第195話 お金がない
隣国と思われる地に無事着陸したボク達は、ドラちゃんからトナカイに乗り換えて、最初の街に向かって歩き出した。
「思えば、着陸地点でゴンドラに一泊した方が良かったかもしれねえな」
「まだ日暮れ前だけど、宿が取れるか心配だよね~」
「外国でミミリア王国のお金って使えるの?」
「知らん」
「ダメじゃねえか!それくらい調べてから来いや!」
「最悪の場合、公園とかにゴンドラを出して、そこに勝手に寝ればいいだけだろ」
「あ~、確かにそれでも構わんのか。朝、目が覚めた時に大騒ぎになってるかもしれんけどな」
レオナねえ達の会話も気になるけど、それよりもボクはタマねえの後ろ姿に気を取られていた。
「タマねえ、あのリュックを背負って来たんだね!」
「うん、前にクーヤがくれたやつ。中に大事な物が入ってる」
「大事な物って何?」
「秘密」
「えーーーーーーーーーーーーーーー!?」
タマねえに隠し事されたのって初めてかも!!
中には一体何が入ってるんだ?
そんな会話をしているうちに、ようやく街の入り口に到着した。
「ちょっと待て!初めてみる顔だが冒険者か?お前らが乗っているのはテイムした魔物なのか?危険があるようなら街に入れるわけにはいかんぞ!」
門兵が両手に槍を持って、ボク達の前に立ち塞がった。
とりあえず言葉は通じるみたいだ。
「その通りだ。しっかりとテイムされている状態だから、ご主人様の命令に背いて一般人を襲うような真似は絶対にしない」
そう言った後、レオナねえはナナお姉ちゃんを見た。
「冒険者カードを見せればいいのかな?」
「確認させてくれ」
ナナお姉ちゃんが門兵にカードを見せた。
「ミミリア王国から来たのか!」
おお!?門兵がそう言うってことは、ココってやっぱセルパト連邦じゃんね!
「この国に来たのは初めてなんだが、何ていう名前の国だっけ?」
「ん?リナルナだが、お前ら自分の居場所すらよく分かってなかったのか!」
「ああ、そうだそうだ!リナルナだったな。ところで早いとこ宿を取りたいんで、街に入れてもらいたいのだが?」
「その冒険者カードはミミリア王国のモノだから、一般人と同様に通行料を払ってもらわねばならない。一人6000ラドン、子供は半額の3000ラドンだ」
ありゃ、やっぱり通貨が違うのね。
「ピリンでの支払いは可能か?」
「ミミリア王国の紙幣は使えないぞ。まさか王都で両替して来なかったのか?」
「い、いや、え~と、そう!両替した金を鞄ごと谷底に落としちまったんだよ!」
「はあ!?オイオイ!それじゃあ無一文と変わらないぞ?さすがに通行料を払えない者を街に入れるわけにはいかん!」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・、街で何か持ち物を売って金を作るってのはダメか?」
「むぅ、わざわざ外国から来て門前払いも可哀相だから、力になってやりたい気持ちもあるが・・・、お前ら本当に売れるような物を持っているのか?」
「ちょっと待ってろ!」
なんかいきなりピンチなんですけど!!
公園に寝るどころか街にすら入れないやん。
レオナねえ達がアイリスお姉ちゃんの鞄を漁ってるけど、一般的な冒険者の三人組って実用的な道具しか持ってないんじゃね?
