第23話「現状整理と、当面のインターネット構築戦略(1)」


 気分転換で出かけたはずが、ヴィッテのおかげで思わぬヒントが見つかった。一部始終を見ていたスライも「冒険者を最初のターゲットに」という私の案に大賛成!


 というわけで帰宅後、私とスライは今後のスラピュータ計画プロジェクトについて話し合うことにした。

 ちなみにヴィッテは2階のベッドにて恒例のお昼寝タイムだ。




・・・・

>現在の計画プロジェクトは、スラピュータが完成し、準備が完了した段階です。

>次の段階として『インターネット構築の戦略調整』を提案します。

>今後本格的に構築を開始するにあたり、現段階での調整実行による利点は多大と考えます。

・・・・


 まずはスライが話し合いの口火を切った。


「戦略の調整かぁ……どういう感じに調整したいの?」


・・・・

>当面の計画プロジェクトの方向性は、『冒険者へのインターネット普及』という形で決定しました。

>ですが現在の戦略は、対象として “一般的なヒト” を想定した内容に過ぎません。

>これを『冒険者向けに特化した戦略』へ更新する事により、成功率を上昇できると考えます。

・・・・


 うんうん。そういう調整は必要だよね。

 せっかくターゲットも決まったことだし! 




「それじゃスライ、どうやって調整する?」


・・・・

>実際の調整を行う前に、前提として『現状の整理』を実行してはいかがでしょうか?

>この実行により、戦略を的確に調整しやすくなると考えます。

・・・・


 確かに状況も変わったから、この辺りでいったんまとめとくのも悪くないかも。


「ならまずはスラピュータについてまとめる形でいいかな?」


・・・・・・・・・・

>問題ありません。

>スラピュータこそが今後のインターネット構築の要であり、我々の計画プロジェクトの柱と断言できることから、関連情報整理の重要度は高いと考えます。

・・・・・・・・・・


 さっそく2人で状況をまとめつつ、資料として紙に書き出していく。





 対外的には “端末コンピュータとして使える魔導具” であるスラピュータ。


 だけど実際は “魔物スライムが隠れるための魔導具” ってのは私たちだけの秘密。スライム分裂体のみんなには「互いに知識や記憶を共有できる」という特性を活かし、端末コンピュータとして働いてもらう予定なんだ。


 現在、一般に流通可能な製品として完成済なのは『スマホ型』のみ。試しに作ってみた他の形状――タブレット型やパソコン型など――は試作状態のまま放置中……まぁ機会が来るまでは保留ってことで。


 完成したスマホ型の見た目は『金属枠&魔石つきの青ガラス板』。一見するとステータスウィンドウっぽさもあるし、シンプルなアート作品っぽいおしゃれ感も兼ね備えてるあたり、個人的にはすごく気に入ってるんだ!




 そんな現在のスラピュータの “主な機能” がこちら。


・・・・

1、文字の表示

 スラピュータに話しかけるか、何かの文字列を見せると、その内容を文字表示する機能。いわゆる『音声入力』『文字認識入力』ができる仕様だね。


2、文字の記憶

 入力した文字を記憶し、好きな時に呼び出せる、メモ帳アプリ的な機能。


3、スラピュータとの会話

 話しかけると、スラピュータが『AI』的に文字で返事をする機能。まぁつまり “スライの分裂体との会話” だ。スライと相談して、会話内容は当たり障りのないものだけになる予定。


4、離れた端末同士での通信

 音声入力の文字チャット的な機能。ひとまず『グループチャット(複数人)』と『個人チャット(1対1)』の一般的な表示形式フォーマットは用意しておいた。何回もテストを繰り返して調整した結果、すごく良い感じに通信できるようになったと思う!


5、通信受信時の音通知

 通信が届いた時に気づけるよう、音でお知らせする機能。これがあると便利具合が段違いなんだよね。

・・・・


 他にも、派生的に追加可能な機能スライムができることはいっぱいありそう。この辺りは様子を見ながら、スライやヴィッテと相談しつつ追加していくつもりだ。




 現在のスラピュータは、私の知ってるスマホとはまた違う。

 だけどインターネットを構築できるだけの機能はあると思うし、だいぶいい感じなんじゃないかな!





