第306話 マグロのおっちゃんの正体

 握手を交わした後、マグロのおっちゃんが後ろを振り返った。

 どうやらハムちゃんズを見ている様子。



「それはそうと、この動物達はどこから入って来たんだ??」



 んーーー、この人から詳しい話を聞くためには、ボクがただの子供だって思われている状態だとダメだよね?適当にあしらわれる可能性が高いし。


 ある程度力を見せつけて希望を持たせてあげれば、看守に隠し通した情報までしゃべってくれるかもしれない。



 ・・・よし、出し惜しみはナシだ!



「どこからも入って来てないよ?そこに出現したの」

「いや、意味が分からん」


 ハムちゃんを全部消した。


「は!?オイ!いきなり消えたぞ!!」

「うん、消した。じゃあ違うの出すけど悲鳴とかあげるの禁止ね」

「いや、消したって・・・」


 今度はトラを5体出した。


「どわあああああッッッ!!」

「だから悲鳴あげるの禁止だってば!」

「おいッ!こ、コレってどう見ても、魔物・・・だよな?」

「魔物ですね。でも今はもう魔物じゃないよ」

「今は魔物じゃない??・・・あっ!もしかして召喚獣なのか!?」

「ピンポンピンポーン!大正解!」

「嘘だろ・・・、お前一体何者なんだ?牢屋に入れられてるのも意味が分からん」

「ボクだって意味わからんですし!街で突然誘拐されたし!」


 まあお姉ちゃん達を脅迫するために、一番弱そうな子供を狙ったんだろうけど。


「なにッ!?奴らに誘拐されたのか!怪我は・・・無さそうだな」

「でもお姉ちゃん達が心配してるから、そろそろ脱出しなきゃだね」

「脱出だと!?もしかして自力で牢屋から出られるのか?」

「そういうの得意なんですよ。前にも脱獄したことあるし」

「前にもって、過去にも牢屋に入れられたことがあるんかい!!」



 ボクが住んでいる場所はミミリア王国で、貧民街スラムの悪い組織に誘拐されたことがあるって説明してあげた。


 あと、この国にはお姉ちゃん達と一緒に旅行で来たということも。



 召喚獣も見せたし、少しは希望が見えたかな?

 そろそろおっちゃんサイドの話を聞き出そう。



 グゥ~~~ ギュルルルル



「あ、すまん。腹が鳴っちまった」

「お腹空いてるの?」

「牢屋に入れられて3日程経つが、ロクなもん食わせてもらってねえんだよ」


 うわ、3日間も拷問されてたってことか。

 ならば美味しい物を食べさせてあげよう!口が軽くなるかもしれないし。


「じゃあ食べ物出してあげるから、マグロのおっちゃんの話も聞かせて!」

「はあ?もしかして食い物を持っているのか!?」

「牛丼召喚!」


 マグロのおっちゃんの横に牛丼を出した。


「それ食べていいよ」


 おっちゃんが牛丼に気付いて目を大きく開いている。


「うおおおおおおおおお!肉じゃねえか!!本当に食っていいのか!?」

「少し難しいけど、その二本の棒を使って食べるんだよ」

「何がなんだか分からんが、もう我慢の限界だ!とにかく食うぞ!!」



 ガツガツガツガツガツガツ



 もう限界レベルで腹が減っていたのだろう。

 お箸を逆に持って、とにかく牛丼を口の中にかき込んでいる。


 ただ消したら栄養も消滅しちゃうから、器とかを消すのは次にちゃんとした物を食べさせてからにしよう。


 マグロのおっちゃんが一瞬で牛丼を食べ尽くした。



「げふぅ~~~、こんな美味い料理を食ったのは生まれて始めてだ!!」

「コーラ召喚!えーとこれは飲み物なんだけど、甘くてシュワシュワするからね」



 500ml入ったペットボトルのコーラの蓋を開けて、鉄格子越しにマグロおっちゃんに手渡した。



「真っ黒なんだが、飲んでも大丈夫なのか!?」

「この状況で、飲めない物なんか渡すわけないです」

「それもそうか。飲んでみるとしよう」


 ゴクッ ゴクッ


「ゴヘアッッッ!な、なんだこりゃあ!?口の中がパチパチするぞ!!」

「慣れるとそれがクセになるのですよ!」

「そうなのか?あ、でも甘くて美味いな!!へーーー、こんな飲み物が・・・」



 何だかんだでコーラも一気に飲み干し、ようやくおっちゃんが一息ついた。



「大満足だ!もういつ死んでも悔いは無い!」

「何言ってやがりますか!バカどもに拷問されて死ぬなんて、悔いしか残らないじゃないですか」

「いやまあ、それはそうなんだけどな」


 食わせたのはカツ丼じゃなくて牛丼だったけど、そろそろ口を割らせるとしよう!


「さてと・・・、そろそろマグロのおっちゃんが、なぜ拷問されているのか聞かせて欲しいんだけど?ちなみにボクが子供だからって適当に話すのは禁止です!ボクは脱獄するけど、もし隠し事をしたらおっちゃんは牢屋に置いていきます」

「!?」

「たぶん召喚獣でこの建物とかボコボコにぶっ壊すと思うから、ここにいたらペシャンコになるかも?」

「いや、それもうほとんど脅迫じゃねえか!奴らよりもお前の方が怖いわ!!」



 とか言いつつも、色々と助けてもらった恩義は感じているのだろう。

 マグロのおっちゃんが、『しょうがねえなあ』って顔になった。



「ふむ、どこから話すか・・・。俺は王家の諜報部隊に所属している者だ。トップではないが、これでもそこそこ偉い立場なんだぞ」


 ぶっ!いきなり王家とか出て来たんですけど!!


「王にはレヴリオス公爵という弟がいる。それがまあ野心の高い男なんだが、国家転覆を企んでいると聞いて、その調査の為に俺はこの街に潜伏していたんだ」


 なんか、話がとんでもなくデカくなったんですけどーーーーー!!


「誘拐されたのならジグスレイドを少しは知っているよな?奴らがこの街で好き勝手やっても許されている理由は、レヴリオス公爵の子飼い組織だからなんだ」


 そういうことだったのか!

 この国がおかしいというよりも、その弟公爵がクズだったわけだ。


「それでジグスレイドの拠点を調査して分かったのが、もうすでに奴らの大半が首都に潜伏していて、そこで何かデカいことをやらかすつもりだということ。あと人身売買をしているらしいという情報も届いている」

「人身売買!?もしかしてボクも売られるとこだったの!?」

「かもしれんな。まあそんなこんなで、仲間達と調査している最中にちょっとヘマをしちまって、こうして囚われの身になっちまったというわけさ」



 泣いてる女の子と、その手を優しく握っていたお兄ちゃんのことを思い出した。


 この街の住民には手を出さないとは思うけど、あんな可愛い子供達を誘拐して奴隷にして売り飛ばしたりしてるってことだよな?



 ―――――ジグスレイドの奴ら、もう絶対許さねえ!



「マグロのおっちゃん」

「ん?」

「ちょっと本気でジグスレイドを潰すね。この街だけじゃなく、首都にいる奴らも丸ごと全部だ!」



 もう旅行とかどーでもいい。アイツらだけは潰す!

 

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