第2話 このルーレット、やばいぞ!?

 

「よーし!まずは山田健次、お前からだ!前に出ろ」


「は?俺からだと!?先頭バッターかよ!!」



 さっき質問していた、ガラの悪そうな50歳くらいのおっさんだ。

 神様に生意気な口利いてたから、人柱にされたみたいだな。


 文句を垂れ流しながらおっさんが前へ歩いて行く。



「そこで止まれ!」


 おっさんが立ち止まる。


「その場で左側を見ていろ」


 パチン


 管理者のファンキーな男が指を鳴らすと、何も無い左側の空間に大きなルーレットが出現した。


「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」


 なんだこりゃ!?このサングラスの男って、マジで神様じゃねえか!!

 絶対に逆らっちゃダメなやつだ。



 ルーレットはテレビなんかで見るチンケな物とは違い、かなりゴージャスな作りだ。


 ただマス目の一つ一つが細すぎて、ルーレット自体はデカいのに、中に書いてある文字が読みにくい。カタカナがいっぱい書いてあるのはわかるんだけど・・・。



「まずは世界ルーレットだ!ここで当たった世界に転生することになるから、かなり重要だぞ!まあ全部重要なんだけどな!ああ、お前らのいた世界も本来は別の名前なんだが、『地球』って表記で入ってるから探してみろ!」


 一つだけ漢字ならばすぐわかると思って探してみると、『地球』と書いてあるマス目が見つかった。そういや確かに世界の名前が『地球』はおかしいよな。

 どうやら等区画じゃないみたいで、地球は他の倍くらいの大きさだ。


「地球は諸君らの生まれた星だ。ここに転生したい者も多いだろう?大サービスで倍の大きさにしてやったから感謝するんだな!」


 ファンキー管理者がそう言った後、地球のマスだけ光り輝いて見やすくなった。



 俺は地球に良い思い出なんて何一つ無いから未練なんて無いようなもんだけど、大半の人はまた地球に生まれたいだろうからな・・・。

 このファンキーな神様にも、一応慈悲の心があるみたいだ。


 ・・・しかしマス目が多すぎる。


 地球のマスはたしかに倍の大きさなのだろうけど、たぶんこれ100マスとかあるぞ?その一つ一つが違う世界ってことだろ?地球に転生できる奴って単純に1000人中20人くらいやん。エグイ確率だな、オイ!!


 ガラの悪い50歳くらいのおっさんのすぐ手前の地面から、太さ20㎝くらいの台がせり上がって腰の高さで止まった。上部に大きなボタンが一つ付いている。



「説明するぞ。目の前のボタンを押すとルーレットが回り出す。そしてボタンが光ったら10秒以内にもう一度ボタンを押してストップさせろ。10秒経過しても勝手に止まるが、自分の運命を自分で掴み取りたいならば、気合を入れてボタンを叩け!」


「な、なるほど・・・。このボタンを押すタイミングで俺の運命が決まるってわけか。こりゃあ相当気合を入れねえとな!」


 そう言った直後、おっさんが勢い良くボタンを叩いた。



 パーーーン!



 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッピッピッピッピッピピピピピピピピピピ!



 ルーレット本体が回るのではなく、その外側に付いているランプが『ピッ』という音と共に右へ右へと時計回りにグルグル回り始めた。おそらくあのランプが最後に止まった場所が転生先となるのだろう。


 しかしガラの悪いおっさんすげえな!躊躇なくボタンを叩きやがった。



 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ



 おっさんの目の前にあるボタンが光った。

 たしか10秒以内に停止させなきゃ勝手に止まってしまうって言ってたな。


「ここだあ!!」


 パーーーーーン!


 ガラの悪いおっさんがボタンを力いっぱいぶっ叩いた。



 おい、ボタン壊れるぞ!?


 ファンキー神様を見てみたけど、それは別に気にしていないようだ。



 ピピピピピピピピピピピッピッピッピッピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ



 回転がどんどんゆっくりになって行き、とうとうその瞬間が訪れた。



 【 地球 】



「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 マジかよ!このおっさん、いきなり地球を当てやがった!!


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 当然後ろで見ていたギャラリー達も、これには大歓声だ。



「ほお~、やるじゃねえか!じゃあ次行くぞ。国ルーレットだ!」


 ファンキー神様が指をパチンと鳴らすと、世界ルーレットの右隣にもう一つルーレットが出現した。

 そして世界ルーレットの方を見ると、いつの間にかその上に液晶パネルらしきモノが出現しており、それにはガラの悪いおっさんが当てた『地球』と表示されていた。


「もう説明はいらねえな?やることはさっきと同じだ」


「国か~、まあ地球上ならどこに生まれようが何とかなるだろ!」


 パーーーン!


 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッピッピッピッピッピピピピピピピピピピ!


 いやいやいやいや!中東とかの治安の悪い国に生まれたらキツイだろ!!

 おっさん!少しくらい考えてから始めろや!


