第209話 クマー

 プリンお姉ちゃんは右手を怪我してるんだけど、左手は普通に使えるので、さすがに食事のお手伝いまでは遠慮された。


 まあ、ボクもタマねえもウザがられるのは嫌なので、引くところは引くのだ。

 片手じゃ髪を洗うのすら難儀するので、お風呂のお手伝いは絶対ですけどね!


 しかしプリンお姉ちゃんの瞳から、『公共の場で屈するわけにいかない』という強い意志を感じ取ったので、大浴場はボクとタマねえだけで行くこととなった。


 突撃したのはもちろん大浴場の女湯で、そこは想像していた通りの桃源郷だったんだけど、ボクは一つ大事なことを忘れていた・・・。



 ―――超絶かわいいショタにとって、女の園は完全にアウェイだったのだ!



 当然ながら大浴場にいたのは若い女性ばかりなんてことはなく、洗い場ではマダムの群れに襲われてショタ争奪戦が勃発し、やっと逃げ込んだ湯船でも一瞬で囲まれる事態となり、お湯じゃなくマダムに浸かったようなもんだった・・・。




 バタン



 タマねえの腕に縋り付きながら、フラつく足でなんとか自室まで戻って来た。



「・・・天使様?お風呂に行ったハズなのに、なぜ瀕死になっているのですか?」



 濁った瞳でプリンお姉ちゃんを見つめた。



「私にも悲しいことはあるのだよ。聞かないでくれるか?」



 さっぱり意味の分からないプリンお姉ちゃんがタマねえを見た。



「女湯に行ったらマダムの群れに襲われた。クーヤの可愛さがあだとなった」


「あ~~~なるほど!お風呂で天使様を見掛けてしまったら、普通ハムハムせずにいられませんよね!」


「クーヤはまだ自分の可愛さをわかってない。もう大浴場は禁止!」



 クソガーーーーーーーーーー!!


 子供に戻って女湯に入るのなんて、全変態紳士の夢だろ!

 まさか己の可愛さがあだとなって、悲惨な結末を迎えるとは・・・。



 桃源郷でフィーバーする予定だったのに、涙で枕を濡らしながら眠りについた。






 ************************************************************






 一夜明け、宿屋の女将さんと涙のお別れをした後、この街に詳しいプリンお姉ちゃんの案内で色々な店を見て回った。



 すでにお土産は有り余るほど買っていたんだけど、レオナねえの『甘い物を買ってないじゃないか!』という一言にショックを受け、首都ルナレギンでナンバーワンと言われているらしいスイーツ店で、色んなお菓子を腐るほど買い漁った。


 実は昨日の商人に謝礼として300万ラドン貰ったらしく、『護衛任務を失敗したばかりか、重傷を負って助けられた自分が受け取るのはおかしい』と辞退したプリンお姉ちゃん以外の六人で分け合い、それぞれの持ち金が50万ずつ増えたのだ。


 レオナねえ達も『謝礼が欲しくて助けたわけじゃない!』と建前全開のお断りはしたみたいなんだけど、最終的には押し切られる形で受け取ったらしい。



 そして買い物はもう十分だろうってことで、今度は兵士の詰め所に行き、盗賊を壊滅させた懸賞金300万ラドンを受け取った。


 これに関しては戦闘に参加していないクーヤちゃんが辞退し、ショタ以外の六人で50万ラドンずつ分け合った。


 何かよく分からんうちに、みんなお金持ちになってしまいましたよ!

 この国に来た時は無一文だったのにね~。



「さて、帰る前に持ち金をピリンに両替すっか」

「ん~~~、でもまた近いうちにセルパト連邦に戻って来るよね?」

「ラドン紙幣はリナルナ以外の国でも使えるらしいから、ある程度ラドンのまま持ってた方がいいんじゃない?」

「俺は黒眼鏡の生産に入るから次の旅行は回避するつもりだが、いつでも王都で両替出来るみたいだし、100万ラドンほど残しておくかな?」

「そうか!私もミミリア王国で使えるお金を持っておかないといけませんね」

「タマはどうしよう・・・」

「こっちは適当でいいんだぞ?家族のことを考えるなら、ピリンを優先しとけ」

「うん。でも次のお土産代も必要だから、50万ラドン残しとく」



 なるほど・・・。どうせまたセルパト連邦のどこかの国に行くだろうから、ラドン紙幣も持っておくべきだよね。


 まあこのメンバーなら金に困ることも無さそうだし、本当に適当で良さそうな気がする。200万ラドンくらい残しとくか。



 銀行らしき建物に入り、全員両替を済ませた。



 光永空也時代は常に死亡フラグと共にあったので、乗り物が怖くて海外旅行なんて不可能だったのもあり、外貨両替なんか初めての経験でちょっと楽しかった。


 そしていよいよミミリア王国に帰ることになったんだけど、どこでドラちゃんを出せばいいのかさっぱり分からなかったので、プリンお姉ちゃんに人のいない場所がないか聞いてみた。