「ダメだな。これでは売れるかどうかすら怪しいとこだ」
「ぐぬぬぬぬぬ、こうなったらもう剣を売るしかねえか・・・」
「ダメだって!それは大事な商売道具でしょうが!」
「残念だが両替して来てもらうしかないな。王都まで戻れとは言わんが、国境まで戻れば両替することが出来る」
一つ溜息をつき、悪そうなお兄さんが前へ出ていった。
そしてポケットから宝石を一つ取り出し、門兵に渡した。
「コレなら売れるだろ?」
「おお、美しい宝石だ!しかし本物か?」
「こんな時に偽物なんか渡すかよ」
「ふむ、コイツが本物なら軽く50万ラドン以上の値がつきそうだな・・・」
そう呟いた門兵は悪そうなお兄さんに宝石を返し、仲間の門兵を呼んで持ち場を交代してもらった。
「宝石商まで連れてってやる。店が閉まる前に急いで行くぞ!」
「助かる」
時間が無いとのことなので、門兵にシャンクルを貸して、ボクはタマねえと二人乗りした。意外と優しい門兵に案内されながら、街の中央と思われる場所にあった宝石商に入り、悪そうなお兄さんの宝石を買い取ってもらう。
元値は知らないけど120万ラドンで売れたので、クーヤちゃん一行はいきなりお金持ちになりました!とは言っても全部悪そうなお兄さんのお金なんだけどさ。
そして色々と良くしてくれたことにに礼を言いながら、全員分の通行料である30000ラドンを支払い、優しい門兵とはそこで別れた。
「えーと、悪そうなお兄さん?本当に助かったぜ、ありがとな!」
「その呼び方はガキ共だけでいい、俺の名はガイアだ」
「ガイアか、わかった。この国で使った金はミミリア王国に帰ってから必ず返す!」
「ココの冒険者ギルドに登録して、適当な魔物でも狩って来る?」
「それじゃあ1日無駄になっちゃうよ?」
「別に今すぐ金を用意することもねえだろ。残り117万あるんだから、もう金が足りないなんてこともあるまい」
「そうだな・・・、じゃあ支払いは全部父さんに任せた!」
「父さんって呼ばれるほど、お前らと年齢離れてねえだろ!」
なるほど~、魔物を狩って旅行費にするのはアリかもね。
どの魔物がお金になるのかサッパリ分からないけど。
「よし、とりあえず門兵に教えてもらった宿に行こうぜ」
「部屋が空いていればいいけど・・・」
「大丈夫じゃない?たぶん都会ってほど人の多い街じゃないと思う」
ナナお姉ちゃんの言うように、この街の大きさはボク達が住んでいるオルガライドか、それより少し小さいくらいに感じた。しかも薄暗くなってきたので、周りにもほとんど人が歩いていないような状態だ。
「おうおう姉ちゃん達!宿を探してんのかい?」
「ヒューーーーーーー!よく見りゃ三人共可愛いじゃないの!!」
「あ”ぁ?男もいんのかよ。そんな奴は放っておいて、俺らが泊ってる宿に来いよ!ぜってー楽しいからよ!!」
「ヒャッヒャッヒャッ!俺と楽しいことしようぜ~~~!」
ゲスい声がした方を見ると、チンピラ風の冒険者らしき4人組の男が、ボク達のいる場所に向かって歩いて来ている姿が見えた。
「あ?こっちは急いでんだよ。邪魔だから消えな!」
「何なのこの人達?酔っ払いとかお呼びじゃないんだけど」
「・・・・・・・・・・・・」
レオナねえ達に冷たくあしらわれた酔っ払い共だったが、気にせずヘラヘラと笑いながら側まで近寄って来た。
「気の強い姉ちゃんだ!そういうのも嫌いじゃないぜェ?」
「ハッハーーーーーーーー!いいから一緒に来いって!宿代も必要ねーから!」
「ぷはッ!たしかに俺らの部屋に泊れば宿代はタダだな!」
「楽しませてやっからよぉ~!」
・・・こいつらすげームカつきますね。
「帰れ酔っ払い。ぶち殺しますよ?」
いきなり発せられたショタの痛烈な言葉に、酔っ払い共から笑顔が消えた。
「あ?もしかして今のって、この黄色いガキが言ったのか?」
「口の悪いガキンチョだな?」
「オイオイオイ!親はどこだ?教育がなってねえぞ!!」
「ぶち殺すだってェ?やってみろやクソガキ!」
じゃあやるよ?
「トレント出て来い!」
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
「特別攻撃隊出動!」
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
―――チンピラ4人組は、突如街のド真ん中に出現した魔物の大群に囲まれた。
『『ガルルルルルルルルルルルルルルルル』』
突然の出来事にショックて凍りついたチンピラ共に、もう一度同じセリフを吐く。
「帰れ酔っ払い。ぶち殺しますよ?」
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