死んでください、カンパニュラ

ユラカモマ

第1話

「カンパニュラ、カンパニュラ、死んでください」

 花びらを引きちぎるごとに気持ちが荒んでいくのを感じた。

「カンパニュラ、カンパニュラ、死んでください」

 唱えるごとに少しずつ気持ちが凪いでいくのを感じた。

「カンパニュラ、カンパニュラ…どうか」

 ぶちりと最後の花びらがちぎられて袋の中が淡い色の花びらであふれる。花であった頃の形がもうとれなくなってしまった様子は哀れで痛々しくてもの悲しかった。

「どうか、死んで」

 絞り出した最後の呪文が震えていたのを覚えている。

 

 母は女手1つで私を育て上げてくれた。大変なことが多かったんだろう、私の思い出す母の姿はいつも後ろ向きでキンキンした声をしていた。機嫌が悪ければ物が飛んできて、機嫌が良ければお小遣いがもらえた。たまに貰えるお小遣いで買ったお菓子はおいしかったな。


 袋いっぱいのカンパニュラを鍋に入れて形が本当に分からなくなるまで煮込んだ。甘い香りがただよっていつかのお菓子を思い出す。母が気まぐれで作ったマドレーヌ。一回きりでクッキーみたいにペチャンコだったけれどなんでかすごくおいしかった。もう一度ねだってももう作って貰えなかった、甘くて寂しいマドレーヌ。


 どろどろになったカンパニュラに秘密の粉を一振り、二振り。するとがらりと香りが変わる。ピリリと引き締まる唐辛子のような香り。涙が出るほど辛い香りにきゅっと口を引き結ぶ。血のつながりを、見せかけの愛を言い訳にするのを止めたのだ。息を止めて、ぎゅぎゅっと最後の仕上げをする。母の好みのかわいいかわいいラッピング、ピンクの花のような包みは母のために私が練習したものだ。


 カンパニュラの花言葉は、「感謝」、恩人へ感謝の気持ちを込めて贈られることも多い花である。その由来は黄金のりんごを守って命を奪われた精霊らしい。かわいらしい花なのに、ずいぶん物騒だなと驚いた。

 

「カンパニュラ、カンパニュラ、死んでください」

 

 もう言い訳はしない。そう思いながらもチリリと焼け焦げるような心の奥の痛みに私は一人手を合わせた。

 

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死んでください、カンパニュラ ユラカモマ @yura8812

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