「近場で人の目が無い場所ですか?・・・そうですね、街の北にあるパルラ山付近まで行けばおそらく誰もいないと思います。あの山は『白いローグザライア』の縄張りですので、冒険者もあまり近寄りません」


「「『白いローグザライア』だってーーーーー!?」」


 よっしゃあああ!!アイツを手に入れられなかったのだけが心残りだったんだ!

 最後にまたドラちゃんに倒して来てもらうしかないっしょ!


「ハイ!ハイ!最後にそれを頂いて帰ります!」

「言うと思ったぜ!」

「頂くって・・・、え?今から討伐しに行くのですか!?」

「ボク達は近くまでしか行かないよ。ドラちゃんに倒して来てもらうの!」

「ドラちゃん?知り合いの強い冒険者とかですか?」

「ううん、ボクの召喚獣だよ」

「召喚獣!?」

「まあそいつぁ見てのお楽しみってことで、そろそろ出発しねえか?」

「だね。そろそろ出発しないと予定通りに帰れないよ」



 そんなわけで、全員トナカイに乗って街の北門から外に出て、パルラ山目指して疾走した。




 ◇




「此処がパルラ山です。本当に危険ですので、この先に足を踏み入れる冒険者など殆どいません」


「よっしゃーーー!着いたーーーーーーーー!」

「山に入るわけじゃないけど、なんか緊張するな」

「うん。何も知らないで入ったら酷い目に合うだろうね」

「すぐ見つかるかなあ?」

「わかんないけど、ドラちゃんは狩りの名人だから大丈夫!」

「前回は30分くらいで捕まえて来た」

「ちょっと大きいのを呼び出すから、プリンお姉ちゃんビックリするかも?でもボクの召喚獣だから心配しないでね」

「心臓が止まるかもしれないから、心臓を叩いておくのをオススメするよ!」

「え?心臓ですか?」


 近すぎるとワケが分からないだろうと思って、10メートルほど前に進んだ。


「じゃあ呼ぶね!ドラちゃん召喚!!」



 シュッ



 目の前に全長20メートルの真っ赤なドラゴンが出現し、プリンお姉ちゃんは完全に固まった。



「はひゅッ!こ、これって、ド、ドド、ドラゴン・・・」



「ドラちゃん!ドラちゃん!この前捕まえて来てくれた大きな熊の魔物の白い奴がこの山にいるらしいから、捕まえて来てほしいの!」



 呼び出された直後に変な注文をされたので、困惑していたドラちゃんだったが、脳内イメージを伝えたら思い出したらしく、『ああ、アイツね!』って顔になった。



『ギュア!』



 バサッ バサッ バサッ バサッ


 最近はゴーレムに匹敵する働き者となったドラちゃんが大空へ飛び立った。



「いつもすまないねえ・・・、ゴホッゴホッ」


「っていうかアレって、ド、ドラゴンですよね!?まさかアレも召喚獣なのですか!?え?嘘っ・・・、天使様は単独でドラゴンを撃破したのですか!!」


「人間、死ぬ気になれば大体何だって出来るのですよ」


「「いや、できねーよ!!」」



 レオナねえと悪そうなお兄さんが高速ツッコミを入れてきたが、その話は帰りにいくらでも出来るので、とりあえず今はプリンお姉ちゃんに最強の武器は何かというのを披露するだけにしておいた。


 そうこうしている間に結構な時間が経っていたようで、空から『クマちゃんゲットだぜ!』の声が聞こえて、鉄板披露宴は終了する。



 バサッ バサッ バサバサバサバサッ!



 ドサッ!



 そしてドラちゃんが狩って来た獲物を見て、プリンお姉ちゃんがまた固まった。



「うおおおおおおおお、デケエし真っ白だ!!」



 『白くま』キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

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