第172話 クーヤちゃん、飛ぶ!

 リリカちゃんが7歳になりました!


 この世界では誕生日を毎年祝ったりはしないようで、『祝福の儀』で職業を授かった時や、小学校を卒業した時なんかに家族で盛大に祝うんだってさ。


 えーとすなわち、タマねえが3月に小学校を卒業するから、まずはみんなでタマねえのお祝いをして、夏頃リリカちゃんのお祝いすることになるのか~。


 タマねえの誕生日は5月5日なので、もうすでに12歳なのです。だから3月で卒業なんだけど、すぐ冒険者登録をしても13歳までは仮免みたいな扱いらしい。


 ・・・しかし、クーヤちゃんはどうなるんだ?


 通常ならば、誕生日である10月10日かその次の日くらいに『祝福の儀』を受けに教会に行くんだけど、すでに召喚士であるボクにそんな儀式は必要無い。


 ああ、でも儀式を受けなきゃ家族の一員として認められないのか・・・。

 格好だけでも取り繕わなきゃダメだよな~。


 リリカちゃんの時にどんな感じなのかわかるハズだから、それを真似ればなんとか誤魔化せるかな?ボクのお祝いをするなら、変な空気になりそうですけどね!


 まあでも8歳になれば、もう召喚士であることを隠す必要が無くなるってのは大きいですよ!学園では召喚獣なんて絶対見せられませんので。


 けど小学校でも召喚獣のことは隠した方がいいのかなあ?召喚士の難易度を考えたら、ハムちゃんを連れ回してるだけでも大騒ぎになる予感がします。


 ・・・まあテキトーでいいか。


 レオナねえ達みたいに、『でもクーヤだしな!』って空気になればいいのです!

 最終的には変な子ちゃんってことでみんな納得するのだ。




 ◇




 今日も学園でレミお姉ちゃんのおっぱいに挟まれながら字の勉強をし、給食を頂いてからお母さんとリリカちゃんと手を繋いで帰宅した。


 そして、レオナねえ・アイリスお姉ちゃん・ナナお姉ちゃん・タマねえと共に、南の森を越えていつもの場所にやって来ました!


 やっぱりこの場所が一番の穴場になっていて、何回来ても人と会うことが無いのです。でも一度でも人に見られると大変なことになるので、まずはレンクル達やスズメちゃんを飛ばして周囲の偵察から始めた。



 鳥達から『周囲に人影ナシ』との報告を受け、ボク達も行動を開始する。

 もちろんレンクル達の偵察任務はそのまま続行だ。



「ドラちゃん召喚!」



 ショタの目の前にドラゴンが出現するが、もうみんな慣れっこなのでイチイチ驚いたりはしません。



「ハム助、ゴンドラを出してくれ」


『チュウ!』



 何人も乗れるような結構大きいゴンドラなんだけど、ハム助はメメトンゼロ3体分の収納が出来るので、こうやって持ち運ぶことが可能なのです。


 ゴーレムを2体呼び出しゴンドラを持ち上げてもらいながら、ドラゴンの背中にいたレオナねえ達が首の後ろ側でベルト部分をパチンと接合した。


 ベルトといっても、この世界最強レベルの非常に頑丈な素材で作られているので、飛んでる最中にプツンと切れて落下するようなことはまず有り得ないらしい。


 どちらかというと接合部の金具の方が心配なんだけど、これもかなり頑丈に作ったって話なので、レオナねえ達を信じるしかないでしょう。自分の命がかかってるのに適当に作るわけないからね。



 その後三人がロープを使ってスルスルと地面に降りて来る。



「ドラちゃん、苦しくない?」


『ギュア!』


「今回は大丈夫だってさ!」

「よっしゃ!あとは飛んだ時にどうなるかだ」

「今度こそイケそうな気がするよ!」

「座ってる時と飛んでる時で首の形が変わっちゃうのは盲点だったよね~」



 そこなんだよね~!


