第72話 災害の悪魔は生きていた

 

 ―――――昼間から酒浸りの、悪そうなお兄さん視点―――――



「あのガキ共って結局何だったんだよ?」



 ガドの脳足りんが、忘れたい話を振ってきた。


 もちろん『ガド』ってのは偽名で、本当の名前は知らん。

 だが俺の名前はうっかりバレてしまっているから正直ムカツク。



「その話をすんじゃねえ!酒が不味くなる」

「あ?お前の知り合いだろうが!!」

「言うほど知り合いじゃねえよ。たまたま運悪く絡んじまったってだけだ。まあでも5日ほど見てねえし、しばらく此処には来ねえかもな」

「そういや、南の森に行ったんじゃなかったか?」

「森より更に南にある岩場の方な。しかし遊んで来ると言っていただけだから、すぐ向かったとも限らん。いや、魔物を捕まえて来るとも言っていたか・・・」

「案外もうとっくにくたばってたりしてな!カッカッカッカッカ!」



 あのガキ共が魔物にやられる?


 ・・・いや、メルドアジェンダを単独撃破するようなクレイジーなガキだぞ?それにイーデミトラスを壊滅させたくらいだから、集団戦闘も得意とするハズだ。


 嫌な予感がするぜ・・・。

 今頃、岩場を血の海にしてるんじゃねえのか?



 ―――気分が悪くなったので酒場を出た。




 相変わらず辛気臭い街の中を歩いていると、貧民街スラムの住人たちが何やら大騒ぎしていた。



 また、殺人でもあったのか?




「魔物だーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「やべえ、逃げるぞ!」

「ちょっと待った。子供が乗ってないか?」

「うわ・・・、『黄色と黒』だ!」

「お、おい、テメーら!絶対目を合わせるなよ!?」



「・・・・・・・・・・・・」



 出やがった・・・。

 ガドの野郎が噂なんかするからだ!!


 しかも乗ってる魔物はメルドアジェンダじゃねえな・・・。


 黄色が乗ってるのはグルーディノか?

 黒い方が乗ってるのはシェイピメラスかよ。


 間違いねえ、アイツら岩場まで行きやがったな・・・。

 ってヤベーぞ!このままじゃ見つかっちまう。群衆に紛れねえと!!




 ―――――黄色いガキと目が合った。






 ************************************************************




 ―――――黒豹に乗って秘密基地へと向かうクーヤちゃん視点―――――




「あっ!悪そうなお兄さん発見!!」

「どこ?」

「ホラあそこ!!」


 左前方を指差した。

 人混みに溶け込んでようが、このつぶらな瞳は獲物を見逃しませんぞ!



「悪そうなお兄さ~~~ん!隠れようったってそうはいきませんぞーーーー!」



 召喚獣に乗ったまま、タマねえと一緒に人混みの中に突っ込んで行く。


 当然ながら、モーゼの十戒で海が割れるシーンように人が避けて道が開けた。



「くそッ、見つかったか!!」


「悪そうなお兄さんに見せたいモノがあるの!」


 悪そうなお兄さんの側まで来た。


「いや、もう丸見えじゃねえか!!しかし、グルーディノにシェイピメラスまで倒すとはな・・・。つーか、シェイピメラスに乗ってる奴なんて初めて見たぞ。気持ち悪くねえか?」

「サソリのこと?かわいい。チョコ食べる?」


 タマねえが、話の脈絡もなく食べかけのチョコを差し出した。


「なんだこりゃ?」

「甘くて美味しい。食べてみればわかる」

「いやタマねえ、それ食べかけじゃん!食べ切っちゃいなよ、新しいの出すから」

「一理ある」


 タマねえが一気にチョコを食べ切ったので、一旦消し、新しいチョコを出して悪そうなお兄さんに渡した。


「口の中から味が無くなった。また食べなきゃ」

「悪そうなお兄さんが食べてからね!」

「じゃあ早く食べて」

「いや、ちょっと待て!これは食い物なのか!?」


 話について行けず、悪そうなお兄さんはたじろいでいる。


「ああ、外側の紙は食べられないよ?ちょっと貸して」


 パッケージをビリビリに破いてから中身だけ返した。


「真っ黒じゃねえか!毒とか入ってねえだろうな!?」

「タマねえが食べてたの見たっしょ?」

「食べ終わるの待ってるんだから早く食べて!」

「くっ!俺の命もここまでか・・・」


 意を決した悪そうなお兄さんが、板チョコにかぶりついた。


「めちゃくちゃ甘い・・・。なんだこりゃあ!?」

「チョコレートってお菓子だよ!甘くて美味しいでしょ?」

「正直、クッソ美味い。こんな物どこで買った??」

「どこにも売ってないよ」

「じゃあ今食ってるコレは何なんだよ!?」

「召喚獣」

「はあ!?」


 悪そうなお兄さんは食べかけの板チョコを落としそうになったが、慌ててキャッチして事なきを得た。


 そういえば落としても3秒以内に拾えば、『3秒ルール』があるから食べても大丈夫ってのがあったな。

 たとえ砂だらけになってても大丈夫なのだ。何が大丈夫なのかは知らんけど。


 結局悪そうなお兄さんはショタの戯言を無視することに決めたようで、残りの板チョコも全部食べ切った。


「そうそう!見せたいモノがあるの!秘密基地まで一緒に来て」

「秘密基地だぁ?見せたいモノってのは、その召喚獣じゃねえのか」

「あそこなら人がいない」

「人がいちゃ拙いモノなのかよ!!」

「ん-ーー、たぶん大騒ぎになると思う」

「見たくねええええええええええええええええええ!!」

「夕食までに帰らなきゃいけないんだから、ほら急いで!」


悪そうなお兄さんの手を引っ張った。


「知らねーよ!!イチイチ俺を巻き込むんじゃねえ!!」

「クーヤ、チョコ食べたい」

「まだ10分経ってないよ。秘密基地に着いてから!」

「じゃあ急がないと!もっとシャキシャキ歩く!」

「があああああ、うっぜーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 悪そうなお兄さんは最後まで往生際が悪かったけど、結局秘密基地にドナドナされて行きましたとさ。

 

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