上級マイル修行僧物語〜ピヨヨ隊と行く飛行場満喫ツアー〜

シーラ

ペンギン部隊、突撃



初めに、ここ最近での出来事を書いてみようと思います。


あれは、沖縄に3時間滞在した帰りの便の出来事でした。ちなみに、空港ラウンジに居た時間は2時間30分程。

ポイント稼ぎにプラス千円でプレミアムシートに乗ろうとしたが埋まっていたので、一般シートの通路側に座っていた。


その時は風が強く、中々シートベルト着用サインが消えなかった。そんな時もあるさと、ジェットコースター気分で小説を書いていた時。私の座る斜め前から子供の泣き声がずっとしていました。


「こわい〜!いたい〜!」


揺れと耳抜きが出来ないのでしょう。およそ3歳児位の女児が母に訴えている。添乗員さんも声をかけますが、駄目だった。


こういった場合、お母さん大変だなと知らん顔しておくのが日本人の優しさの一つです。ですが、私は出来なかった。20分以上も泣く女児の恐怖が伝わってきたから。


「お前の出番だ」


私のリュックサックに親指サイズのお腹を押したら『プー』となるペンギンの玩具が常備されている。これは、私の必殺武器。誰かしら泣く子供をあやすのに利用している。


自分の手とペンギンを除菌シートで消毒。シートベルト着用サインが消え、添乗員さんが再度対応しても駄目だった事を確認。トイレに行きたいと席を立つ乗客が居ない事も確認して席を素早く立ち女児の元へ向かうとそこには


「ほら、水飲んで……あああああ〜〜」


「いやだ〜!ぎぁああ〜!」


ペットボトルに入った水を女児に飲ませようとした母親。だが、気圧の変化で飛び出した水が女児の顔面に勢い良くかかり、余計に泣き叫ぶ女児。


もう叫ぶ気力すら無い疲れ果てた母親の肩に、私はアルコール消毒した手を添える。


「お母さん、大丈夫ですから!」


この時、私も慌てていました。顔面シャワーで余計に無く女児の扱いは初めてだったので。コイツなんだと訝しげな視線を送ってくる母親に、私はマスク越しで笑顔を向ける。


「大丈夫ですよ。私、消毒していますから。頑張っていらっしゃいますね。お子さん可愛いですね」


そう言ってペンギンを女児に見せようとするが、硬く目を閉じ泣いている。それならと耳元で『プー』と鳴らしてみると、パッと目を開けた。


「これ、な〜んだ?」


「ペンギン!!!」


女児はペンギンの玩具を見ると、泣き顔から一瞬にして笑顔を見せてくれた。この切り返しの良さ、何て可愛いのだろう。


「ペンギンさん好き?」


「うんっ!」


力強い返事に、耳抜きがされている事を確認。もうこちらのものだ。プープー鳴らしてペンギンに注意を向ける。


「ペンギンさん、一緒に座りたいなって鳴いてるんだ。この子と一緒に居てくれる?」


「うんっ!いいよ!」


「じゃあ、宜しくね」


女児にペンギンを渡し、母親に一言。


「お疲れ様です。大丈夫ですよ。ペンギン消毒してありますから。では」


いきなり現れた変人とこの状況に、返事も無く呆然としている母親。私は礼が欲しくてしている訳では無い。この女児が恐怖から笑顔になった瞬間を特等席で見られたのだ。寧ろご褒美だ。


通路に添乗員と乗客がいない事を確認して、素早く座席に戻る。この間、約一分。周りにそうそう迷惑はかけていないだろう。


女児の笑顔が見られ、気分良く小説の続きを書こうとした時だ。その便で一番偉い添乗員さんが私の側に来て膝を地面に付け、一言。


「シーラ様。いつもご利用いただき、ありがとうございます」


そう。私は上級修行僧。これもサービスの一つとしてされる事である。だが、タイミングが悪かった。

つい20秒程前の出来事がある。この状況だと勘違いされるじゃないか。いつも子供に近寄る、添乗員の間で有名な変人だと周りに思われるじゃないか!!!


「あ、ありがとう、ございます…」


笑顔の添乗員さんに罪は無い。口から出たのは、わざわざ修行僧を労いに来て下さった事への感謝の気持ち。楽しく修行していますという気持ちは今回込められなかったが。


去っていく添乗員さんを見送り、私は下を向いてスマホを手に冷静を装う。


『プー、プー』


時折り鳴るペンギン。女児の笑い声も聞こえてくる。到着するまで、泣き声は聞こえなかった。


暫くしたら、座席の後ろから女性の声が。


「小さな親切や…」


他の席からも、声が。


「小さな親切か…」


「小さな親切か…」


私は一気に羞恥心が沸き起こり、冷たいお茶を頼んで一気に飲み干した。私は自己満足で女児に会いに行った。それだけだ。恥ずかしい!!


隣に座っている乗客はイヤホンを付けて目を閉じていたので、私の行動を知らないのは幸いだった。


小説を書こう。その世界に閉じこもろう。そうして執筆は進み、気がつけば空港に到着した。天気が良く風の強い中、とても綺麗な着地でした。


本来なら女児に一言「飛行機楽しかった〜。ねえ、お母さんとペンギンと乗って楽しかった?」なんて聞いて、飛行機に対する恐怖心を拭い去っておきたい所。だが、周囲にこれ以上私という変人を見せつける趣味は無い。


心の中で女児に飛行機を嫌いにならないでと言い、母親に家に帰るまで頑張って下さいとエールを送り、素早く飛行機から降りて競歩で旅客搭乗橋を渡る。余計目立っていたんじゃないかと思ったのは、電車に乗った後だ。


おしまい。


ーーー


シーラから、乗客の皆様にお願いがあります。


子供は耳抜きが上手くできず痛がります。密閉空間で音や揺れに不安になります。


鳴る玩具は大変耳障りだと思います。ですが、違う音がすれば子供の意識はそちらに集中するので、こういった玩具は落ち着かせるのに必要なんです。大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程、宜しくお願いします。

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