「オラァ!」


 ピピピピピピピピピピピッピッピッピッピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ



 【 日本 】



「ハイきたああああああああああああ!!」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」



 このおっさんマジか!!どんな豪運の持ち主なんだよ!?

 ファンキー神様と見ると、すんごくつまらなそうな顔をしていた。


「思った以上にやるじゃねえか。じゃあ次は地域ルーレットだ」


 指をパチンを鳴らすと、国ルーレットの右隣にもう一つルーレットが出現した。


 見ると、47都道府県のマスがあり、小さな島とかは無いようだ。



「変な島とかはねえのか。これならどこでもいいな!」


 ガラの悪いおっさんは躊躇いもなくボタンを叩いた。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッピッピッピッピッピピピピピピピピピピ!


「ほいっ!」


 ピピピピピピピピピピピッピッピッピッピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ



 【 北海道 】



「「ほ~~~~~~~~~~~~!」」


「いいねえ!なんか俺死ぬほど運良くね?もう死んでるけどな!ワッハッハッハ!」


 いや、良すぎだろ。羨ましいの極致だわ!!しかもなんか調子に乗ってるし。こういうのを見ていると、どこかで大ハズレを引いて欲しい感情が芽生えて来る・・・。


 いや、この感情はダメだ。ムカツクおっさんでも応援してやらんとな。



「ここまでは完璧だが、大事なのは次だぞ!一番重要な生物ルーレットだ!!」


 ファンキー神様が指をパチンと鳴らすと、次のルーレットが出現した。



 ・・・・・・なんかマス目の数が多すぎて、まったく文字が読めないんですけど?



「文字が見えねえってか?安心しろ!どういうラインナップか、上のパネルで見せてやる」


 すると上のパネルにルーレットがアップで表示され、近付いて行く感じで少しずつ拡大されながら文字が読めるようになった。そして画面が少しずつ横へ横へと移動して行く。


 ・犬

 ・バッタ

 ・熊

 ・海老

 ・ミミズ

 ・蝶


 おい!当たりはどこにあるんだよ!?


 ・蚊

 ・キツネ

 ・鳩

 ・クワガタ

 ・人間


 あった!人間あった!!


 ・ウニ

 ・美少女(11)


「美少女ですって!?この(11)ってのは??」


 俺の近くにいたおばちゃんが、思わず美少女に飛びついた。


「それが大当たりの『記憶を保持したまま転生できる』って特典だ。その場合11歳の美少女だな。もちろん美少年も入ってるから自分の順番まで精々気合入れとけ!これはあくまでも大当たりだ。不細工などは入ってないから安心しろ!」


「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」


「え?でも戸籍とか家族とかは??」


「その辺はこっちで調整済みだから大丈夫だ。細かいことは転生後に伝える。そして人間とだけ表示されている方は、記憶の持ち越しはナシで普通に赤子として生まれる。あと、犬と表記されているモノなどは、どの犬種に生まれるかはランダムだ」


 なるほど・・・、深く考えずに喜んどけってことだな。


 アゲハチョウ・モンシロチョウみたいに細かく分類されていないのは、たぶんルーレットに収まりきらないからランダムにしたような気がする。



「説明はここまでだ!山田健次、ルーレットを再開するぞ」


「ん?ああ、まだ途中だったか。にしても動物とか虫ばっかじゃねえか!でも俺の運なら楽勝だろ!」


 ガラの悪いおっさんがギャラリーの方を振り返り、拳を突き上げた。


「必ず特典を当ててやっからな。最低でも人間だ!後ろで俺の雄姿を目に焼き付けろ!絶対に俺は勝ーーーーーつ!!」



 パーーーーーン!


 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッピッピッピッピッピピピピピピピピピピ!


「ふーーーーーーーっ!オラッ、特典来いやーーーーーッッッ!!」


 パーーーーーーーン!


 ピピピピピピピピピピピッピッピッピッピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ


 すげえ気合だ・・・。なんかこのおっさんなら、大物を当てそうな気がしてきた。



 ピッ、ピッ、ピッ、ピンッ!




 【 フナムシ 】




「「・・・・・・・・・・・・」」



 ブホッ!



「はい、フナムシ来たーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」



 ファンキー神様が『フナムシ』を見て噴き出した後、満面の笑みでそう叫んだ。



「ま、待ってくれ!!今のはナシ!もう一回、もう一回だけやらせてくれ!!」


 ガラの悪いおっさんが最悪の結果に納得が行かず、慈悲を乞っている。



「実に見苦しい。ルーレットにやり直しなど無い!お前は浜辺でカサカサしてろ!」


 その言い放った直後、ガラの悪いおっさんの足下がパカッと開いた。



「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁァァァァッッッ!」



 おっさんは悲鳴と共に穴の底へ落ちて行った。

 そして何事も無かったかのように地面は元に戻る。




 ・・・・・・・・・これは酷い。






 ※フナムシがわからない人は画像検索してみて下さい。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る