第19話「プロトタイプを、テストする(1)」
待ちに待った試作スラピュータを受け取れたのは、発注から5日後のこと。その日のうちにスライとヴィッテと私とでテストをしてみることに決めた。
テスト場所はいつもの我が家の1階の食卓。
せっかくなので私が準備をする間、ヴィッテには背を向けて待っていてもらう。
「もう いいかしら?」
「まぁだだよー」
ヴィッテはおとなしく待ちつつも、そわそわ間を空けずに声をかけてくる。
よっぽど待ちきれないんだろうねぇ。
「……ねぇ、もう いい?」
「ま~だだよ!」
「…………もう いいわよね??」
「まだまだ」
「うぅ~…………もう、いい?」
「……いいよ!」
私の合図でパッと振り返るヴィッテ。
期待に満ちた顔が、一瞬にして輝いた。
食卓の上にはたくさんの試作品が並んでいたのだ。
「わぁぁ~~っ!!! ……すごぉいっ、あたしの イメージどおりだわ!」
歓声とともに駆け寄ったヴィッテは、試作品の1つを迷わず手に取るや否や、発注資料に付けたイメージイラストと比べ始めた。
試作第1弾として今回作ってもらったスラピュータは全部で11個、大きく分けると4タイプだ。
7個は、スマホサイズのシンプルな小型タイプ。
見た目だけならスマホそのものと言っていい。スマホとの主な違いは、液晶画面にあたる部分が透明になっていることと、下のほうに蓋と魔石がついていること、内部が空洞になっていること。スライが隠れられるギリギリの大きさの空洞はキープしつつ、ちょっとずつ大きさ・厚さ・素材・加工などを変えてある。
1個は、タブレットサイズの中型タイプ。
構造はスマホタイプとほぼ同じで、違いといえばサイズだけ。ひとまず最初は10インチ画面ぐらいのサイズで作ってもらった。テーブルとかに置きやすいよう、試しにつけてもらった折り畳みスタンドもいい感じ!
2個は、据え置きディスプレイ系の大型タイプ。
薄型モニターみたいな形の物と、レトロなブラウン管テレビっぽい形の物が1つずつ。
最後の1個は、現在ヴィッテが持っている小さなショルダーバッグタイプ。
スライがちょうど入るサイズの丸っこいバッグは裏側が透明になっていて、両サイドには肩から下げるためのショルダーベルトがついている。
実はこのバッグタイプは、唯一、ヴィッテが自分用に考えた試作品なんだ。
もちろん私もデザインについてアドバイスしたり、ショルダーベルトの長さを決めたりとかちょっとだけ手伝ったよ。だけど発案からイメージイラスト作りまで、ほとんどヴィッテが1人でやり遂げたと言っていい。
私とスライは自分の作業のかたわらで、がんばる彼女を見守り続けていた。
「ねぇねぇ、どう? にあうかしら??」
早速ショルダーバッグ型の試作品を肩から斜め掛けしたヴィッテが、こちらに見せるようにゆっくりと回る。
「うん! とてもいいと思う!」
・・・・
>非常に調和しています。
>流石はヴィテッロ様ですね。
・・・・
口々にほめられたヴィッテが、うれしそうにくるくるはしゃぐ。
その無邪気な笑顔は、こぼれそうなほど達成感に満ちあふれているように思えた。
***
ヴィッテのお披露目がひと段落したところで、ようやく試作品のテストを開始。
手始めに試作品の台数分だけ分裂したスライには、実際に内部へと隠れてもらった。ただしヴィッテ考案のショルダーバッグタイプだけは『スライ専用』とのことで、こちらには分裂体じゃなくスライ
……よし。
全スライム、試作品に隠れ終わったみたいだね。
「ヴィッテちゃん、鍵をかけるの手伝ってくれるかな?」
「もちろん やるわ!」
「じゃこれが『スラピュータの鍵』だよ」
「わわ、かっわいい~♪」
私が
せっかくだから小さな赤い魔石を活かしてアクセサリーっぽいデザインの鍵にしたところ、ヴィッテも気に入ってくれたみたいだね。