 ドラゴンが立ったり歩いたり座ったりしている時って、よく見ると頭を持ち上げてる状態だったのですよ。


 でも飛ぶ時は首を真っ直ぐ伸ばす姿勢になるので、ドラゴンの首にゴンドラをくっ付けすぎてしまうと、正面を向いてたハズのフロントガラスが飛んだ瞬間真下になってしまい、搭乗者の寿命が10年縮むような地獄のアトラクションになることが判明したのです。


 しかし首にブラブラとぶら下がるリラックスタイプにすると、風にあおられて揺れまくり状態になるので、やはりこれも地獄のアトラクションとなります。


 なので今回はドラゴンの身体にくっつくタイプに戻したんだけど、前面の壁に天井向きにソファーを設置し、フロントガラスの位置をゴンドラの真上に変更した。


 ただこのゴンドラだと、ドラちゃん歩行形態の時に視界がゼロになるので、まだまだ改良する必要があるでしょうね。全然完成形ではないです。


 ちなみにこのゴンドラの形はかなり歪です。

 裏側をドラちゃんの首回りに合わせてるので、三日月形に近い感じかな?


 こんな形ですが、最大で10人まで乗れるようにしました。

 今は内緒にしてるけど、家族全員でドラゴン旅行をする可能性があるからね!


 魔物のスタンピード直後の張りつめた精神状態が徐々に失われてるので、軽い気持ちになってきているのはわかってるんだけど、やっぱり自分達だけ楽しむのもどうかと思うんだよね。


 ハム水情報が一切漏れないようなら、みんなを信じてもいいと思ってる。

 ただやっぱり国に狙われる可能性を考えると、慎重にならざるを得ないのです。



「出来るだけゆっくり低飛行で、この辺をくるくる回ってみてね!」


『ギュア!』



 ドラちゃんが空へ舞い上がった。


 そしてゆっくりと羽ばたきながら、ボク達のすぐ上空で飛び回る。



「すげー良い感じじゃね?」

「下から見る分には問題なさそうだよね!?」

「ゴンドラも揺れてないし、たぶん大成功だよ!!」

「すごく格好良い!!」



 そんな声を聞きながら、自分がアレに乗っている姿を想像していた。


 まだ実際に乗って試したことは無いんだけど、アレならおそらく人が乗っても大丈夫だと思う。


 あとはドラゴンが着地した時、中の人が転げ回らないように、ドラちゃんに気遣ってもらえばいいかな?


 召喚士は脳内で自分の召喚獣に語り掛けることが可能なので、ゴンドラの中に人が乗ってると想定して優しく着地するよう、ドラちゃんに指示を出した。



 バサバサバサッ!



 そしてドラちゃんが指示通りに優しく着地した。



「ドラちゃんお疲れ様!すごく良い着地だったよ!!」


『ギュア!』


「よし、これはイケるだろ!試しに乗ってみようぜ!!」

「たぶん大丈夫だと思うけど、もう夕方になるからちょっとだけだよ?」

「魔力の方は大丈夫なの?」

「それはまだ大丈夫。クーヤちゃんは日々パワーアップしてるのです!」

「短期間でどんどん魔力が増えていく謎生物ね!」

「だってクーヤだし」



 そんな能天気な会話をしながら、全員ゴンドラに乗り込んだ。



「舞い上がったらすぐ足場が横になっちまうから、最初から全員ソファーの壁の方にくっついとけ!じゃあみんな怪我しないようにな!」


「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」



 ドラちゃんが空に舞い上がった。


 そしてゆっくりと飛行形態に移行する。



「飛んでる!飛んでるぜーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「うわあ~~~~~~~~~~~~!これは感動だよ!!」

「みんな怪我はない?」

「タマねえが抱えててくれたから大丈夫!」

「すごい!本当にすごい!!」



 人に見られたらアウトなので、その辺をぐるぐる回るだけだったけど、こうしてテスト飛行は大成功に終わった。



 ただ『もっと安全にしたい』『視界をもう少し広げたい』『ソファーの位置と角度を変えたい』などの要望が出てきたので、今回成功したドラゴンにくっつくタイプのゴンドラを完璧に仕上げるのが、当面の目標となりました!


 その間に、満足な旅が出来るように十分な魔力を蓄えねばなりませんね!

 

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