第96話 ベイダーさんと直接交渉

 院長先生を連れての長距離移動なんだけど、折角上手く行きそうなのに自分らの変な行動で話がおじゃんになっては全てが台無しなので、今日は召喚獣が使えない。


 というか40代くらいの女性を魔物に乗せるのもどうかと思いますし。


 そういう理由から普通に歩いて行くしかなくて、いつもより時間がかかってしまったけど、何とか三人は無事ベイダー工房へ到着した。



「おーーーーーーーい!!ベイダーさ~~~ん!客だぞーーーーーーーーー!!」

「客だぞーーーーーーーーーーーーー」



 いつもライガーさんがやっているように、ベイダーさんを大声で呼び寄せる。



「おい!可愛らしい声だからそうだとは思ったが、やっぱりクーヤだったか!そんなとこまでライガーの真似をしなくていい!」

「あははははは!でも大声で呼ばないと気付かないでしょ?」

「まあそうなんだが・・・。それでこちらの女性二人は?」

「えーとね、まずこっちの女の子はボクの友達のタマねえ!」

「よろしく」

「ああ、よろしくな!」


 あ~、どう話を切り出せばいいんだろ?・・・まあ適当でいいや。


「でね、こっちの女の人は孤児院の院長先生!」

「初めまして。孤児院の院長をさせていただいておりますセラフィと申します」

「はあ?孤児院の先生!?あ、ああ、よろしく!しかしなんで院長先生が?」

「ちょっと説明に時間がかかるから、中に入っていい?」

「構わんぞ。じゃあ儂について来てくれ」



 前に来た時にパンダちゃんの絵を描いていた事務所っぽい部屋に移動した。



「じゃあ最初から説明するね!この前来た時にベイダーさんは、職人が集まらなくて困ってるって言ってたでしょ?」

「ああ、言ったな」

「それで、即戦力にはならないけど、若者を何人も雇って育てる案も出たよね?」

「それも話し合ったな」

「しかし嘆かわしいことに、西区には生活用品を作りたい子供なんかいませんでした。ベイダーさんの当てが完全に外れたわけです」


 口をへの字にしながらベイダーさんが一つ頷いた。


「でも実は西区にはいないってだけなのです!仕事をしたくても出来なくて困っている人ならば、貧民街スラムにいっぱいいるのです!」


 ベイダーさんがハッとした顔になった。


「ただ残念ながら貧民街スラムには悪い人もいっぱいいるので、適当に人を集めるわけにはいきません。でもボクは考えました!孤児院の子供達ならば、みんな綺麗な心をしているから真面目に頑張ってくれるんじゃないかなって!」


 それを聞いた院長先生が涙を零した。

 やはり子供達の未来をずっと案じていたんだろね・・・。


「あとね、この仕事には孤児院の未来がかかってるから、ベイダーさんが困ることは絶対しないと思うの」


 またもやベイダーさんがハッとした顔になった。


「そこまで考えての孤児院か!なんという子供だ・・・」



 今の言葉に隠された深い意味まで察してくれたみたいだな。


 まあ簡単に説明すると、孤児院を盾に取っているようなもんだから馬車の情報を漏らすことは無いだろうって伝えたかったんだけど、院長先生が隣で聞いてるので、この場じゃ大っぴらに話せないのです。



「院長先生、すぐにでも働けそうな子供は何人くらいだ?」

「もう一度本人にちゃんと確認しなければいけませんけど、10歳以上の子は女の子も入れると8人います。一番上の子で13歳です」


 なるほど。小学校を卒業したくらいの年齢でボチボチ働きに出る感じか。

 いつまでも孤児院で食わせている余裕なんか無いだろうしな・・・。


「ふむ。その人数ならば全員雇うことも可能だ。ただし最初のうちは見習いとして扱うから大した給料は出せんぞ?」

「詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」



 そしてベイダーさんと院長先生の話し合いは1時間程続いた。

 すごく大事な話だから、むしろ早く終わったくらいだろう。


 ただ暇を持て余したタマねえがショタをぺろぺろし始めたので、話の重要な部分をかなり聞き逃してしまった。


 なんでタマねえにまでぺろぺろ癖が感染してんのさ!?



「ところでクーヤ」


 タマねえのぺろぺろでノックアウト寸前だったクーヤちゃんに、ベイダーさんの救いの手が!


「あい?」

「何で貧民街スラムなんか知ってんだ?」


 くッ、救いの手なんかじゃねえ!これは疑いの手だ!!

 ・・・いや、疑いの手って何だよ!?


「えーと~、ボクはぜんっっっぜん貧民街スラムなんて知らないんだけど、タマねえの知り合いが貧民街スラムに住んでるみたいなの」

「そう。貧民街スラムの知り合いに孤児院のことを聞いてたから、クーヤに教えてあげた」

「ああ、その子の知り合いからの情報だったのか。なるほどな・・・」


 ふ~~~、なんとか誤魔化せたみたいだ。


「でも貧民街スラムで遊ぶのは程々にしとけよ?この院長先生みたいな善人もいるが、あそこには人を攫うような悪者だっているんだ」


 知ってます。

 っていうか、廃墟にいた所を誘拐されて牢屋に入れられたこともあります!


「うん!気を付ける!!」

「返事だけは良いんだよな~」

「本当に大丈夫なの!めっちゃ強い知り合いが護衛してくれてるから!」

「強い護衛?レオナ達か?」


 いえ、ゾウとかライオンです。

 それにいざとなったらゴーレムを大量召喚するんで余裕っス。


「うん!レオナねえ以外にも強い人が何人かいるから、ホント大丈夫なの!」

「・・・そうか。まあそれでも絶対油断はするなよ?」

「あい!」



 とりあえずベイダーさんの疑いは、何とか強引に誤魔化すことができました!


 ただ孤児院の子供達の安全も確保しなきゃなんで、これからは孤児院との繋がりもどんどんアピールしていく必要がありますね~。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る