第344話 ヘアーサロン・クーヤ
黒眼鏡達にハイドリムドで買ってきたスイーツを渡すため、意気揚々と
仕方がないので、場末のスナックに悪そうなお兄さんのアジトの情報を仕入れに来たのですが、どういうわけか話の流れで紫色の髪の男をモヒカンにすることになってしまいました。
男はカウンター席で酒をチビチビやってたんだけど、面倒臭いからそこで髪を切ることにし、急遽『ヘアーサロン・クーヤ』がオープンしました。
やるからには全力で取り掛からないとお客様に失礼なので、生前にボクが愛用してた理髪店の店長の姿を思い浮かべ、まずは道具から用意することにした。
霧吹きなんてモノは持ってなかったけど、アイテム召喚で手に入れた除菌スプレーならあったので、その辺に転がっていたバケツに中身をドボドボと捨ててから水洗いし、普通の水が出る霧吹きに生まれ変わらせた。
次にブルーシートを召喚し、ハサミで丸く切り抜いてから中央に丸い穴を開け、みかん箱みたいな台に上がってから、それを紫頭の男にかぶせる。
「これは何なんだ?」
「そのまま髪を切ったら、服が髪の毛だらけになっちゃうでしょ?」
「なるほど!そこまで考えているとは感動したぜ!」
「なんか意外と本格的だな!」
「クーヤちゃんって、ホント何でも出来るよね~!」
「私も今度クーヤちゃんに髪を切ってもらおうかな?」
「どんな髪型になるのか楽しみです!」
「さすクー」
身長差を補うためのボク専用みかん箱の他にも、道具を置くための台を用意して、ハサミやら霧吹きやらブラシやら剃刀やらを並べていく。
「おはようございます。『ヘアーサロン・クーヤ』へようこそ!今日はどんな髪型になさいますか?」
「いや、だからその『モヒカン』とかいう髪型にするんじゃねえのか!?」
「おっと失礼しました!モヒカンで御座いますね。では始めます」
「おう!」
プシュッ プシュッ プシュッ
男の頭を霧吹きで濡らし、ブラシをかけてみる。
・・・うん。これに何の意味があるのかサッパリわからん。
まあいいや。
あの店長の真似をして間違いってことはないでしょう。
しかしモヒカンか~。
百戦錬磨の店長といえども、『今日はモヒカンで頼むぜ!』なんて客に言われたことなんか一度も無いんじゃないの?
正直ボクも、オープンしたばかりのお店に初めて来たお客様がモヒカンを希望するなんてビックリですよ・・・。
まあいいや!すなわちアレでしょ?世紀末にヒャッハーしながら街で大暴れしている、あの雑魚キャラみたいにすればいいだけだよね?
真ん中を残して両サイドをツルツルにするだけの、簡単なお仕事なのです!
左右対称にすることだけ注意して、もう豪快にやっちゃいましょう。
バリカンを手に取った。
こんなん初めて使うけど、耳にさえ引っ掛けなきゃ怪我なんてしないよね?
まあいいや、いったれーーーーー!
ウィーーーーーン!
ドサッ
おおう!一撫でしただけで髪の毛の塊が床に落ちた。なかなかの切れ味ですぞ!
失敗しないよう慎重に、それでいて豪快に攻めるのだ。
ウィーーーーーン!
「おい!なんかクーヤの奴、ムチャクチャやってねえか!?」
「ハサミで切るのかと思ったら全然違ったよ!」
「やっぱりクーヤちゃんに髪を切ってもらうのはやめよう・・・」
「耳の横ですごい音が鳴ってるのに、あの男の人ピクリとも動きませんね」
「寝てるっぽい」
「そういや酔っぱらってたもんな」
バリカンの設定とかよくわかんないから、5ミリくらい残ってしまいました。
でもどうせツルツルにするんだし関係ないか。
剃刀を手に取ったけど、泡をつけないと剃ったあとヒリヒリしそうだから、一旦剃刀を戻して石鹸で泡を作ることにした。
なぜか大爆笑していたスナックのママに入れ物を貸してもらい、水で濡らした石鹸をタオルにゴシゴシして泡立たせる。
そして紫頭のお客様の側頭部を泡まみれにし、すごく気を付けながら剃刀でゾリゾリと剃り上げていった。
「うわマジか!?横だけツルツルに剃り上げるなんて鬼畜すぎんだろ!!」
「でも中央の毛だけは後ろまで残すみたいだよ!」
「目が覚めたらショックで気絶しちゃわない?」
「天使様は最初から真剣に仕事をこなしています。もしかすると『モヒカン』ってのは本当に、あの変な髪型のことなのかもしれませんよ?」
「さすがクーヤ!普通の人にできない事を平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれる!」
左右非対称になってないかちゃんと確認しながら側頭部をツルツルに剃り上げ、昔アイテム召喚でゲットした『ウルトラハードジェル』を召喚。
それを残った中央の髪の毛に多めに塗り込み、重力に屈しないほどバキバキに立たせていく。
この人って髪の毛がメチャメチャ硬いので、ジェル無しでも十分モヒカンになってたんだけど、これは当店をご利用してくれたサービスです!
「ふ~~~、モヒカンの完成なのです!」
怒髪天を衝くってレベルで、真っ直ぐ天に向かって聳え立つモヒカン。
左右のバランスも完璧だし、残した毛の量もバッチリなんじゃないかな?
もう、どこからどう見ても世紀末の雑魚キャラそのものです!
もはや完璧としか言えない出来栄えに惚れ惚れする。正直、自分のテクがこれほどとは思いませんでした。ようやく理髪店の店長に追いついたかな?
「アーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
「「ぶわーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」」
お客様はこの店の常連っぽいですからね。真のモヒカンとして生まれ変わったことに感動し、ママが大粒の涙を流しています。
ホウキとちり取りを貸してもらい、床に大量に散らばっている紫色の髪の毛を集めてゴミ箱に捨てた。
「うぅ・・・、ハッ!?」
紫モヒカンが目覚めた。
「もしかして寝ちまってたか?」
「ぐっすり寝てましたね。でも安心してください!お客様はどこに出しても恥ずかしくない、真のモヒカンとして生まれ変わりましたよ!」
「おぉ、マジか!どんな髪型になったのか確認してえな・・・。ママ、ここに鏡とかねえか?」
バフッ!
「フフッ、あっ!この店には無いわね~」
「ねえのかよ!」
「悪そうなお兄さんの所に行けばあるんじゃない?」
「あ、そうか!んじゃとっとと向かうとするか~。ママ、今日もツケで頼む!」
「ツケも溜まってるし、そろそろ払ってもらわないと困るんですけど?まあでも今日は楽しかったから見逃してあげるわ。次はちゃんと払いなさいよね!」
「わかってる!じゃあ行こうぜ?」
というわけで結構時間が掛かってしまいましたけど、ようやく悪そうなお兄さんのアジトまで案内してもらえることになりました!
スナックの一角で『ヘアーサロン・クーヤ』を営業させてくれたお礼として、ママにケーキを1箱手渡した。
しかし笑い上戸な面白いママでしたね~。
この店にゴロツキが集まって来る理由が少しわかったかも!
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