晩御飯
ゲームを少し早めに抜けた俺は晩御飯の準備に取り掛かっていた。
今日作るのは前回あの子達が来た時に時間がないからという理由で作れなかったローストビーフだ。今回はある程度仕込みもしてるし充分な時間があるので問題なく作れるだろう。
というか時間のかかる肉だけは先に調理して既に休ませてあるので今回やるのは汁物だったり付け合せの用意だったりだ。そんなに時間もかかることなく終わるだろう。
「あれ、綾香。どうした?」
準備していると綾香がキッチンに来たので声をかける。
「ちょっとジュースの補充」
「なるほど」
「どれ取ってもいいよね?」
「ミルクティー残してくれてたらなんでもいいぞ」
「はーい」
綾香にそう伝えて俺は準備を続ける。普段あまり紅茶などは飲まずコーヒー派の人間だが、ミルクティーだけは高校時代からハマってしまい今も飲み続けている。ふとした時に買うのがそれになるぐらいには好きだ。
あの甘さがちょうどよく頭と体に染みるんだよな。
「綾香ー、みんな漬物とかって食べれる?」
「多分大丈夫だと思うよ。みんなそんなに好き嫌いないし」
「さんきゅ」
それだけ聞いて俺は即席漬けの準備をする。なるべく好き嫌いのないようにキュウリと大根を使う。この2つなら素材で嫌いと言われることはないだろう。
「今日の晩御飯はなんですか」
「本日はローストビーフです。お嬢様」
「まぁ!それはいいですわね!」
「楽しみに待ってて下さい」
「そうさせて頂きますわ」
ジュースを入れ終わった綾香と去り際にそんな会話をしていく。お嬢様って「ですわ」をつけておけばいいところあるよな。
そうこうしているうちに晩御飯の準備は着々と進んでいく。今回のは漬物だったりローストビーフだったり少し時間のかかるものが多いから準備が終わって完全に出来上がるのは7時ぐらいになるだろうか。
後2時間あるけど……彼女達は遊びつづけるのかな?と思って少し聞き耳をたててみれば、話の内容が完全に女性のものになっていたのでそっと会話をシャットアウトして俺は自分の部屋に向かった。
「修学旅行の夜のテンションになりそうだな」
そんなことを予感して俺は少し目を瞑った。
自然と目を覚ますと晩御飯に程よい時間になっていて俺は身だしなみを整えて再びキッチンに向かう。
リビングのドアを開けたところで綾香をみると赤面してクッションを抱えていたので多分俺絡みのことを聞かれたんだろうなと察してそさくさとキッチンに逃げ込んだ。
味噌汁を温めなおしてその間にローストビーフや漬物、付け合せなどを盛り付けていく。ソースなども小皿に用意して1つづつ運ぶ。
「みんな、そろそろご飯にしようか」
「はーい!」
黒ちゃんが元気な声で返事をして、みんながぞろぞろと席にすわる。すぐに全員の分の配膳が終わらせて俺も席につく。
「今日はローストビーフを作ってみました」
「すごいおいしそう!」
「黒、ちゃんと挨拶してから食べるのよ?」
「わ、わかってるよ」
みんなで「いただきます」と言って食べ始める。俺はとりあえず味噌汁から口につける。程よい出汁の旨味と味噌の香りが広がり体を潤わせる。
「お肉おいひぃー!」
「ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい!」
「ふぁい」
双子の2人は完全に親子だな……なんてことを思いながら俺は綾香の方をちらりとみる。綾香はいつもの幸せそうな顔でご飯を食べていて俺はそれを見て満足感に浸る。その隣にすわる桜ちゃんも美味しいと言ってくれている。
でも誰かに食べさせるのもいいけどやっぱり好きな人に喜んで貰うのが1番だよな。
「おにーさんの料理はやっぱり美味しいね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「綾ちゃんもこれぐらいできるの?」
「冬夜くん程は出来ないかなー」
「綾香の料理は俺とは違う優しさがあって美味しいよ」
「綾香さんは冬夜さんへの愛情が溢れていますからね」
「愛がこもってるもんね?」
桜ちゃんと白ちゃんにからかわれて綾香が頬を赤らめる。それを誤魔化すようにローストビーフを口に運び慌てて食べたからかちょっと詰まらせたのを飲み物で流し込む。
「ふぅ……」
「綾香かーわいー」
「桜だって彼氏には同じことするくせに」
「え、桜ちゃん彼氏いるのか」
「そうだよー」
「なんか意外だな……」
「そう見えます?おにーさん」
「なんて言うかあんまりいなさそうなイメージしてるから」
「確かに、自分からはいかないですから」
「なるほどな」
「ちなみに白ちゃんと黒ちゃんは彼氏いないよ」
「綾香さん、その情報は出す必要ありましたか」
「そっちは割と予想どおりだな」
「冬夜さん!?」
「あはは、おにーさんはっきりいうねー!」
ちょっといじわるをすると双子2人に驚かれる。いやだってさ、白ちゃんはなんか男が近寄りづらそうな雰囲気してるし。実際話すといいんだろうけど多分できないしな。黒ちゃんは誰とでも話すけど付き合うのは遠慮されそうな感じがしてる。なんていうか仲のいい女友達って感じ。
「悪い意味じゃないし怒らないでくれよ」
「自分がとっつきにくいのはわかってますから、大丈夫です」
「おねーちゃんはもう少しやわらかくなるといいんだけどね」
「黒が誰とでも話しすぎなだけよ?」
「私はそんなに気にしてないからね」
気づけば女子同士の会話が始まってしまう。……これは俺がそのうち疎外感を感じるやつだな。と思っているととなりに座っている綾香がちょいちょい、と足をつついてくる。
「どした?」
「なんとなくつついただけ」
「そっか」
「ちょっと独り占めしたくなったのです」
「……俺も綾香を抱きしめたい」
「じゃあみんな帰ったらしようね?」
「ああ」
2人だけの空気が徐々に作られていく。けどこの場には他の子がいるのだ。
「2人はすぐいちゃつくね」
「ちょっと羨ましいです」
「私もそうくんとイチャイチャしたいなー」
三者三様の反応が返ってくる。俺たちは恥ずかしさでそっぽを向く。けどお互い机の下でしっかりと指を絡めていちゃついていたのだった。
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