第16話 カブトムシ

 朝起きて召喚して気絶し、目が覚めたら街へ繰り出しガールハントに勤しみ、その後は言葉のお勉強。


 これを1週間も繰り返すと、この世界の言葉が少しずつ分かって来た。

 まあそれでも会話をするにはまだまだ全然なので、もうしばらくの我慢だ。


 どちらかというと、現在問題なのは召喚の方かもしれない。


 電子レンジ・あひるポンチョ・リコーダー・ファミファミ・ドライヤー・鉄板・バール。

 その後、扇風機とトースターが出るという電化製品パターンに戻ってしまった。


 部屋の中が現代日本風になるのはいいんだけど、どれもこれも動かないから正直部屋が狭くなっただけなんですよね。


 いい加減、使える物が出て欲しい・・・。



 ヴォン!



 召喚の光りが消えると、そこには包丁が出現していた。


「おおおおおーーー!当たりキターーーーー!!」


 久しぶりの実用的なアイテムに感動しながら手に取った。


 刃渡りは20㎝くらい。魚を3枚におろしたりするのに使うヤツかな?

 職人じゃないから良くわかんないけど、銘が刻まれてるので、たぶんこれって何万円もする包丁だと思う。『鋼扇屋』と刻まれてるっぽいけど読み方はわからん。


 いや~、なんかスゲーの手に入れちまったぞ!

 誰の持ち物かは知らんけど、包丁を無くしてしまった職人さんごめんよ~!



 ようやく待望の武器ゲットですよ!


 剣とか槍なんかを手に入れてもショタじゃ扱えないだろうけど、包丁の重さなら全然問題無い。

 こんなのを持って歩くのも物騒なショタだと思うけど、大人の庇護下に無い以上、何か防衛手段がないとやっぱ怖いんだよね。


 それに刃物があれば、自分で料理とか出来るのが大きい。

 今度は火をどうするかで悩むことになるだろうけど、とりあえず一歩前進だ!



 そしていつものように気絶し、今日も食料を求めて街へ出発した。




 ◇




「たっだいま~!」



 今日は最初に串焼き肉を奢ってくれたお姉さん二人を発見し、謎のジャンクフードとワッフルのようなお菓子を御馳走になった。


 この二人に奢ってもらうと膝の上に抱えられての食事となるから少し大変なんだけど、後頭部に当たるおっぱいが気持ち良いので幸せ度は有頂天なのだ。


 その際、名前を聞かれたような気がしたので自分を指差して『クーヤ!』と言ったら、お姉さん達の名前も教えてもらった。


 赤い髪のお姉さんは『アイリス』という名前で、青い髪のお姉さんは『ナナ』という名前で間違いないとは思うんだけど、青い髪のお姉さんに『ナナ%ス#~<』って感じで教えられたので、『ナナ%ス#~<』と呼んだら、目をキラキラさせながらギューッと抱きしめられた。


 その後、赤い髪のお姉さんにも再度『アイリス%ス#~<!』と教えられたのでそう呼んだら、同じような反応をした直後にギューッと抱きしめられたんだけど、おそらく『ナナお姉ちゃん』って感じで教わったんだと思う。


 こういう細かい所も覚えていく必要があるので、なかなか大変である。


 まあその流れで二人のお姉さんと一緒に言葉の勉強をしたんだけど、おふざけが入ってる感じなので、今日のお勉強会は正直無意味だったかもしれん・・・。


 真面目に勉強しててもオネエ言葉とかにされてたら最悪なので、これは本当に注意しなければなるまいよ。



 ガチャッ



 寝室のドアを開けた時、前に召喚した鉄板に何かがくっついてるのが見えた。



「なんだ?」



 普段はベッドの方にいるから鉄板の裏なんて見えないんだけど、ドアの位置的に寝室に入る時だけ鉄板の裏側が見えるのだ。

 その鉄板の裏側に、何やら黒い物がくっついている。


 バタン


 ドアを閉めて、近くに寄ってみた。



「・・・・・・虫??」



 恐る恐る更に近くまで顔を近づけてみると、鉄板に虫がくっついてるのではなく、突き刺さってることが判明した。しかも5匹も!


「うわ、なんでこんな所に刺さって・・・、はあ!?これ鉄板だぞ!!」


 厚さ3センチもある鉄板に突き刺さるとか、この世界の虫はどうなってやがる!?

 ってかコイツ、一体どんな虫なんだよ??


 どんだけ硬いのか気になって一番手前の虫を触ってみると、ポテッと下に落ちた。


 ツンツンしてみたけど動かないので、思い切って、落ちた1匹を摘まんで明るい場所まで移動させた。



「カブトムシじゃん!」



 でも死んでるな・・・。一体いつから刺さってたんだろ?


 よく覚えてないけど、たぶん昨日帰って来た時はこんなの刺さってなかったと思うんだよね。今日出掛けている間に刺さったのかなあ?


 そんな短時間の間に虫って死ぬの?

 ああ、鉄板に突き刺さった衝撃で死んだ可能性もあるのか・・・。


 とりあえず死んだカブトムシだということが判明したので、死骸を摘まんでさっきの現場へと戻って来た。



 ・・・しかし1匹ならまだしも、なんで5匹??



 なんとなく反対側の壁を見たら、五つの穴が開いていた。



「・・・・・・・・・・・・」



 俺はこれと同じ五つの穴をどこかで見たことがある。



 ―――名探偵ショタの感が冴え渡り、それを一瞬で理解した。



「お前が・・・、お前らが狙撃犯だったのか!!」



 間違いねえ。大広間で見た五つの穴と間隔も一緒だ。

 ショットガンだと思ってたのに、まさかのカブトムシだったとはな・・・。


 しかし厚さ3センチの鉄板を凹ませるって、お前らどんだけだよ!

 そりゃ家の壁くらい余裕で貫通するわ。


 だが俺の寝室に飛び込んだのが運の尽きだったな!!

 こうなることを想定して、予め厚さ3センチの鉄板を召喚しておいたのだから。


 ・・・んなわけねえだろ!超ラッキーだわ!邪魔くせえだけだったのに、防弾ガラスみたいな使い方をすることになるとは俺も驚きですよ。


 キミ達のパワーならば鉄の鎧くらい貫通したかもしれんけど、3センチの壁は厚かったみたいですな!ショタなめんな!


 ん?待てよ・・・?

 狙撃犯が死んだってことは、もう大広間行っても大丈夫なんじゃね?



 ダンダンッ



 そう考えたと同時に、どこかの部屋が狙撃された音が聞こえて来た。



 ・・・うん。カブトムシなんてうじゃうじゃいるよね!

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