プロローグ 2話
「その役、私に引き受けさせてくれませんか?」
「へ?」
突然な出来事に、俺は驚きが隠せなかった。
その役を私に任せてくれ?つまりはどういうことだ?
あまりに不足している情報のせいで、理解するのに苦労していた。
だから、俺は彼女に説明を求めることにした。
「あのさ、どういう意味だ、それ?」
俺がそう聞くと、彼女は少し目を見開き驚いたという表情をした。
そして、少し頬を赤らめながら、ゆっくりと口を開いた。
「えっと、だから、私と、お付き合いをしていただけませんか?」
彼女はそう言い切った。
そうなると、今度は違う問題が二つ程発生する。
まず、彼女は学年一の美少女という呼ばれ方のほかに、もう一つの呼ばれ方があった。
それが「鉄壁の女王」という名前だった。
由来は、夏でもタイツを履き、年中長袖を着ていて隙が全くないと言う物と、今まで一度も付き合ったことがないと言う物だった。
入学してから今までの半年間で五十人ほどの男に告白されたと聞くが、その全てを断ったという噂を耳にした。
中にはサッカー部のイケメン先輩や、テニス部の部長、さらには野球部のエースもいたらしい。
まぁ、この三人が学校三大イケメンだ。
そんな女子の憧れの的であるイケメン先輩軍団に告白をされても断ってきた彼女が、俺のような一般人に告白をしたのだ。
これは すごく大きな問題だ。
幸いなことに、ここは夕日の隠れる校舎裏。
掃除当番でごみを捨てにきた帰りだったため、周りに人気がないので学校中に広まることは無いと言うことだ。
そしてもう一つは、俺の答えは既に決まってしまっていると言うことだ。
俺は『恋』が分からない。
だから、そんな状況で人と付き合うなんてことはできない。
例えそれが学校一モテる女の子であったとしても、だ。
つまり、俺はそんな男子の憧れの的の告白を受け、しかも断ると言うのだ。
一体全体、俺はどれだけの地位に立てばそんなことができるのだろうか。
でも、こうなってしまってはどうしようもない。
俺には断る以外の選択肢がないのだ。
腹をくくり、慎重に言葉を選び、断りの返事を返そうとした。
「あの、悪いんだけど俺は……」
「待って!待ってください!」
しかし、途中で彼女によって遮られた。
そして、彼女は俺の目を見て話し始めた。
「あなたが、一度も告白を受けていないのは知っています」
「はぁ……」
「ですが、あなたは言いました。『誰か、俺に恋を教えてくれ』と」
「ああ」
「ですから、私はあなたに『恋』を教えます。必ず、私のことを好きにさせて見せます」
「……」
「なので、三か月だけ猶予をくれませんか?」
「猶予?」
「はい。三か月間、私と実際に付き合って頂きます。その間に、私があなたのことを彼女として好きにさせます。ですので、三か月だけ私にあなたの時間をください。もし、あなたに『恋』を教えることができなければ、お詫びとしてなんでもします。なので、どうか三か月だけ、お願いします」
「……」
俺は正直困っていた。
彼女の話はつまり、お試しで付き合ってみてほしいと言うことだった。
俺的にはあまり乗り気になれる提案ではなかった。
それでも、なぜだか分からないが、確信もあった。
彼女なら、何かしてくれる予感がする、という確信が。
だからなのかもしれない。
俺は、普段なら断っていた提案に頷いてしまった。
「分かったよ。俺の三か月を、君にかけてみようと思う」
「ほ、本当ですか!」
「うん。本当だよ」
「ありがとうございます、冬治君!」
「ん?」
俺は少しの違和感を覚えた。
恐らくそれは、彼女が口にした名前だろう。
冬治。それは俺の下の名前だ。
急に下の名前で呼ばれたので、違和感を感じたのだろう。
「名前……」
「だって、私達もう恋人同士なんですから、名前で呼んでもおかしくないですよね?」
「ま、まぁ、おかしくはないけど……」
「ですよね。では、冬治君も呼んでください!」
「え、えっと……」
俺は、ぐいぐいとくる彼女に少し驚いていた。
思っていたよりも積極的なんだなと思い、そして俺はそんな彼女の圧に負けて、降参することにした。
「よ、よろしく。姫花」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って嬉しそうに笑う姫花に、俺はどう接すればいいか分からなかった。
と、そこで俺はあることを思い出した。
それは、俺の右手に持っているゴミ箱を教室に置きに行かなくてはならないと言うことだ。
「あ、俺掃除の途中だった」
俺はそう言うと、姫花に「悪い、掃除してくる」と言ってその場を立ち去ろうとした。
すると、彼女が後ろを向いた俺を呼び止めた。
「冬治君!」
俺は名前を呼ばれて振り返った。
そして、俺が振り返ったのを確認すると、彼女は俺にこう宣言した。
「必ず、あなたのことを落として見せるから。だから、覚悟しててくださいね?」
彼女はそれだけ言うと、笑顔で俺のことを見送ってくれた。
俺はそんな彼女に見送られながら、足早に教室へと向かった。
こうして、俺に美少女な彼女ができた。
だが、これが運命の分かれ道になったと言うことは、今の俺はまだ知らない。
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