第242話 復活の黒眼鏡

 シェミールを出たボク達一行は、まっすぐ家には帰らないで、東区の貧民街スラムへと向かった。


 悪そうなお兄さんに時計を渡すだけなんで、夕食までには家に帰れると思う。



「あの門に寄り掛かってる奴って、間違いなくガイアじゃん!」

「黒眼鏡してるから一瞬でわかる」

「久しぶりに見ましたね!良い人なのは知ってますが悪者みたいです」

「あれえ?まだ審査に通ってないと思うんだけど、着けていいのかな?」



 こっちに気付いた悪そうなお兄さんが、『よう!』と左手を上げた。



「もう黒眼鏡が完成したの!?」

「とりあえずはな。最初に貰ったヤツよか少し景色が暗いんで、まだもう少し微調整が必要だ」

「けど特許の審査に通ってないんじゃ?着けていて大丈夫?」

「ああ。審査が通るまで販売は出来ないが、特許を申請した時点で俺の勝ちだ。後から特許を申請した奴がいても、先行順で弾かれるだけだしな」


 なるほど!まだ売るのは無理だけど、趣味で着用する分には問題ないわけか。


 恐れていたのは真似した人に抜け駆けされることだから、その心配がなくなった時点で、サングラスの着用はOKになったんだね!


「そっかーーー!黒眼鏡の完成おめでとーーーーー!」

「何とか再現することが出来たぞ!だが元々はクーヤがくれた物だ。むしろ俺の方が感謝している!」


 悪そうなお兄さんとそんな会話をしていると、レオナねえが口を開いた。


「しかし惜しいな・・・」

「何がだ?」

「服装だよ。いい服を着てはいるが、あの服ならもっと黒眼鏡が似合うだろうに」

「あの服!?オイ!!それは一体どんな服だ!?」

「クーヤ、描いて差し上げなさい」

「うぇええええええええええええええええ!?」


 さっき頑張って描いた絵を、もう一度描けだと?

 レオナねえは鬼ですか?呂布ですか?


「めっちゃメンドイんすけど!」

「あのコートだけでいい!そして背中には銀の逆十字だ!」

「アツアツのカップルだと思われちゃうよ?」

「なにィ!逆十字は却下だ!!」

「ん~、しょうがないから描くけど、まだ構想を練ってる段階の非売品だよ?」

「さっき注文したばっかだしな~。まあ遠くないうちに一般用のも作られるだろ」

「悪そうなお兄さんが気に入ったら、追加で注文してあげてもいいんだけどさ」

「よく分からんが、絵を描くなら場所を変えんとな・・・」



 悪そうなお兄さんが歩き出したので後を追うと、兵士の詰め所に入って行った。



「オイ!此処はダメだろ!!」

「おそらく問題無い」


 ガチャッ


「ほらな?」

「何で誰もいねえんだよ!!」


 詰め所の中には兵士が一人もいなかった。

 というか埃が積もっていて、使われている形跡すらなかった。


貧民街スラムの外にも詰め所があるから、兵士らはそっちを使ってるんだよ。貧民街スラム側の詰め所なんて、おそらく5年以上使われてねえな」

「そういうことか!こっち側で何が起きようと知ったこっちゃないが、貧民街スラムの外では好きにさせねえぞって感じなのな・・・」

「治安部隊なんてそんなもんだ。まあ貧民街スラムの住人が昔大暴れしたせいでもあるから、見捨てられるのも自業自得ではあるな」


 ショタを誘拐する悪いヤツがいっぱいいるもんね!

 悪人のあまりの多さに、捕まえてもキリが無いと判断した兵士を責められないか。


 悪そうなお兄さんがテーブルと椅子の埃を拭き取ってくれたので、テーブルに紙を広げて黒いコートの絵を描き始めた。



「麻雀セットの進み具合はどうよ?」

「黒眼鏡の方に集中してたんで、まだ麻雀牌を136個揃えるのに素材を切り始めた段階だな。数を揃えて形を整えて削って色を塗ってだから、1セット作るのにどれほどの時間がかかるモノやら・・・。正直気が遠くなるぞ」

「確かにキツそうだな~。麻雀卓や緑の敷物も作らなきゃならんし」

「でも絶対に完成させるぞ!商売はともかく、俺は仲間と遊びてえんだよ!」

「わはははははは!すげーわかるぜ!!」


「完成!」


「おっと、話してる場合じゃねえ!クーヤのことだから絶対スゲーの描いてるぞ」



 みんながボクの周りに集まって来た。



「うおおおおおおおおおおおお!コレもメチャクチャ格好良いじゃん!!」

「短時間の間に、前から見た絵と後ろから見た絵を描いてる!」

「流石は天使様です!!」



 悪そうなお兄さんの反応が無いなーと思ったら、目を大きく開いて、少し前に伸ばした手の指先が少し震えていた。



「・・・な、何なんだこの服は!!」



 え?もしかしてダメだった??



「究極の服だろ!!格好良いのきわみじゃねえか!!」



 良い方の驚きだったーーーーーーーーーー!



「だろ?クーヤの描く服のセンスって、マジで半端ねえんだよ!」

「この背中に描かれた、黒いローブを着た骸骨が痺れる!赤いバッテンみたいな柄と合わさって異様にそそるな!」

「わかるぜ!!この服だったらアタシも着てみたいくらいだ」


 悪そうなお兄さん・・・、やはりアナタも中二病でしたか!

 ちなみにその絵は死神ですよ。


「この服って、もうどこかに売ってるのか!?」

「いや、まだ売ってねえんだ。さっきシェミールにアタシの服を注文したばっかなんで、出来上がるまで何日かかるかだな・・・」

「シェミールって、中央区にある有名な服屋だよな!?でも女性客でごった返してた気がする・・・。あんな店には入れねえぞ!!俺の服の注文も頼んでいいか!?」

「これほどの服だから金はかかるぜ?10万ピリンしてもおかしくはない」

「100万ピリンでも買うぞ!」

「じゃあアタシが注文しといてやるよ。でもこれはコートだから、中に着る私服をどうするか、今から考えといた方がいいぜ?」

「なるほど、そうか・・・私服の上からコイツを着るのか・・・」



 この二人って、結構お似合いじゃない?


 でもさっきレオナねえは、アツアツカップルを全力でお断りしてましたよね。

 これだけ趣味が合うのに尊い属性とは、色々と不憫な姉だなあ・・・。


 ところで、いつになったら時計を渡すことができるのだろう?

 

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