間を使うことにはならないだろう。
それから更に待つこと30分。綾香が急ぎ足で俺のとこにやって来た。
「ごめん!待たせちゃったよね」
「大丈夫、色々見てたし」
「そう?冬夜くんは水着買ったんだよね?」
「おう、自分の分は買ったぞ。綾香も買ったんだな」
「うん」
「それじゃあ服見に行くか?まぁ他のとこでもいいけど」
「とりあえず服見に行こ」
「おっけ」
「あっ」
「荷物ぐらい持つから」
「それぐらい私が持つのに」
「まぁまぁ」
綾香に許可を取ってから自分の分とまとめて荷物を持つ。空いた方の手で綾香と手を繋ぎ歩き出す。
「夏休みが楽しみだね」
「だな」
「しかもプライベートビーチなんでしょ?」
「そうだな、まぁ爺さんのだけど」
「贅沢な夏休みになりそうでワクワクが止まりません」
「その前に文化祭があるけどな」
「はっ!」
「今完全に忘れてたな」
「冬夜くんとの夏休みの前に文化祭など無力……!」
「なにそのバトル漫画のノリ」
文化祭は文化祭で俺にはやらなきゃならないことがあるし、夏休みも爺さんとの賭けに勝たなきゃならない。今更ながら今年の夏は忙しくなりそうだなと思う。
つくづくホワイト企業に就職してよかったと思う。夏休みがしっかりあるのほんとに助かる。
「さーて……どんな服で冬夜くんを誘惑しようかな?」
「誘惑目的じゃなくて普通に服を選んでくれ」
「じゃあ1着ぐらいならいい?」
「………………それだけならまぁ」
「すっごい溜めたね」
「ギリギリの妥協ラインだからな」
「私的には3着ぐらい買いたいけどね」
「俺の理性を殺す気?」
「もちろん、ドロドロに溶かすつもりだよ」
「勘弁してくれ……」
店内を周りながらそんな話をする。途中気になった服を確認して何着か試着するらしくカゴに入れていく。カゴは俺が持っているが失敗だったかも知れない。荷物とで両手が埋まってしまっている。
「うーん……」
「そんな悩むことあるのか」
「家に今ある服見てくるの忘れた」
「致命的だな」
「デートで頭いっぱいにした冬夜くんが悪い」
「悪いの俺!?」
「ま、いっか」
「いいのか」
「うん、別に沢山買うわけじゃないし」
「そっか」
その言葉の通りあまり多くは選ばず試着などをして買うものを選んで行く。女性の買い物が長いのはわかっていたが綾香となのかあまり苦痛には感じなかった。
「おっけー、それじゃあレジにゴー!」
「はいよ」
レジにカゴを出して会計をする。
「カードで」
「え?私が払うよ?」
「まぁまぁ」
綾香をさりげなく抑えつつスっとカードを出して支払いを終わらせる。あんまりこの問答を続けても迷惑になるし、多少強引にやってもいいだろう。
「むー……」
店を出ると若干不機嫌になった綾香が唸っている。
「私もお金ならあるのに……」
「それでも高いだろ」
「そうだけど仕方ない出費だし」
「なるべく甘やかしたい俺の気持ちをわかってくれ」
「……わかった。その代わり私こっそり買い物とかしちゃうからね?」
「抵抗が可愛いな」
「なっ……こっそり冷蔵庫にデザート入れとくからね!」
「それ自分用だよな」
「冬夜くんにはようかんしか買ってあげないから!」
「なぜようかんにした」
「なんとなく」
「まぁ有難く頂くよ」
喧嘩のような喧嘩じゃないような雰囲気で俺たちはモール内を歩いていった。
その後は3時のおやつにまたアイスを食べたり、ちょっとだけゲーセンで遊んだりして夕方には家に帰った。
特にアクシデントなんかなく楽しいデートに出来たと思う。和泉達を見かけたときはヒヤッとしたけど。
今度は文化祭だろうか、今からそれが楽しみになってきた。
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