第165話 策士策に溺れる
リビングに入った直後、部屋を埋め尽くすハムちゃんを見た社畜風お父さんが悲鳴をあげた。
「ハッ!?魔物のスタンピード!!」
そう言えば、スタンピードの噂を聞いたから急いで帰って来たって話でしたね。
「違いますよ~お父さん。これはクーヤちゃんの召喚獣なのよ~」
「・・・え?召喚獣だって!?」
「リリカちゃん、ちょっと邪魔くさいからハムちゃん消すよ?」
「うん、けしていいよーーー!」
リビングを埋め尽くしていたハムちゃんの大半を消した。
専属のハムちゃん達は、本人の承諾なしには消さないことにしているのです。
「おおっ!消えた!!」
メルドアと社畜風お父さんの目が合った。
「いや、消えてないどころか凄いのがいますよ!その隣にも!」
「メルドアちゃんとパンダちゃんは、ウチのペットなのよ~?」
「ペット!?いやいやいやいや!大き過ぎませんかーーーーーーーーー!?」
騒がしい社畜ですね。
早く慣れてほしいモノです。
とにかく驚きの連続で、そのたびにお母さんが解説し、30分ほどが経過した。
「いや~~~、少し見ない間に家の中が変わり過ぎですよ!」
「でもすごく便利なのよ~?」
「便利・・・、ですか?」
お母さんが洗面所から掃除機を持って来て、電源スイッチをONした。
ブォーーーーーーン!
「うわっ、凄い音が!!何ですかこれは!?」
「床のゴミを吸い取ってくれるの~!」
お母さんが掃除機の先端部分を外して社畜の腕に当てると、着ているスーツが少し吸い込まれた。
「わわわわっ!本当だ、吸い込まれてる!!こんな魔道具があったとは・・・」
「魔道具じゃないわよ~?これは召喚獣で~す!」
「まったく意味が分かりません!!」
結局いつまで経ってもこんな調子で、気付いた時には夕方になっていた。
◇
ガチャッ
「ただいまーーー!・・・あれ?お父さんがいる!!」
帰宅したティアナ姉ちゃんの声を聞き、リリカちゃんがプレイするモンキーコングを見ていた社畜風お父さんがドアの方に顔を向けた。
「おお、ティアナおかえり!怪我は無かったかい?」
「怪我??あーーー、魔物のスタンピードの話ね!?貴族街は滅茶苦茶だけど、西区はほとんど被害が無かったんだ!ウチの家族はみんな元気だよ!」
「そうか!本当に良かった!!」
鞄を床に置き、ティアナ姉ちゃんがこっちに歩いて来た。
「魔物のスタンピードの噂を聞いたから慌てて帰って来たんだけど、ラビリスの街からここまではかなり遠くてね。しかもオルガライド行きの馬車だけが無いんだよ!」
あぁ、そっか!
魔物にガンガン攻撃されている街に向かう馬車なんてあるわけがない。
「馬車屋さんだって死にたくないもんね。それはしょうがないよ!」
「それで歩いて帰って来たから遅くなってしまったんだ。ごめんな」
「え?歩いて!?全然謝る必要なんか無い!みんな無事だったんだし、気にするのはもうやめよ?」
「・・・そうか、うん、そうだね!もう考えるのはやめよう」
どれほどの距離を歩いたのか知らないけど、大変だったろうに・・・。
うん、ドラゴンのことだけは話せませんね!
「じゃあ足がパンパンだよね?お風呂で回復しなきゃ!」
「お風呂??」
急いで風呂場に向かい、ハムちゃんコンビに女神の湯を沸かしてもらった。
「僕は一番最後でよかったんだけど・・・」
「我慢しちゃ駄目です!リリカちゃんも一緒にお風呂行くわよ~!」
「おふろーーーーーーーーーー!!」
お母さんに腕を引かれたまま、社畜風お父さんは風呂場へと連れて行かれた。
「・・・・・・・・・・・・」
お母さんと一緒にお風呂ですとーーー!?なんてけしからん社畜だ!!
いや、夫婦だからそれが普通なのかもしれないけど、やっぱり許せん!!
「ただいまー!あの男性用の靴って誰のかしら?」
お?クリスお姉ちゃんのご帰宅だ。
「お父さんが帰って来たんだよ!今お風呂に入ったところ!」
「え!?お父さんが帰って来たの!?」
あっ、そうだ!このささくれた心を癒すには、クリスお姉ちゃんのおっぱい洗いしか無いじゃないか!コーヒーの用意をして、ご機嫌取りしよう!
―――しかし『策士策に溺れる』ということわざを、身を以って知ることとなる。
直後に帰宅したレオナねえにコーヒーを一気飲みされた後、無理矢理お風呂に連行され、全身ゴシゴシ洗いの刑に処されたのだった・・・。
◇
「全身血まみれになってない?」
「赤くなってるけど、血は出てないみたいだよ」
「いやいや、血が出るほど強くは擦ってねえよ!!」
とまあこっちの凄惨な話は置いといて、女神の湯を体験した社畜も興奮していた。
「あのお風呂は何なんだい!?疲れが全部吹き飛んだよ!!」
「気持ち良かったでしょ~?でもここだけの秘密ですよ~」
「今から説明するけど絶対に秘密にしてね?戦争になるかもしれないから」
「せ、戦争!?」
一通り説明を受けた後、社畜風お父さんが絶対に口外しないことを誓った。
「これは本当に凄いことだけど、確かに危険でもありますね。情報を漏らさなかったのは素晴らしい判断です!」
「なあ親父、いつまで家に居られるんだ?」
「それがですねえ・・・、仕事を放り出して来たものですから、明日にでも戻らなきゃいけないんだよ」
「ええええええええーーーーーーーーーーーー!!」
うっわ、社畜の鑑ですね!
「明日行っちゃうの!?少しくらいゆっくりしようよ!」
「そうもいかないんだよ・・・」
「でもまだ隣町まで行く馬車が無いよな?」
「歩くしか無いだろうね」
「アタシが隣街まで送ってってやるよ。クーヤ、シャンクルをもう1体借してもらっていいか?」
「もちろんいいよ!」
「シャンクルというのは?」
「角が生えた馬って感じの魔物だ。クーヤの召喚獣だから安全だぜ!」
「召喚獣・・・、召喚士ってのは不遇職じゃなかったのかい?」
「一応不遇職ってことにはなってるけど、クーヤはちょっと頭がおかしいんだ!」
「酷いこといいますね!!」
そんなわけで、社畜風お父さんは風のように去ってしまうらしい。
せめて健康でいられるように、水筒にハム
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