第9話 スコップとシャベルの違い

 では、ヒストリー・ミステリー第4話を始めよう。


 * * * 


 最近、鎌倉ネタが、続いたので、皆様も食傷気味であろうと思い、今回は箸休めとする。

 そこで、此度は、『ニッチ』な話題を用意した。題して……

 『スコップとシャベルの違い』

 解説開始……


 * * * 


●日本人の誤解

 まず、日本人は、ほぼ全て、スコップと、シャベルを誤解している。

 しかも、この誤解は、JIS規格にまで、侵食しているのだ。

 では、ここで、JIS規格から引用しよう。


 足をかける部分があるものは、ショベル。

 無い物は、スコップ。


 以上、引用終了

 ちなみに、シャベルではなくショベルと定義されているが、これはどちらも正しい。

 故に問題無い。が、本作では、『シャベル』で、統一する。


 これは、世界的に見れば、『間違い』。

 どう取り繕っても、日本独自ルールに過ぎない。

 で、本作は、この『間違い』を指摘し、『正しい』知識を披露しよう。


●スコップとは? シャベルとは?

 結論から言おう。スコップと、シャベルは、『同じ物』だ。

 そもそも、英米人に代表される英語圏の人間は、『スコップ』と言わない。

 何故か、『シャベル』は、英語だからだ。


 賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。

 では、『スコップ』って何語? とな。

 それが、判明すれば、日本人の『誤解』、その『ボタン』の『掛け違え』その『最初』を察する事ができよう。

 答えは簡単だ。


 オランダ語


 成程、賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。

 何時(頃)、誰が、何の為に、日本に輸入したのか、簡単に分かったであろう。

 つまり、江戸時代、『蘭学者』が、西洋の学問を教え広める為だ。

 すると、『スコップ』の方が、『シャベル』より先に、日本上陸を果たした事になる。


●日本におけるスコップとシャベルの『始まり』

 ちなみに、弥生時代の遺跡から、木製の『シャベル』が見つかった。

 賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。

 何故、弥生時代の日本で、『シャベル』が、必要だったのか。


 では、弥生時代の主食は何かな。

 米。


 では、米を入手するには、どうすればよい。

 稲作をし、稲から収穫する。


 では、稲作をするには、何が必要かな。

 水田。


 では、水田とは何かな。

 水深30~50センチメートルの、プールだ。水深は、全て同じである事。

 正方形が望ましい。が、長方形でもよし。


 では、水田を作るには、どうすればよいかな。

 地面に、上記の通りの形をした『穴を掘る』。


 そうだ、『穴を掘る事』が、できなければ、水田を入手できないからだ。

 ちなみに、弥生時代の『シャベル』は、角型スコップに似ている。

 土をかき出す『さじ部』が、四角形になっているのが、特徴だ。

 そうでないと、水田の水深を、一定にできないからな。

 ちなみに、飛鳥時代や、奈良時代まで下ると、先端に鉄製のアタッチメントが、付く。

 これにより、作業効率上昇となるからだ。

 そりゃ、木より鉄の方が、掘り易いだろう。


 ちなみに、『円匙えんし』と呼んでいた。


●『蘭学者』が、持ち込んだ『スコップ』

 尚、『蘭学』、『蘭学者』については、割愛する。勿論、尺の都合だ。

 当時の日本人は、『スコップ』が、『円匙えんし』と説明され、すぐに分かった。

「なら、西洋の言葉かっこいいから、これから『スコップ』って呼ぼう。」

 等と訳も分からず、でも間違いでない『スコップ』と呼んだ。

 それから100年ほどかけて、『スコップ』は、広がり定着していった。


●明治新政府と、日本人の混乱と混迷と混沌

 時は、明治となった。

 これで、西洋の学問は、全面解禁。

 義務教育制度の導入。

 英語教育の開始。

 ここで、『シャベル』と言う言葉が、上陸した。

 その為、日本人の混乱と混迷と混沌に、放り込まれた。

 賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。


「え? 『スコップ』って、昔学者先生が、教えてくれたんだぜ。なんで『シャベル』?」

「じゃあ、『スコップ』って間違い?」

「ひょっとして、『シャベル』が、間違い?」


 こんな具合だ。

 たいした学も無い輩が、目新しさで、西洋の言葉を使った事も原因の1つだ。

 が、この混乱と混迷と混沌は、収拾が可能だった。

 出来る者がいたのだ。

 賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。


 『蘭学者』だ。


 では、何故未だに、『誤解』され続けているのか。

 賢明なる読者諸君は、お気づきであろう。


 『蘭学者』が、『何もしなかった』からだ。


 正確には、違う。

 先程も触れたが、江戸時代、西洋の学問と言えば、『蘭学』一択だった。

 それが、明治になって『解禁』された。

「なんて、海の様に広いんだ。おお! イギリスでは、こんな学問が! おお! ドイツでは、こんな学問が! おお! フランスでは、こんな学問が!」

 と言う具合に、自分が『やりたい事』だけやっていたのだ。

 故に、『スコップ』と『シャベル』の間で、右往左往する日本人など眼中になかった。

「むしろ、そっちの方が、悪質じゃねぇか。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在するかもしれない。

 ちなみに、『蘭学』は、どうなったか。

 ポイッ。


 ちなみに、証拠ならあるぞ。

 それは、解説本が、出版されなかった事だ。1冊もな。


 いいかね。日本の周辺ですら、朝鮮、中国、インドなど様々な国がある。

 国が違えば、言葉が違うのは、当然だろう。

 西洋でも同じだ。

 つまり、『スコップ』と呼ぶ国と、国民がいる。これは、オランダだ。

 また、『シャベル』と呼ぶ国と、国民がいる。これは、イギリスだ。

 それだKの事だ。両方正しい。


 この様に、学の無い人間でも理解可能な程、かみ砕いた解説本が、1冊もなかった事だ。

 これこそが、証明であり、証拠であり、証左だ。


●混乱と混迷と混沌への終止符

 余りに長期に渡って、混乱と混迷と混沌のるつぼにいた日本人は、やけを起こした。

 落としどころを、勝手に作ってしまったのだ。

 それも、『間違った』落としどころをだ。

 それを、JIS規格にまで、押し込んだのだ。

「ふぅーー。これで、一安心。両方、正しいと結論できた。」

 めでたしめでたし。


●まとめ

 『蘭学者』とて、当初は良かれと思って、『蘭学』を広めたのだ。

 が、こうなる事までは、予想できなかったし、望んでいなかったはずだ。

 この様に、『善意』が、必ず善い結果だけもたらすとは、限らない。

 こう言う皮肉な事にもなりえるのだ。

 では、この辺で、失礼。


<終わり>


 * * * 


 当方は、皆様からの質問や、リクエストを受け付けております。

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