 ***





 その後もスライと私で現状持っている様々な情報を整理。

 途中からはお昼寝から起きたヴィッテも加わり、さらに話を進めていく。




「……ふぅ、ひととおり大事な情報はまとまった気がする」


・・・・

>同意。

>これだけ整理できれば十分と考えます。

・・・・


「このつぎは、“せんりゃく の ちょーせい” っていうのを するのよね?」


・・・・

>その通りです、ヴィテッロ様。

>手順としましては、『当面の目的』を明確化した上で、目的達成までの戦略に関する皆の意見を交換。その内容をふまえて戦略の調整を行う形を想定しています。

・・・・


「もくてき? そんなの かんがえなくても きまってるわ! インターネットを つくって、『あたしの 理想りそーの ステキな おうち』と、『いなくなった おやつ係』を さがしあてることよっ」




 自信満々なヴィッテの言葉に、私とスライは思わず顔を見合わせる。




・・・・

>……ヴィテッロ様。

>それは『スラピュータ計画プロジェクト』自体の目的となる項目であり、今回の戦略にて達成すべき目的とは異なります。

・・・・


「え? もくてきは もくてきでしょ?」


 きょとんとするヴィッテ。


「あのね、最終的には確かにヴィッテちゃんの言う通り、インターネットを広めて、ヴィッテちゃんのおうちや、1人目のおやつ係を探し出したいとは思ってる……だけどいきなりの実現は難しいんだ」

「それは しょうがないわ。あたしも いままで スライと いっしょに いろんな クニを さがしたけれど、おうちも おやつ係も 見つからないもの」


「ってなわけで今は、実現しやすい “小さな目的” を作って達成していこうって段階なんだ!」

「ちいさな もくてき??」

「例えば、今の当面の目的は『エイバスの冒険者たちにインターネットを広めること』、これが “小さな目的” だね。こういう小さな目的を順番に達成することで、最終的に “大きな目的” の達成を目指すつもりだよ」




 …………見える。


 ヴィッテの頭上に「???」大量の疑問符が見えるぞ……。



 ここは、説明の切り口を変えたほうがよさそうだな。






「……ねぇヴィッテちゃん。ここに階段があるよね」


 私が指さしたのは手近な階段。

 1階と2階を結ぶ、何の変哲もない一般的な木製階段だ。



「いま私たちは1階にいるわけだけど、ヴィッテちゃんは “1歩” でいきなり2階に上がれる?」

「えっ むりッ! マキリは?」

「私も1歩じゃ無理かなぁ……」



 我が家の階段は14段。

 高さにして2mちょっと。

 で上がり切るなんて、常人にはまず無理だよね。




「じゃあヴィッテちゃん。もし『1歩じゃなくてもいいよ』ってなったら、どうやって2階に上がるかな?」

「かんたんよ! 1ダンずつ じゅんばんに のぼれば いいんだもの」

「そうだね。小さな目的と大きな目的もそれと同じなんだ」

「同じって?」


「ほんとは世界中にネットを広めたいけど……2階に上がるのと同じでいきなりは無理でしょ? だからまずは実現可能な “1歩目” として、エイバスの冒険者の人たちに限定してネットを広めたいと思ってる。これが1つめの “小さな目的” だよ」


 私は説明に合わせ、ゆっくりと階段を登り始めた。


「で、こんな感じで1段目に登り終えたら、ここから1段ずつ階段を上がるみたいに、ちょっとずつ、ちょっとずつ範囲を広げて、色んな人にネットを広めていく……そういう “小さな目的” の達成を繰り返していけば……いつかは2階、つまり “大きな目的” である『インターネットの普及』とか、『おうちや、おやつ係の発見』にたどり着けるんじゃないかって考えてるんだ」



 2階まで登り終えたところで、ふと階下を振り返る。

 キラキラと希望に満ちたヴィッテの瞳が、真っすぐに私のことを見つめていた。



「……それじゃあ戦略調整はじめよっか!」


 私が声をかけると、ヴィッテもスライも大きくうなずいたのだった。

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