第340話 ジャーキー工房に変なのが増えてる

 ハイドリムドから王妃様のお遣いでやって来たマグロのおっちゃんとメルお姉ちゃんが、ライガーさんとベイダーさんに連れられて馬車の試乗をしに行った。


 最強サスペンションを搭載したパンダ工房の馬車の性能に疑いは無いので、ボクからすると王家の馬車を作るのはもう確実だと思ってますけど。


 それでもハイドリムドの馬車に乗ったことがあるわけじゃないから、あっちの方がパンダ工房の馬車より優れている可能性も一応あるんですよね~。


 とにかく、マグロのおっちゃん達にマッチョ二人を紹介するミッションは成功したので、今度はスイーツ爆弾を投下しに行こうと思います!



「腹減ったな。アタシらも何か食わせてもらおうぜ!

「じゃあ急いで食べて、マッチョ達が仕事に戻る前にお土産を渡さなきゃ!」

「お土産?そういえば、ハイドリムドがどうとか言ってたわね」

「ラン姉ちゃんのお土産は別にあるから、食堂では黙って見ていてください」

「私は個別のお土産が貰えるの!?ありがとう!すごく嬉しいわ!」



 そんな会話をしながら食堂へ移動すると、やはり従業員達でごった返していた。



 ピピーーーーーッ!



 タマねえがホイッスルを吹くと、マッチョ達が何事かとこっちを向いた。



「はい注目!実は最近ハイドリムドまで旅行に行ってまして、みんなにお土産を買って来ました!食後に配りますので、食べ終わっても席に着いていてください!」



「「おおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 従業員達の足止めに成功したので、食堂のおばちゃんに人数分の食事を注文し、空いてるテーブルに着いた。


 ボク達はかなりの常連なので、顔パスで食事を作ってもらえるのだ。

 他の人より少し出遅れていたので、急いで昼食を平らげる。



「ごちそうさまーーーーー!タマねえ、ホイッスルを!」

「合点承知」



 ピピーーーーーッ!



 食堂に二度目のホイッスルが鳴り響いた。



「ではお土産を出しますので、そのままテーブルでお待ちください!」



 パンダ工房専用のお土産ハムちゃんを2体召喚し、食堂の両サイドからスイーツを並べていった。


 真っ先に食堂のおばちゃんがスイーツに埋もれて笑いそうになる。


 食堂の三分の一がスイーツに埋もれた時点で、お土産のすべてが甘いお菓子だということに気付き、その場にいた全員が騒ぎ始めた。



「いやいやいやいや!これ全部甘いお菓子じゃねえか!!」

「お土産って、普通は一人1個とかそんなもんだろ!しかしこれは・・・」

「前回も食堂がお土産に埋め尽くされてなかったか!?」

「なぜかクーヤ達って、お土産に命懸けてるよな~」

「俺達にも気を使ってくれるのは有り難いが、一体いくら使ったんだよ!?」



 いくら使ったんだろ?でも『お土産は全力で』がボクのポリシーですから!

 お姉ちゃん達にも伝染して、最近は爆買いが当たり前になってきています。


 2体のお土産ハムちゃんが、食堂をスイーツで埋め尽くした。


 各テーブルがスイーツで埋まってるのは当然として、床の上もスイーツで埋め尽くされているので、食べなきゃ一歩も動けない状態でクスっとした。



「アタシらの審査に通った厳選スイーツばかりだから、全てが美味いぞ!食わないと歩けないから死ぬ気で食ってくれ!」


 レオナねえの一言に、マッチョ達から大歓声が!


「お土産は嬉しいが、いくら何でも買い過ぎだろ!」

「メシ食った後だし、精々二つくらいで限界だぞ」

「家族にも食わせてやりたいんだが・・・」


 大歓声ってほどでもなかった。どちらかと言うと苦情ですね。


「しょうがねえな!じゃあ二つ食ったら、後は家に持ち帰ってもいいぞ~」

「此処にいない人の分は残してあげてね~」

「でも、ライガーさんとベイダーさん、あとジャーキー工房の人達にはこの後渡しに行く予定だから、今いない勢に含めなくていいですよ」

「了解した。お土産ありがとな!」



 というわけで、一歩も動けないマッチョ達は放置して、ボク達はジャーキー工房へと移動した。


 ただジャーキー工房はまだ建設中なので、今は倉庫の一つをジャーキー工房として使ってるだけなんですけどね。


 それでも結構な広さがあるので、この倉庫でも製造は可能なのだ。



 ガチャッ



 倉庫の中に入ると、前回来た時よりも随分と賑やかになっていた。



「あれ?なんかケモミミがいっぱい増えてない?」

「それね・・・。ペチコが獣人仲間にジャーキーの自慢をしたらしいのよ。そしたらジャーキーの美味しさに感銘を受けた獣人達が、『ジャーキー職人になりたい!』って雪崩れ込んで来たわけ」

「えええええ!?なんで食べるだけで満足しないんだろ?」

「知らないわよ!けどペチコもジャーキーに命懸けてるじゃない?おそらく全員が、生産に関わりたいくらい心の底からジャーキーを愛しているんだわ!」



 普通に考えたら、ジャーキーが食べ放題だって気がするからジャーキー職人になりたいんじゃないのかなって思うけど、ぺち子姉ちゃんのジャーキーに懸ける情熱を知ってるから、そうとも言い切れないんだよね・・・。


 ただ獣人の性質みたいなのが少しわかったような気がする。

 感銘を受けたらそこに向かって突き進むタイプが多いんだなきっと。


 ちょうどいいタイミングで来たみたいで、職人達が完成したジャーキーを燻製マシーンから取り出し始めたので、ぺち子姉ちゃんの側まで近寄った。



「どれも素晴らしいジャーキーにゃ!みんにゃお疲れ様にゃ!」

「やっと火力の調節が上手くなってきたかも!」

「ねえねえ、そろそろお昼食べに行っていいの?」

「あ、もうお昼にゃね。食堂も空いてきた頃だと思うからお昼にするにゃ」



「まてまてーーーーーーーーーーい!」



 レオナねえの待ったの声に、獣人達が振り返った。



「あ、レオにゃんにゃ!師匠もいるにゃ!」

「マッチョ共がパーティーをしてるから、今食堂に行っても席に着けねえぞ!」

「うにゃっ!?あいつらにゃにやってるにゃ!!」

「っていうかボク達のせいなのですよ。ハイドリムドまで遊びに行ったから、お土産をばら撒いてきたとこなの!」


「「お土産!?」」


「というわけで、ココにいるみんなにもお土産を渡します!」


「「オオオオオォォォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 貧民街スラムから派遣されてやって来たと思われる人達や、知らない獣人が10人くらいいたりするけど、細かいことはどーでもいいのだ。


 燻製機の側は暑いので、とりあえず全員に手を洗ってもらってから、広い場所に集合してもらった。


 お土産ハムちゃんを召喚し、人数割りで数を調整しながらも、なんだかんだで周囲をスイーツで埋め尽くす。



「お土産って全部甘いお菓子にゃか!!」

「もしかして、私達の今日のお昼ってスイーツだけ??」

「マジか・・・」

「お昼がスイーツだけって、地味にキツくないですか!?」

「食わにゃいと一歩も動けにゃいにゃ!食うしかにゃいんにゃ!」


「「うおおおおお!やったらあああああーーーーーーーーーー!!」」



 というわけで、ジャーキー工房組のお昼はスイーツオンリーとなりました。

 地獄だけどボク達も通った道ですので、みんな頑張ってください!

 

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