第105話 爆弾が投下される
「何であたしまでクビになるのよ!!」
赤い髪の女の魂の叫びが休憩所に響き渡った。
「ランが大きな声で『なにすんじゃこのハゲ!ぶち殺すわよ!!』って言ったせいだと思うけど?」
「お尻を触られたのよ!?誰だって怒るでしょ!!」
「店長の頭を思い浮かべてみようか?」
そういやあの店長もハゲてたな。
ツルピカまではいかんけど、頭のテッペンまでハゲあがっていた。
「ハゲね・・・」
「ランは世界に存在する数千万のハゲに宣戦布告をしたのよ」
「いや、ハゲ多すぎでしょ!!」
「にゃはははははははは!ランにゃんは口が悪すぎるにゃ!」
「でもアンタが暴れてなきゃ、たぶんクビになんかなってないわよ!!」
まあ完全にぺち子姉ちゃんの巻き添えをくらった形ですよね。
「次の仕事はどうすんのさ?」
「しょうがないから探すわよ。もっと楽なとこ」
「頑張れにゃ~」
「いやアンタも無職になったでしょうが!」
「ハッ!?そうだったにゃ!!」
ん?もしかしてこれって絶好のチャンスじゃない!?
あの赤い髪の女って、裏ではこんなだけど接客自体は完璧だった。
孤児院の子供達に指導することくらいなら出来る気がするぞ。
つーか理想の人材が見つかる保証なんて無いんだ。
完璧超人を探すんじゃなくて今は妥協してでも即時即決だろ!
ぺち子姉ちゃんはいらんけど。
「待ちなさい、お嬢さん」
休憩所の入り口からこっそり中を覗いていたショタが、髭を生やした紳士風の佇まいで慈愛のオーラを発しながら颯爽と現れた。
当然ながら女性達全員の視線が突き刺さる。
紳士風の登場にして正解だった。
「え?なんか可愛い子がいる!」
「あっ!この子さっきも見たよ!!」
「ししょーにゃ!!にゃんでココにいるにゃ!?」
ぺち子姉ちゃんのその一言で、赤い髪の女が何かに気が付いた様子。
「乙女のお尻を触っても許されるししょーってのは、この可愛い子のことなの?」
休憩所に冷たい風が吹いた。
「毎日お風呂で触られてるにゃ。でも最近はそれが気持ち良くなって来たにゃ」
「「・・・・・・・・・・・・」」
空気が凍りついた。
「待て待てーーーーーーーーい!その言い方だと完全に誤解されるから!!お風呂嫌いのぺち子姉ちゃんを丸洗いしてるだけでしょうが!!」
このバカ猫、爆弾を投下すんじゃねえ!一瞬で変態紳士になったじゃねえか!!
「ししょーはもう一人いるにゃが、どっちも指使いが上手くて毎日天国にゃ~!」
「可愛い少年二人に気持ち良くしてもらえるですって!?」
「ちょ、ちょっと、それどんなお店なのさ!?私も行きたいんですけど!!」
「もう一人ってのは女の子ですから!!何個も爆弾投下するのマジでやめて!!」
◇
それから数分間必死に弁明し、なんとか皆の誤解を解くことが出来た。
ぺち子姉ちゃんが余計なことを言ったせいで、変態ショタになるとこだったよ!
「ぺち子姉ちゃんのせいで滅茶苦茶話が逸れちゃったけど、『あの子はこの街一番の紳士ね!』と近所の奥様方に噂されるほどのボクがなぜ登場したのかというと、ココをクビになった赤い髪のお姉ちゃんに仕事を紹介しようと思ったからなのです!」
「仕事の紹介?」
「なんでこの子は紳士に拘ってるんだろ?」
「背伸び背伸び~」
えーい、ガヤは黙っておれ。
「一応聞くけど、どんな仕事なのさ?」
お、ようやく本人が食いついた!
「馬車を売る仕事だよ!たぶん貴族とかにも売ったりするから、接客の出来るお姉ちゃんなら大丈夫かな?って思ったの」
「馬車かーーー!!ちょっと面白そうではあるわね」
「へーーーーーー!本当に面白そうだね!」
「ランがやらないのなら私がやってもいいわよ?」
え?違うお姉さんが転職希望ですと!?
接客の実力は見ていないけど、別にそっちのお姉ちゃんでも構わんですぞ!
「あっそれとね、新人さんに接客の教育もするの!えーと、それくらいかな?」
「新人教育ならどこでも普通にあるわね。それにしても馬車か~~~」
「ししょーーーーー!!たった今仕事をクビににゃったばかりの接客の達人がここにもいるにゃよ!」
えーーー?ぺち子姉ちゃんが接客の達人??
もし言ってることが正しくとも、大暴れした現場を見たばかりで不安しかないぞ!
「ペチコの接客って独特過ぎてダメじゃない?それに貴族相手にまたやらかしたら、今度はクビくらいじゃ済まないよ?」
「牢屋行き確定ね」
「にゃっ!?牢屋は嫌にゃーーーーーーーーーー!!」
牢屋ならまだマシだろう。貴族の権力ってたぶん絶対だから、普通に無礼討ちされる可能性だってある。
いや、ぺち子姉ちゃんも強いから、返り討ちにして指名手配か・・・。
やっぱ彼女に接客を任せるのは危険過ぎる。
「すぐには決められないわね。とりあえず職場を見せてほしいんだけど、馬車屋なんてどこにあるの?」
「えーとねえ、まだ馬車屋さんじゃないの。今は普通の鍛冶屋さん」
「鍛冶屋だったの!?」
「西区にある『ベイダー工房』っていう鍛冶屋さんだよ!でももう少ししたら馬車をいっぱい売ることになってるから、今色々と準備してるところなの」
隠さなきゃいけないのはサスペンションの存在だけなので、これから馬車を売ろうとしてるってのは話しても問題無い。
というかこれを隠したまま話を進めるのとか無理だし。
「あ、そこ知ってる!ウチの近くだ!」
「そういえばランって西区から通ってるんだったね」
「家から近いのなら最高じゃない!」
「えーと、見に行くのはいつがいいの?」
「いつでもいいわよ。どうせ無職ですし?」
「ウチも無職にゃ!一緒に面接に行くにゃ!」
「エーーーーー!?ぺち子姉ちゃんも来ちゃうの?二人も雇えるのかなあ・・・」
ベイダーさんに、あんまりお金は出せないって言われてるんだよな~。
それにぺち子姉ちゃんの接客には不安しかない。
ウーーーム、護衛的な何かで雇えないか、そっちの方向で交渉してみるか・・・。
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