第95話 仕事の斡旋(大演説)

 女性が奥のドアを開けると、薄汚れてはいるけどとても大きな部屋があり、何人もの子供達が走り回っているのが見えた。


 ボクとタマねえは大広間の奥に案内され、ベンチみたいな長い椅子に座った。


 そして早速、歩きながら包装紙を外して中身だけとなっていた無限ハンバーガーにかぶりついてみせる。


 まあ簡単に説明すると毒見です。

 知らん人にもらった食べ物なんて普通は怖いからね。


「うんま~~~~~~~~~~~!!」


 ショタの幸せそうな表情を見て、女性が笑顔になる。


「その鞄の中に入ってるのは全部これと同じやつだよ!30個あるの!」

「そんなにいっぱい!?でも見ず知らずの私達が頂いちゃっていいのかしら?」

「もちろんただ御馳走を持って遊びに来たわけじゃないよ!『話を聞いてもらうのだから、まず手土産を渡すのは当然だ!』って父さんが言ってたの」

「あらあら!立派なお父さんなのね~」


 ただ施しを受けるなんて気味が悪いだろうからね。


 あ、でも食べてしまった後だと脅しみたいになっちゃうのかな?『お前ら食ったじゃねえか!』みたいな・・・。それはちょっと不本意だぞ。


「でも話を聞かないと食べる気になんてならないだろうから、食べるのは最初にちょっと話をしてからでいい?」

「まあ!なんて賢い子なのかしら・・・。わかったわ」


 目の前の40代と思われる女性が、大部屋の奥の方にいた若い女性に呼び掛けた。


「アンナ先生、子供達をみんな集めてくださる?」


「は~~~い!さあさあみんな、院長先生がお呼びよ!」


 アンナ先生と呼ばれた20歳くらいと思われる女性が子供達に声を掛けながら、奥の部屋へと入って行った。


 広間に子供達がどんどん集まって来て、どんどん騒がしくなっていく。



 程なくして全員が集合した。



「じゃあ話を始めるね!今日ボクがここに来たのはね~、お仕事の紹介なの!」

「お仕事!?」

「知り合いの鍛冶屋さんがお弟子さんをいっぱい募集してるんだ!場所は貧民街スラムじゃなくて街の西区にある普通の鍛冶屋さんだから、怪しい仕事とかそういうのじゃないよ!本当に普通の鍛冶屋さんなの!」

「まあ!」


 子供達はよく分かってないみたいだけど、先生達の目が輝き出した。


「なんで貧民街スラムで募集するのかって思うでしょ?でもちゃんとした理由があるんだ!」

「私もそこがとても気になるわ!」


 アンナ先生と呼ばれた20歳くらいの女性が、ショタの話に食いついた。


「鍛冶屋で働きたい子供達って、みんなどんな夢を持ってると思う?」

「夢?・・・えーと、強い剣を作るとか?」

「それ!!」


 アンナ先生がビクッとした。


「鍛冶屋さんが募集してるのは未来ある子供達なんだけど、育てたいお弟子さんってのは生活用品を作る人なの。でも学校に通ってる子供達が作りたいのは剣と鎧なの」


 ちょっとややこしい内容なので、少し考える間を与える。


「だから西区では生活用品を作るお弟子さんを募集しても全然集まらないんだ。そこでボクは考えました!孤児院になら、『生活用品を作る鍛冶屋さんになってもいいよ!』って言うような優しい子供もいるんじゃないかなって!」



 大演説が一区切りし、額に浮いた汗をタマねえに拭いてもらう。



 少し間を置いて、ショタの話を理解した頭の良い少年が立ち上がった。



「僕、お弟子さんになる!そして働いた給料で、孤児院のみんなに美味いもんを腹いっぱい食わせてやるんだ!」



 少年の決意を聞いた先生方の目が潤んだ。

 そしてその熱は子供達にどんどん広がって行き、大合唱が始まる。



「ボクもなる!!」

「わたしもなるー!!」

「え?みんな鍛冶屋さんになるの?じゃあぼくも!!」


「ボクも!」「わたしも!」「僕だって!」



 キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


 作戦の成功を確信してタマねえの方へ振り向くと、基本無表情の彼女がめずらしく微笑んでくれた。いや、チョコを齧ってる時は大抵ニコニコしてるか。



「あの~、一つ聞いていいかしら?」

「二つでも三つでもどうぞ」


 院長先生からの質問だ。


「お給料はいくら貰えるのでしょうか?」


 なるほど。めっちゃ重要なポイントですね。


「良い質問です!でも残念ながらボクは鍛冶屋さんじゃないのでハッキリいくらって言えないのです。そこでまずは先生のどちらかを鍛冶屋さんに連れて行って、本人から直接話を聞いてもらおうと思ってました!」


 院長先生が一つ頷いた。


「わかりました。では私が行きますので、そこまで案内して下さいますか?」

「あいあいさー!!でもその前にみんなでハンバーガーを食べようよ!」

「ハンバーガー、ですか?」

「ボクとタマねえが持って来た食べ物だよ!あれメチャクチャ美味しいんだ!」

「あ~~~、そうでした!じゃあ早速ご馳走になりましょうか!!」



 院長先生とアンナ先生が、手提げ鞄からハンバーガーを取り出し、子供達全員に手渡していった。


 お行儀良く育てられているようで、誰一人勝手に食べようとはしなかった。



「このお食事はこちらの・・・、あっ!ごめんなさい。まだお二人の名前を聞いてなかったわ!」


「クーヤだよ!」

「タマ」


「この美味しそうなパンは、こちらのクーヤちゃんとタマちゃんからの贈り物なのです!お二人に感謝の気持ちを込めてご馳走になりましょう!いただきます!」


「「いただきまーーーーーーーす!!」」



 そしてハンバーガーを口にした全員の顔が笑顔になった。



「うおおおおおおおおおおお!うっまーーーーーーーーーーーーーー!!」

「おっきいお肉が入ってるーーーーーーーーーーーーー!!」

「うわ~~~~~~~!すごいすごーーーーーい!おいしーーーーーーー!」


 当然ながら子供達は大絶賛だ。

 ハンバーガーが嫌いな子供なんていません!!


 そして院長先生とアンナ先生も、ハンバーガーという初めての食べ物に感動して指先が震えていた。


「なんて美味しいの!!」

「お肉がふわふわなのです!!こんな美味しい料理があったなんて・・・」



 裕福な暮らしをしている我が家のみんなも感動してたくらいだからね~。


 常に質素な生活をしている孤児院ならば、我が家とは比じゃないレベルの感動なのかもしれない。この世界で初めて食べた串焼き肉を思い出しますよ!


 あ、ちなみに余ったハンバーガーを返そうとしてきたけどそれは断った。半端な残り方だから争奪戦になってしまうかもだけど、そこは先生達で何とかしてね!

 

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