このあたりの仕様は、ヴィッテが寝た後に私とスライで話し合って決めたものだ。まぁまだ仮仕様だし、このあとどう変わるか分からないけど。
「それで どうすればいいのかしら?」
「スラピュータには鍵と同じ形の穴が空いてるんだ。そこにこれを差し込んで回すだけでOKだよ」
「かんたんそうね。やってみるわっ」
左手で鍵を持ったヴィッテが、もう片方の手でスマホ型スラピュータの1つを取った。
「ええっと……あ、ここに させばいいのね」
スラピュータの下部には鍵と同じく赤い魔石がついていて、鍵穴はその隣。
早速ヴィッテが鍵を差し込み、90度回した瞬間。
――ほわん、ほわん……
赤い光が淡く瞬きはじめる。
そして魔法陣が優しく浮かび上がったかと思うと、光と一緒にスラピュータへと吸い込まれていった。
「…………きれい」
突然のイリュージョンに目を奪われたらしいヴィッテ。
光が消えて元通りになったあとも、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「ヴィッテちゃん、これで施錠は完了だよ」
頃合いを見計らって声をかける。
「そうなの?」
「開くかどうか試してごらん」
「……ほんとだわ、ぜんぜん あかない」
「じゃ全部のスラピュータに鍵をかけちゃおっか」
「まかせてちょうだい!」
***
それからみんなで協力しながら、ひたすら試作スラピュータを使いまくった。
実際にスライムが入った状態での文字表示、1階と2階に分かれての通信検証など、色々とテストするうち問題点が見え始めてきたんだ。
問題点その1。
通知機能が何も無いから、メッセージを受信しても気づけない。
もちろん画面を見ていれば文字が表示されたのが分かる。だけどメッセージが来るまでずっと画面を見つめてるわけにはいかないよね。
スマホみたいに “音や振動での通知機能” を追加したほうが良さそう。
ってことで相談した結果、内側に『押すと音が鳴るギミック』をつけて、メッセージが来たら中に隠れてるスライムが手動で音を出せばいいんじゃないかという結論に。
細かい仕組みは、魔導具工房の店員と打ち合わせて決めようと思う。
問題点その2。
中から開錠できないから、施錠しちゃうとスライムが自力で外に出られない。
まぁ出られなくても基本は問題ないっちゃないんだけど、ヴィッテが使う予定の機種だけは話が別だ。スライいわく「このままでは万が一の際、私がヴィテッロ様を守護できません。非常に危機感を覚えています」とのこと。
スライの強い希望により、少なくとも “ショルダーバッグ型のスライ専用機” だけは、内側からも開錠できる仕様の鍵穴にしてもらうことになった。
そして問題点その3は……。
「……文字、読みづらッ!!」
元々は自然に読めていたはずの表示文字が、スラピュータ越しになった途端、一転して読みづらくなってしまったのだ。
そもそもスライが体に表示する文字は、色や太さやフォントなど全てが “スライムの体へ表示前提の文字” になっている。
なめらかな独特の質感を持つスライムの体の色は、うっすら青みがかった半透明だ。元々の状態だと体にある程度の厚みがあるから、文字を表示すると『つるんとした色付きフルーツゼリーの表面に、文字が印刷された状態』といえば伝わるかな?
それが金属製の薄型スラピュータに入った途端、スライムの体が薄く引き伸ばされた上に、素材の金属が透けて見えるものだから、表示環境が変わって文字が読みづらくなったというわけ。
ただし試作品の中でも厚みをキープできるタイプ――レトロブラウン管テレビ型、ヴィッテのショルダーバッグ型――の表示文字は割と読みやすいので、このままでも良さそうだけど。
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